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26 捜査開始


 現場100ぺんという。

 まずは、おもちゃとやらが盗まれた場所に案内してもらおうか。

 どこだ?


「ボクの研究棟……」


 ピコリーは寝ぼけ眼をこすっていた手で本校舎の向こうを指し示している。


 おい待て。

 ボクのって、ピコリー専用の校舎があるみたいな言い方だな。


「うん。ボクの魔道具、みんな怖がるから……」


 ふむ。

 それもそうだな。

 町ごと解体できる物騒なものを研究しているなら、専用校舎どころかいつ大爆発しても安心安全な辺境地に研究施設を構えていてもおかしくはない。

 このリトルガールは俺が思っている以上にデンジャラスな奴らしい。


 まあ、うちの妹も似たようなものだ。

 その昔、スライム実験と称して屋敷どころか近隣のブロックごとスライムまみれにしたことがあった。

 2が4となり、8となり、16となり、とめどなく繰り返される分裂と増殖の連鎖。

 際限なく増え続けるスライムはいずれ世界すらも呑み込んでしまうかに思われた。

 大袈裟な話ではなく、あの有様はある種の終末だったね。

 父上が全軍を挙げて対処おそうじしなければ王都は滅んでいたかもしれない。


 そして、この件以来、アリエは寮暮らしとなったのだった。

 たとえ、学院がスライムの海に没しようとも我が家が無事ならそれでいい。

 父上は素晴らしい判断力をお持ちだ。

 さすが大将軍様だ。


 さて、現場に向かうとしよう。

 そういえば、と前置きした俺は、今にも寝落ちしそうな顔でトボトボとついてくるピコリーに問うた。


「ピコリーは魔道具の研究をしているんだよな。俺でもできそうな研究対象とかないか? このままだと学期末の査定にさっそく引っかかって一般生徒に舞い戻りそうなんだ」

「んー……。浅い人に研究、向いてない」


 だよな。

 奥が深そうだもんな、研究ってのは。

 じゃあ、来学期からはピコリーとは別のクラスになりそうだな。


「……それはやだっ!!」


 がしっ。

 ピコリーがノミのように抱きついてきた……のも束の間、豪腕にむんずと頭を掴まれ、強引に引き剥がされる。

 ルマリヤである。

 無表情ベースの顔がキレ気味に歪んでいる。

 蹴るなよ?

 俺から言えるのはそれだけだ。


「ボク、浅い人がクラスメイトじゃなくなるの、やだ」


 宙吊りのピコリーが短い手脚をバタバタして必死に訴えかけてくる。

 いつもの眠そうな顔はどうした?


「査定は研究じゃなくてもいい。慈善活動ならお金だけでできる」


 ボランティアか。

 それはそれで尊いことだが、金で成績を買いたくはないぞ俺は。

 俺が特別科に入ったことを父上も喜んでくれた。

 頭を打って、お前、賢くなったんじゃないかと。

 金で査定をパスしたなんて聞いたら、ガッカリされるに違いない。

 ガッカリされた挙句、次期当主候補から外してもらえるならアリっちゃアリだがな。


「私はどこのクラスでも構いません。若様がシたいときにお側にいるのが私の役目ですから」


 エロメイドが背中に柔らかいものを二つばかし押し当ててきた。

 捜査に集中しろ。


 ということで、ピコリーの研究棟に到着。

 窓が少ない堅牢な建物で要塞じみた威容を誇ってはいるが、最近建てられたものらしくリゾートホテルのような煌びやかさも共存していた。

 校舎からも学生寮からも人家からも離れた場所にポツンと建っている。

 ここなら謎の巨大爆発が起きても安心だな。


 警備兵の厳しい目に晒されながら中へ。

 外観の美麗さとは打って変わって、屋内はスクラップヤードのそれであった。

 あちこちに用途不明な部品が転がっている。


「ここがボクの研究室……」


 そして、俺たちは一段とひどい一室に通された。

 一言で言えば、ガラクタの山。

 うずたかく積み上げられた魔道具らしきものが部屋の容積の実に半分以上を占めている。

 足の踏み場もなければ、手を付く壁もない。

 そんな部屋の中をスイスイ歩いていけるのは、ピコリーが小人族だからだろう。

 俺とルマリヤは入口でストップだ。

 うっかり肩をぶつけて山崩れの犠牲になるのは御免こうむる。


 それにしても、散らかっているな。

 ここにきて、盗まれたという言い分に重大な疑義が生じてきた。


「そもそも、紛失したとかではないのか?」


 ピコリーはううん、と首を横に振った。


「走り去る人影、見た……」

「そいつの特徴は?」

「香水の香りが残ってた……。女である可能性が高い。あと、笑い方が特徴的だった……」

「ちなみに、どんな笑い方だったんだ?」

「ウオーッホッホ……」


 星が割れたな。

 真っ二つだ。

 心当たりがある。

 ありすぎて売っちまいたいくらいにな。

 俺の頭の中いっぱいに紫の縦ロールを弾ませて走り去っていく怪盗少女の姿が映し出された。

 ワルイージュのご尊顔が。


 そういえば、あいつには前科がある。

 タイ泥棒だ。

 未だに返してもらっていない。

 ロクでもない。


「いやははは……。とんでもない事態になったかもな」


 俺は笑顔だが、かつてないほど顔が引き攣っていることだろう。

 町を一つ灰燼に帰すほどの兵器が最悪の人物の手に渡ってしまった。

 鬼に金棒。

 テロリストに爆弾。

 いや、もっとだな。

 もっと凄惨な事件がこのあと勃発する気がする。


 可及的速やかに疎開先でも検討したいところだが、ピコリーのうるうるした瞳が一心に見上げてきて行くなと告げている。


「若様、いたいけない子供が困っております。まさか見捨てようなどとお考えではありませんよね」


 ルマリヤは柄にもなく真剣な面持ちだった。

 いたいけない子供の頭を鷲掴みにして蹴りたそうな顔していたくせに、どうしたってんだ?

 まあ、乗りかけた船だ。

 衛兵が本格的に動くまでの初動捜査くらいなら手伝ってやるよ。

 危険だと判断したら俺はいの一番に逃げるからな?


「ありがと、パ……浅い人!」

「ありがとうございます、若様」


 ピコリーはともかく、だ。

 この件に毛ほども関係ないはずのルマリヤにまで厚い御礼を賜ったのは意外だった。


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