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十一話




 寮に帰ったが、何も手につかない。何もしようと思えない。


 俺にとってホリィとはそこまで大きな存在だったのだろう。

 何かを考えてはホリィの事に戻り。何かあればこの事をホリィに教えてあげよう、なんて考えてしまいまた凹む、何度も何度も繰り返しいつの間にか寝ていた。夢の中であれが実は、夢だったという夢を見て心底から安堵した。あー良かった、と。


 そして目覚めて現実と夢の堺が曖昧になり、意識が覚醒する程に現実を思い出し、また胃袋に土嚢袋が詰まる。


 幸いにも今日は休日だし部活動もない、どうにか気分を変えようと街へ繰り出す。

  

 何気ない風景を見ながら、少し気分が落ち着くが、そんなものは一瞬だ。すぐにまた思い出して土嚢ちゃんが戻ってくる。さっきよりさらに重くなって、まるで内蔵を押し潰すようにだ……


 どうにかしたいと更にぶらつき、ふとある言葉を思い出す。誰が言ったのかは覚えていない。


(本には先人の知恵が詰まっている)


 その言葉が、まるで暗闇に射した一筋の光のように感じられた。俺は石畳にヒビが入るほどに踏み込み本屋へと向かった。


 本屋に着くと俺は一度大きく深呼吸し、入店。

 本屋の中は、広々としており、お店の中全体が紙の匂いで一杯だった。辺りを見回し目当てのジャンルを探す。お目当ての恋愛系の物はすぐに見つかった。


・失恋後に読む本

・失恋したら始めよう

・誰だって失恋する

・失恋を忘れる方法


 それらは大量にあった、想像したよりずっと多かった。やはりみんな恋愛に敗れ、心張り裂ける思いをしているんだな……


 そしてそんな本は沢山売れるんだろうな……



 そんな本たちのすぐ横には、まるで残酷なコントラストのように、このような本がたくさん並べられていた……


・好きな人と結ばれたら

・初めてのデートはどこへ?

・結婚までの道のり

・大好きの伝え方


 皮肉が効きすぎだよ。


 店員さん、失恋者を舐めてんのか? なんで地獄の真横に天国を用意すんの? みんな心張り裂けそうな極限の状態でここにたどり着いてんだよね?


 それとも、あれか? この絶体絶命の危機を乗り越えて、ここまで辿り着けって励ましのメッセージなの? ちょっとスパルタが過ぎない?



 俺は、その中から一冊の本を手に取った。”恋を忘れる方法”というタイトルだ。


 中をパラーっとめくり軽く目を通しそれに決め購入した。


 タイトルが目についたというのもあるし、二巻三巻と出ているので人気があるのだろうって簡単な理由だ。まずこれを読んでみて良ければまた二巻三巻を買えばいい。

 


 今はこんな希望にもすがりたいのだ。


――



 外で軽く夕食を済ませ、リラックスした状態で本を読み始める。

 色々な人の実体験とそれを乗り越えた方法を紹介しいる本だ。


 少し読み始めると沢山の人たちが恋に敗れ、その苦しみを乗り越えていく様を垣間見る事ができた。


 本当にたくさんの人たちが、恋に悩み苦しんで、それでも、それでも前を向いて生きていることをしった。


 あぁ同志たちよ……


 

 だが、同志たちはもうその恐るべき苦境を既に乗り越えて行ったのですね? 俺も越えられるでしょうか?


 いや、越えなくちゃいけないよな……


 


 最後の一ページを読み終え、あとがきに励ましのメッセージが書かれていた。




 ”恋の相手は星の数ほどいるとは言うが、その星の数ほどの中から見つけた相手なのだからそう簡単には乗り越えられないだろう。だが、本書の中で様々な方法を紹介しました。それらを全て実践し、実践し終わるころには何か見えてくるのではないでしょうか? あなたらきっとこの壁すら越えていけますよ”



 ……そっか、そうだよな。


 めちゃくちゃきついけど、なんかしてないと気が狂いそうだし。動いて見るか!



 そう意気込むと少し気分もあがり、試せそうなものをいくつか実践してみようと心に決めたのである。




――




 ……心に決めたのである。とか言っといてそれから何度も気分が乱高下してメンタルボロボロ。


 え? あのままポジティブに変わってこの地獄を乗り越える流れじゃないの? え? これ繰り返すの?


