表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/50

30 燃ゆる王都


 黒ずんだ空へ紅蓮の渦が伸びてゆく。

 人が、家がバラバラになりながら吸い上げられ、灰が雨となって降り積もった。

 怒り狂う人々。

 逃げ惑う人々。

 吹き溜まりに積もる落ち葉のように、おびただしい数の亡骸が幾重にも重なっていた。


 王都が燃えていた。


 そこは、地獄だった。

 俺はすでに殺され、灰の海に沈んでいた。

 閉じることもできない目で逃げ惑う人々をただ呆然と見つめていた。

 屋敷はとうに燃え落ち、風に吹かれたたんぽぽの綿毛のように火の粉を舞い上がらせている。


 2年後の未来――。

 この光景は、現実のものとなる。

 住処を失った旧市街の住民たちの、その怒りが王国を焼き尽くすのだ。


「どうしてこうなった……」


 目覚めて一番、俺はため息とともにそうつぶやいた。

 答えは簡単。

 ワルイージュのせいだ。

 旧市街の解体に端を発する暴動。

 持たざる者たちの一斉蜂起。

 そして、すべては炎の中に没することになる。


 奴が塗り潰したのだ、俺のハッピーエンドを。

 紫色の闇でな

 おのれ、魔女め。

 順風満帆な俺の未来を返せ。


「……ハァ、……ハフ」


 久しぶりに死ぬ夢を見た。

 もう慣れたと思ったが、ハッピーエンドの消滅がよほどショックだったらしい。

 俺の全身は冷たい汗でぐっしょり湿っている。

 息も荒い。

 まるで、丸太の下敷きにでもなっているみたいに。

 丸太の……。


「む?」


 目を下にやった俺は違和感を覚えて硬直した。

 自分の鼻の向こうに布団が見えるわけだが、それがどういうわけか膨らんでいるように見えるのだ。

 まるで、中に誰か入っているかのようにな。


 布団をめくろうとしたが、なぜか左手が動かない。

 片手でなんとかめくり上げると、そこには立派な1本角が生えていた。

 断じて、下ネタ的な意味ではない。

 巻き角もねじれ角も一緒だからな。


(何やってんだ、こいつら……)


 ルマリヤの連れ子、アレアレ3兄弟がそこにいた。

 俺の胸や腹を敷布団にして寝息を立てている。

 左腕にはルマリヤが絡みついていた。

 小悪魔みたいな笑みを浮かべて俺を見つめている。

 俺が寝静まってから、ガキども諸共ベッドに潜り込んできたらしい。

 鬱陶しい奴らめ。

 だが、服を着ている点は褒めてつかわそう。


「うなされておられましたよ、パパ様」


 誰がパパ様か。


「わかります、急に三児の父ですから。不安になるのも当然です」


 いいや、お前は何もわかっていない。

 何もわかっていないぞ、ルマリヤ。

 俺はそんな理由でうなされていたわけではない。

 国家終焉の未来を予期して憂いていたのだ。


「冗談はここまでです」


 そう言うと、ルマリヤは目線を下げてバツの悪い顔をした。


「若様、わがままを聞いてくださり、ありがとうございました」


 それは、父上に言うべきセリフだろう。

 ガキどもを屋敷で飼っていいか聞くと、父上はいささか戸惑った様子だったが最後にはお許しをくれたのだから。


「感謝の証です。私の体を食べてください」


 ルマリヤの細指が胸の正中線をなぞると、魔法のようにボタンが外れて淫靡なる谷間があらわになった。

 でも、今は食欲が湧かないんだ。

 なにしろ死んだばかりなもんで。

 また誘ってくれ。


「この子たちも10年もすれば若様好みになりますよ。親子丼が楽しめますね」


 楽しいのはお前だけだろ。

 3人とも男の子だしな。

 俺を含めて男4。

 対するは、女1。

 やはり楽しめるのはお前だけだ。


「そういえば、お伝えしていませんでしたね」


 ルマリヤは、はたと思い出したように言った。


「実はこの子たち、みんな女の子なのです」


 え、そうなの!?


「はい。男の子として育てていますが」


 なぜ、そんな真似を!?


「若様の小さかった頃みたいで可愛いじゃないですか。抱いて名前を呼ぶと愛が深まる気がするのです」


 そんなことで男の名前を付けられたのか、こいつらは。

 なんとまあ、可哀想に。

 犠牲者だな、ルマリヤという色欲魔の。


「いつまでたってもお手つきにしてくださらない若様がいけないのです」


 胸の谷間を強調しつつ、柔らかそうな唇に舌を這わせる淫魔に、俺はボフッ、と枕を押し付けた。

 もう寝ろ。

 できれば、自室でな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