一話
「最初はグー……」
教室のざわめきが一瞬静まって、皆がこのじゃんけんを見守っていた。
――
ゴードゥ魔法学園――世界中の優秀な学生が集まる世界でもトップクラスの学園。
高く聳える尖塔は、青く澄んだ空を突き刺すように立ち、歴史と伝統を感じさせる重厚な石壁は、長年ここで学び巣立っていったであろう無数の学生たちの記憶を 刻んで……ってそんなことはどうでもいい。
俺はそんな学園に今年入学したジーグ・グリナス十七歳。二年間みっちり学び卒業後はどっかの宮廷魔術師とかになれたらいいなぁと考えているどこにでもいる拗らせ男子。今日も邪神が封じられていない右腕が痛むが、元気に頑張っている。拗らせ気味だが、俺はちゃんと実力も伴っている系のお馬鹿さんである。
自意識過剰ではなく上の下、この学園を卒業するころには上の中位にはなれる程の力はある。
だけど、そこまで、それ以上はない。
身の程を知っている。最強ではないこと、なれないであろうことを――
これまでに何度か世界最強レベルの人間と会っている。冒険者序列上位の人間。近衛騎士団。賢者。剣闘士。その時気付いた。あれは桁違い、化け物、枠外、だと。まあ例外を除けば、普通の人間の中で俺は滅茶苦茶強い部類には入る。
それに俺は頭も良いし魔法も得意。ゴードゥ魔法学園は文武魔のどれか一つにでも特別秀でていれば入ることも可能。しかし、その全てが秀でおり、特進クラスに所属している。
俺の頭脳に宿っていない、知天使のお蔭かな?
俺の紹介はここまでにして。親の仇でも見るかの如く強い目線を向けている先、その先には三人の女子がじゃんけんをしている。
教室の窓から差し込む陽光が、ある一人の女生徒を照らしているように見える。
現在このクラスでは、学習係なるものを決めている。要するに各教科の先生のお手伝いさんだ。
男女ペアでなるが俺はすでに魔法歴史係になっている。今は女子の番。候補者は三人。
(ホリィ勝て……ホリィ勝て……よっし! 決勝! あと一回……あと一回……ホリィ勝て……)
「……じゃあ、女子の魔法歴史係はホリィさんね」
パートナーはホリィと呼ばれる女性に決まった。
ただの係決め、されど係決め。
この先の人生を大きく変える係決めはこうして幕を閉じだ。
(よっしゃー! おらぁあああ! ホリィが勝ったぞぉ!)
……ってあれ? 今……なんで俺、ホリィさんに勝って欲しかったんだ?
なんで、一緒の係になりたかったんだ?
散々ホリィを応援していたのに、自分がなぜホリィを、始めて会ったホリィを応援していたのか、なぜ一緒の係になりたいと思ったのか。まだその感情に気付いていなかった。
(んん? なにこの感情……今日初めて会ったのに……どうしてこんなに一緒になりたかった?)
ようやく、自身の不可解な行動に疑問を持った。意識を集中し、自問自答。
思考の底に沈む。落ち着いてゆっくり考えよう。
(……完全に無意識だった――純粋に勝って欲しくて……ただただ、一緒になりたかった……)
そうして、紡がれていく、導き出されていく答え――
(あれ? あれれれ? これってあれか? あれなの?)
その名は!
(え? これ一目惚れってやつ!?)
正解!!
完全なる一目惚れ。恋はするものじゃなく落ちるもの。を真っ当に体現したジーグ・グリナス。
俺の波乱万丈な学園生活は今より始まる。
――
「ジーグ君だよね? 私ホリィ・ランセル、同じ係だね。これからよろしく。……気軽にホリィって呼んでくれると嬉しいな……」
(……うん、これ一目惚れ……一目見て、完全無意識に持ってかれてたわ――俺のハート。だって、めっちゃ可愛いもん、めっちゃ可愛い、めぇえっちゃ可愛い……今まで、ロングヘア一がいいと思ってたけど、ショート最高。色白で、背は普通位、そして適度な大きさ……まじ、可愛い……)
教室のドアが開き、少しの風が吹いたことによって落ち着きを取り戻したが、恋を見つけた男子なんてこんなものだろう?
「うん、よろしく。俺はジーグ・グリナス。みんなはジーグって呼んでくれてるから、ホリィも嫌じゃなかったらそう呼んで」
精一杯、笑顔で、感じが良く、さわやかに――
好きな女子の前でカッコつけたいのは誰しも同じ、ここは致し方ない事だろう。
「うん! そっか、みんなはジーグって呼ぶんだね? んー……なら私だけは、特別にジーグゥーって呼んでいい?」
ホリィの瞳は少しイタズラっ子のように見えた。だがホリィの言葉は俺の奥深くに突き刺さった。
(私だけ? 特別に?……なにそれ、可愛い)
自身の感情に気付いた俺の暴走は止まらない。ホリィの全ての行動が美しく見えるのだ。全肯定!
