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31 おじいちゃん大将軍


 翌朝。

 いつものように、ダイニングで父レナードと顔を合わせた。

 父上は後退しがちな灰色の髪を何度も撫でつけ、カラになったティーカップを幾度となく口に運んでは貧乏ゆすりを繰り返していた。

 少し落ち着け。

 朝食は落ち着いて食べるものだ。


「アレン、件の破砕装置だがな、軍の預かるところとなった。ピコリー君にはもっと安全な研究をするよう伝えておいてくれ」


 それが本題か?

 などと勘ぐりつつ、俺は目玉焼きにナイフを走らせ半熟とろとろの黄身をこんがり焼けたパンに垂らした。

 しかし、研究凍結ではなく、軍部預かりか。

 あれを使えば敵の要塞なんて砂上の楼閣だ。

 瓢箪から駒というか、父上は思わぬ拾い物をしたな。


「それから、お前のガールフレンドのワルイージュ嬢だがな」

「ガールフレンドではありませんが」


 即否定だ。

 間違われるだけでも胸糞悪い。

 ワルイージュは旧市街を壊滅させた容疑で拘留されていたが、なんだ?

 死刑判決でも出たのか。

 だとしたら、朝イチで素晴らしい朗報だ。

 公開処刑ならぜひ参列させてもらうとしよう。


「今日中にも釈放される予定だ」


 それを聞いて、俺はズッコケそうになった。


「地獄の沙汰もなんとやらだ。ワルイージュ中爵は実に金払いのいい男でな」

「無罪を買ったわけですか」

「そんな顔をするな、アレン。貴族社会ではよくあることだろう」


 それはそうだが。

 しかし、それがまかり通るのは貴族社会だけだ。

 市井が黙っちゃいない。

 居場所を奪われた旧市街の住民は、特にな。

 ワルイージュ無罪の報を耳にすれば、烈火のごとく怒るだろう。


(なるほど……)


 こうして暴動に発展していくわけか。

 一介の学生にすぎない俺に司法判断を覆す力などない。

 王都炎上待ったなしだ。

 今日という日は、地獄の釜に火をくべた記念すべき日でありますな、大将軍殿。


「はあ……」


 俺はテーブルの上で派手に頭を抱えた。


「わかるぞ、アレン」


 何がですか父上。


「私も昔はそうだった」


 父上はカラのカップを口に運んで、座り直したり襟を正したりした後、腹が決まったとばかりに切り出してきた。

 これぞ、本題とばかりに。


「私は、おじいちゃんになるのだな」


 ……っ?

 あんだって?


「我が息子もついに父親というわけだ。お前はため息が止まらんようだが、私は父として嬉しく思うぞ。――だがな」


 父上はぐぐいと身を乗り出してきた。

 で、言う。


「相談くらいはほしかったぞ。メイドに手を付けるなとは言わん。だが、急に孫を連れてこられては困る。それも3人もだ。私にだって心の準備が必要なのだ。寝耳に水、いや、寝床に敵の本陣。お前に子供がいたと知って私はひっくり返るほど驚いたぞ」


 何を言っているんだ、あんたは。


「もともと、あれはお前が拾ってきたメイドだ。お前の自由にすればいいと思っている。しかし、私たちは家族だろう。そういうことをするなら相談のひとつもほしかった。物事には何事も順序というものがあってだな。お前は賢い子だ。わかるよな?」


 わからん。

 ネタで言っているのか、ガチなのか。

 イマイチ判然としない。

 ハッキリしていることは、ひとつ。

 面倒くさいということだけだ。

 大将軍のウザ絡みなんて朝っぱらからこなしたいタスクではないのだ。


「私もついに、おじいちゃんか……」


 感慨深そうにウンウン頷くと、父上は今一度カラのカップに口をつけた。

 心ここにあらず。

 誤解を解くのは頭が冷めるのを待ってからにするか。


(しかし、困ったな……)


 父上は昼間のふくろうのようにボケているが、このままでは近い将来、王国が炭と灰に変わる。

 俺の命も儚く燃え散るが宿命さだめ

 長生きしたくば救わないと。

 王国を、滅びの運命から。

 それができるのは俺しかいない。

 俺だけが唯一未来を知りうる人間だからだ。


「はあ……」


 まったく、なんて大役だ。

 ため息が止まらんよ。


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