 えぐいよぉおおー昨日は本読んで元気でたのに、えぐいよぉおおー。


 だけど今日は学校だし、いかねばならない。


 ホリィに会わないといけないし、ボケ二人にも会わないといけない。


 俺は重すぎる足を一歩一歩進め、寮を出て学校へと向かい始めた。

 快晴なのに、全然気は晴れない……



 登校中ふと気づく。今日は魔歴の仕事がないからいいが、そんなのいつまでも続かない。てか、魔歴ってこのままでいいのか? 俺のあの至福の時間もなくなるわけだよね? だって彼氏がいるのにあんなに仲良くするのは流石にねぇ……


 ……うっっわーそんな事まで考えてなかった。そうだよな、そうだよ。ああいう時間もなくなっちゃうんだ。流石に学校の係がなくなるわけじゃないけど、あの至福のひと時も終わりなんだ、他愛のない事で笑って、俺の袖をチョンと握って一緒に歩く大切なあの時間……



 うぇええ……



 俺は両足に亡者を何千人も引き連れつつ学校に到着した。いつもなら軽い教室のドアもドラゴンでも乗ってんのか?って重さだった。



 教室内を見回す。……良かった……まだホリィは来ていない。そう安堵し、席に着く。


 同時に()()の本が置かれていることに気付く。


 はてなマークを浮かべながら本を手に取り、タイトルを見る……


 ”恋を忘れる方法 二巻”

 ”恋を忘れる方法 三巻”


 

 ……


 ……あーはいはい、はいはい。そうね、そういうことね。


 はいはい。わかりました、わかりましたよ、あいつらだろ。はいはい。



 ――廊下を見ると、腹を抱え倒れながら爆笑する二人がいた。


 抱腹絶倒……それはもうぉ……豪快に大爆笑。


 あ、人間ってこんなに爆笑できるんだ? すげーな

、なにがそんなにおもしろいの?ってレベルだ。


 プッ……


 もはや怒りを通り越して逆に笑ってしまっている。



 あの本には、友人と楽しい事をして過ごす。友人と大笑いする。なんてことも書かれていたけど。

 

 ……これ一応実践したことになんの?


 俺はこれ以上ほっておいたら、笑いすぎで窒息してしまうであろうバカ二人の所まで、本を持って歩いて行った。


「んで、これなに? まぁ想像つくけどさ……」


 すると。うざい程どやるリテ。


「本にはよ先人の知恵が満載だろ? だからジーグにプレゼント」


 続いて、気持ち悪いサムズアップをするターチスさん。



「おう、ジーグこれでも読んで元気出せよ。んで一緒に部活で発散しようぜ。ターチス先輩がついてるからよ」


 もう全て理解しているが、一応聞いてみる俺。


「……なんで二巻からスタートなんだよ。普通一巻から買うだろう」



「「ぎゃっはっは」」


 うぜぇ……


「笑ってごまかすんじゃねーよ。はぁーほんとにお前らは……」

「おいおい、ターチス先輩様に向かってお前らはねーだろうよ。なぁターチス」


「もういい……部活以外ではもういい。もうこんな奴に敬語使う気にならん。いいだろう、()()()()


 ちょっとの付き合いではあるが、ターチスはそういうのは望んでいないであろうことはわかっていた。

 むしろこの方が嬉しいと思う。

 


「……構わん。おれは元から敬語なんてどうでもいいからな。部活中だけ気を付けてくれれば問題ねーよ」


 

「どうも」

「そうかそうか。これで新たなチーム結成だな! 名前はまた考えるとして……あとはホリィも呼んで――」

「おおーい! ホリィはいいだろうホリィはぁ!」


「「かっかっか」」


 バカ二人が、めちゃくちゃ爆笑するから、それを見て……


 不覚にも元気が出てしまった……


 辛くても、笑いたくなくても、笑う元気すらなく空元気でも、笑顔になると脳みそが勘違いして楽になるらしい。

 現に、バカ二人と笑っていると心が軽くなっている。少し楽になっているのだ。


 絶対に気を使ったわけじゃないだろうけど。少しだけ感謝してもいいかもな……


 買う予定だった本も貰っちゃったし。



「でも、リテは俺がホリィに惚れてる所を観察するのが目的だったのに、それが終わっちゃっていいのか?」


「あ、あー大丈夫だよ。()()()


「え? まだって。もうホリィにはトモエイル君が――」

「とにかくいいんだよ! んじゃターチスまた放課後な! 授業が始まる前に便所いってくるぜ!」


「おう、気張って来いよ! またな」



「……」



 はぁー……俺も席に着くか――


 数舜の間、好きな人に彼氏ができてしまったという事実を忘れていた、忘れられていた。

 だけど、どんなに忘れいようが、ホリィに彼氏ができたという事実は消えないのだ。



 二人が一緒に登校してきた――


 肩がくっつきそうな程密着したホリィとトモエイル君を見て現実を思い出し……





 心臓が殴られたようにドンドンと鼓動し始めた――









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