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3 破滅への道


「そもそも、精霊ってのはなんだ?」


 懺悔室を出て教会の外へと向かう途中、俺は以前から気になっていたことをフララに尋ねてみた。


「漏出魔力の発光現象ですよ。スキルを発現するとき、体内の魔力がとても濃くなるのです。その一部が体の外に漏れ出すことでキラキラと光を発するわけです」


 その様子が、精霊が祝福を与えているように見えるというわけか。

 わかりやすい説明で助かる。

 ただ、学問的には正しくとも、信仰的にはNGだったらしい。

 司祭殿がコホンと咳払いして、こちらを睨んでいる。


「ふぇ、間違えました……! 精霊とはあれです。女神様の福音を届ける使者なのです!」


 というわけで、冷や汗ながらに訂正するフララである。


「とっても綺麗なのですよ。蛍が舞っているみたいで」

「俺は夢の中だから見ていないがな」

「アレンの祝福は強力なものですから、精霊たちもきっと吹雪のように舞い踊ったことでしょう。その場にいられなかったことが残念でなりません」


 父上もそんなことを言っていた。

 女神の使者か。


「俺に言わせれば、死神の使いだな」


 グロテスクな光景を見せやがって。


「そうおっしゃらないで。すべては使い方次第ですよ」


 そうかもしれない。

 修繕工事中の大聖堂の屋根から石材が2つばかし落ちてきた。

 それが、フララの頭に直撃し、彼女はバタリと倒れて動かなくなる。

 赤い水たまりが広がっていき、司祭が青い顔で腰を抜かして……。


 そんな未来が見えた。

 俺の判断は早かった。


「きゃ――」


 フララの頭を抱くようにして押し倒す。

 直後、ゴガッ、と。

 石の塊が爆ぜた。

 間一髪。

 たしかに、使い方次第で死の運命を回避することもできるようだ。


「大丈夫か、フラ――がッ」


 視界が揺れた。

 目と鼻の先にあるフララの顔が真っ赤に染まっていく。

 異性に押し倒された羞恥心で、というわけではない。

 赤い液体で、だ。

 血だな、これ。

 誰のって、そりゃ俺のだ。


 そうだった、石材は2つあったんだった。

 1つ避けて満足してしまった。

 我ながら馬鹿だな。

 未来が見えても活かせなければ意味がない。

 いい教訓になったよ。


 視界が暗転した。

 全身から力が抜けていき、俺はフララの上にぶっ倒れた。





 気がつくと、夢の中にいた。

 例の未来の夢だ。

 頭に石材がクリティカルヒットしたところまでは覚えている。

 こうして、未来の光景を見ることができるのだから、死んだわけではないようだ。

 ちょっと安心。


 さて、どうしたものか。

 起きようにも起き方がわからない。

 絶賛気絶中の現実の体が目覚めるまでは、夢の中ということか。


 やることもないので未来ゆめを見ることにした。

 前回とは違う未来だった。

 最愛の妻役はフララになっている。

 彼女に相談したことで未来が書き換えられたのかもしれない。


 フララからいってらっしゃいのキスをもらう俺を、メイドのルマリヤが歯ぎしりしながら睨んでいる。

 家庭は円満そのもの。

 絵に描いたような幸せな家族に見える。

 その未来で、俺は投資家をしていた。

 イルエル地方の宝石類が高騰することを予見し、ボロ儲けしたわけだ。


 しかし、やはり俺は死ぬ事になる。

 商売敵の差し金により毒殺された。

 妻に刺し殺されるよりはマシだが、身重のフララが泣き崩れる様は直視に堪えない。


 とはいえ、落ち込むことではない。

 これは未確定の未来だ。

 フララも言っていたが、未来は現代いまの行動次第で変えられるものなのだ。


 夢からヒントを得て、死亡ルートを回避してみよう。

 とりあえず、投資家はやめだな。


 そう心に決めると、未来が変わった。

 なんと、妻まで変わった。

 今度は見たこともない女だ。

 だらしなく胸元を開き、その谷間に俺は手を突っ込んでニマニマしている。

 なんというか、水商売の女にハマったってところか。


 妻は変われど、俺の成功に変化はない。

 何かしらの商売で一財産を築いたらしい。

 なんせ未来が見えるんだ。

 成功なんてやる前から保証されているようなものだ。


 そして、変わらないものがもう一つ。

 俺が死ぬという結末にも変化はなかった。

 今度は遺産目当ての妻にグサリだった。

 この女には近づかないほうが賢明だな。


 また未来が変わった。

 俺はついに妻をめとらないことにしたらしい。

 出家して聖職者になったようだが、やはり社会的成功を収めていた。

 俺は玉座の間にいた。

 最高位聖職者の証である紫のローブを羽織って。

 国王は俺に心酔しきっている。

 そんな国王に代わり、俺は国家を牛耳っていた。


 しかし、また俺は死んだ。

 政敵を作りすぎたらしい。

 よし、次の未来だ。


 俺は国を捨て、隣国に渡ることにしたらしい。

 無一文からスキルを駆使して成り上がり、なんと隣国の王女と結婚するようだ。

 そして、王位を継ぎ、玉座に君臨する。

 が、やはりここでも栄華は長続きしなかった。

 俺は周辺諸国をことごとく敵に回し、悪政から国民に見限られ、最後には城ごと焼き殺された。

 ずいぶんとまあ、派手な死に方だ。


 その後も俺は数多の未来を見続けた。

 どの未来でも俺の成功は約束されている。

 死ぬまでがセットだけどな。


 最初はいつも順調なんだ。

 でも、それがいけない。

 数々の成功に味をしめた俺は、次第に増長していく。

 のぼせ上がった態度で敵を作り、日に日に孤立を深め、そして、最期に待っているのは決まって惨たらしい死だ。


 いくつかターニング・ポイントがあるようだ。

 社会的成功、結婚、そして、家督の継承。

 この3つ。


 特に、3番目が大きい。

 家督継承を機に、俺の影響力は政治的にも経済的にも軍事的にも強まり、ここから一気に歯車が狂い始める。

 家督を継いだ俺に取り入ろうと、王国中の貴族たちが連日連夜、手に手に貢ぎ物を持ってやってくる。

 そうして、見え見えのおべっかに俺はまんまと乗ってしまうのだ。

 なぜ乗る、未来の俺……。


 でもまあ、金も女も言えば言うだけ手に入るのだ。

 ロクな社会経験のない若造が蝶よ花よとおだてられれば、舞い上がってしまうのも無理はない。

 そして、死ぬ。

 この繰り返しだ。


 うんざりするほどの生と死を巡り、ほとほと自分に愛想が尽きてきた頃、夢がスゥーと遠のいていった。

 お目覚めのときらしい。

 破滅へと向かう歯車がふたたび動き出したのだ。


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