「……うん、いいよ」
出会って数分。だが俺の感情は最早爆発寸前だった。だがしかしそこは抑えクールに反応する。
「やったぁー! ジーグゥー。ジーグゥー、えへ……すぐに仲良し友達できちゃった……」
(グフッ……)
破壊力抜群……だけど、ホリィってもしかして……
俺の心の中で、一つ の 小さな 疑問の光が点滅し始めた。
その光は大きくなり輪郭を持ち始めた。なにかを閃きそうになったが、答えは閃く前にわかった。周囲の女子の声が聞こえて来たのだ。
ヒソヒソ
(ねぇねぇ、あのホリィって子めっちゃ可愛いけどさぁ、かなりぶりっ子じゃない?)
(わかるぅ! かなりぶりってるよね? てかあんなに首曲がるかね? 普通さぁ、”えへ”とか使う?)
(そうそう! ”えへ”なんて単語使ったことないし、今後も使う予定ないわぁ)
(あぁーね……うんうん……ですよねぇ……ぶりっ子って奴ですよねぇ……)
……
……
俺は最早爆発した心臓はほっておいて、感情をグッと押さえつけた。
(ま……まぁいいや……だって、一目惚れした娘がたまたまぶりっ子だったんだ。仕方ないじゃないか! 本当にもうマジで好きになってる。自分でもビビるくらい、もう普通に好き、さっきから目が離せない。本当に好き――)
誰に対する弁解なのか、一通り心の中で喚き散らして、心を落ち着かせる。
だけど、ホリィはそんな俺をほっておいてはくれない。
「んじゃ、今日から魔法歴史係、改めチーム”魔歴”結成だね」
「うっ……うん、チーム魔歴ね……」
「あー! ジーグゥー微妙な反応してるぅ。ホリィのネーミングセンスが嫌いなんだぁ。えーんえーん」
ホリィは小さな子供のように頬を膨らませ、大きな瞳に涙をほんの少し浮かべそうになりながら浮かばない目を俺に向ける。チラッと周りを見ると数人の生徒達の視線が俺たちに集まっている。ホリィ目立つもん……可愛いし、ぶりってるから……
というか、魔歴? うん、ちょっとダサい。でもホリィは可愛い……可愛い。だけど、やっぱりぶりっ子。語尾がなぜに小さくなる? その泣きまね、そしてその大袈裟な反応……だけど可愛いわぁ。えへ……
……
「ぜ、全然嫌じゃないよ! わーい嬉しいな! 魔歴結成!」
「ジー……本当かなぁ?」
視線を擬音で表すとは……でも、その綺麗な目で見つめられると……ずっと見ていたいけど、まだそんな勇気はなくて、だけど――
視線をずらしては合わせて、でもやっぱりって何回もなっていた。
「ほ、本当だってば」
「よし、わかった。なら魔歴の隊長はジーグゥーに任せるね? 私は副隊長兼平隊員ね?」
「はいはい、わかったよ」
俺の返事が適当に感じたのだろう。ホリィは頬をわざとらしく膨らませ、床を足でバンッっと大げさに踏み鳴らし、腕を組んで抗議してきた。
「あぁーホリィの事馬鹿にしてるでしょ? ジーグゥーは意地悪ジーグゥーなんだぁ!」
うっ、ちょっとこのやり取りとか周りに見られるので恥ずかしいな。
でも、だけど、でも、胸が高鳴る、恥ずかしさもあるのに、ホリィと話すのが楽しい。
人を見る目なんてあるかわからないけど、ホリィはきっとぶりっ子だけの娘じゃない……
なんて言うか、芯の強さも感じるというか……なんというか
いや、やっぱりなしなし、そんな事会ったばっかりの俺にわかるわけない。
これから、沢山ホリィの事知っていこう。
知っていきたい
なにが好きで、何で心が満たされるのか、ホリィの思い出も、これからの事も全部知りたい。
そこに俺も入っていたい――
俺の心の奥底で小さな 願望の種が、静かに芽生え始めた。
……てか、マジで可愛いな
俺一目惚れでどんだけ惚れてんだよ。チョロすぎるだろ……
「ジーグゥー! ホリィの話聞いてないでしょ! プンプン!」
ぶりってるなぁ……
でも可愛い……
「また聞いてない! ぷんすかぷん!」
顔を横にブンブン振っていて、ショートカットの髪がわさわさなってるけど
……可愛い
はぁー入学早々、ぶりっ子天使に一目惚れしちゃったけどこの先どうなるのかなぁ
また連載を始めます。しっかり完結しますのでご安心ください。
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二十二時頃にもう一本投稿します!