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14 学科選び


「で、どこの学科にするか決めたの?」


 剣呑な空気が立ち込める通学馬車の中に、その空気の発生源たるリンネの声が響いた。

 入学式の翌週のことである。

 今週から本格的に授業がスタートするらしく、俺は新生活に対する緊張と不安のただ中にあった。

 せめて、通学中くらいリラックスしたいものだが、横でしかめっ面している奴のせいでなかなかそうもいかないのが辛いところだ。


「学科というのは自由に選べるものなのか?」

「あなたは、ね。他の生徒はそもそも希望する学科を受験しているもの」


 なるほど。

 裏口入学なんてしたものだから、配属先が決まっていないのか。

 そういえば、ヒラーデ教頭が剣術科に歓迎すると言っていたっけ。

 せっかくだが、体育会系はゴメンだな。

 流した汗とアザの数を勲章にしていそうだし。


「決まったら私のところに報告に来なさい。申請書の書き方を教えてあげるわ」

「了解です、生徒会長どの」

「期限は今週いっぱいよ。各学科を見て回ってから決めるといいわ」

「はいはい、生徒会長どの」

「それと、その舐めた態度はやめること。10点減点よ。後90点であなたの顔は爆発します」


 冗談よ、と吐き捨て、リンネはそっぽを向いた。

 あまり面白いとも言えないが、彼女の口から冗談を聞いたのはずいぶん久しぶりのことだ。

 卒業まで通学路を共にする仲だ。

 彼女なりの歩み寄りなのかもしれない。

 結構なことだ。

 刺される確率が減りそうだしな。





 リンネのすすめもあり、いろいろと学科を見て回ることにした。

 さっそくだが、魔法薬学科はダメだな。

 今まさに立ち入ろうとした校舎が爆散したところだ。

 青い煙がもうもうと上がっているが、一体何と何を混ぜたのやら。

 巻き添えで吹き飛ばされたんじゃかなわないし、未知の薬効で女体化するのもゴメンだ。

 遠慮させてもらおう。


 剣術科も見に行ってみたが、ちょうど魔法剣術科と小競り合いの真っ最中だった。

 実力の剣術科と学力の魔法剣術科。

 彼らには、長い因縁の歴史があるらしい。

 教師が止めるのも聞かず木剣を振り回し、魔法をぶっぱなし、その荒廃たる様はさながら戦場のごとしであった。

 燃ゆる青春、大いに結構。

 なるべく俺のいないところで早めに燃え尽きてくれ。


 魔法科にも足を運んだ。

 校舎は綺麗で、生徒は知的。

 一見すると、ハイソでセレブな俺にぴったりの場所に思われた。


「えー、つまり、循環魔力の閉鎖系位相転移における魔力ゆらぎは、常に時間偏位という無視できない問題を抱えているわけでありまして、あー、これを解決するためには高圧下魔力回路で見られるような強力かつ任意のダイバージェンスが必要でありまして――」


 むむぅ……。

 やっていることが高度すぎてまるっきり理解不能だった。

 みんなわかっているようだが、俺では逆立ちしても同じ景色を見られそうもない。

 そもそも、俺はこの学院のレベルについていけるのか?

 裏口をノックしなければ、入学自体できたかどうか怪しいものだ。


 そして、昼飯時。

 先が思いやられる中、悲しみのぼっち飯としゃれこもうかと思っていると、


「アレン様ですよね?」

「お会いできて光栄です!」

「お昼、ご一緒してもよろしいですか!?」


 俺の周りには餌にたかるハトのごとき大量の生徒たちが集まってきた。

 男3に対し、女7といったところか。

 これぞハーレム。

 余計な3に目をつむればな。


「記憶をなくされたとお聞きしました」

「アレン様、お可哀想に」

「フララ先生を守って事故に遭われたのだとか」

「身を呈して淑女を庇われるとは、紳士の鑑です」

「剣の道にも精通されておられるのだとか」

「さすがはアレン様ですわ」

「よっ、未来の大将軍っ!!」


 すごい勢いで煽り立ててくるな……。

 吹き飛ばす気かよ。


 王立魔法学院の在校生には、貴族家の三男坊や四女といった家督を継ぐ見込みのない者が多い。

 後ろ盾のない彼らは、学問で身を立てようと必死なわけだ。

 しかし、競争の激しい学院では思い通りの結果が得られるとは限らない。


 そこに降って湧いた上級貴族家の長男――俺。


 記憶喪失である点を考慮しても、上爵令息は魅力的な物件に違いない。

 見初められれば、一足飛びに上流階級の仲間入り。

 長子と立場が逆転することさえありうる。

 それで、おべっかとヨイショの嵐が吹き荒れているというわけだ。


「アタクシ、アレン様のことをお慕い申し上げておりますわ!」


 女生徒がさりげなく手を触れてきた。

 紫の縦ロール。

 よく見れば、いじめっ子令嬢ワルイージュじゃないか。

 ともかく、俺の鼻の穴は膨らむ一方であった。





 その夜、夢を見た。

 もちろん、未来の夢だ。

 たくさんの女生徒とオマケ程度の提灯持ち男子に囲まれた俺は、青い春を存分に謳歌していた。

 幸せな学院生活がそこにあった。


 しかし、


(ダメなルートに入ってるな、これ……)


 取り巻きにおだてられた俺はいつものことながら増長していた。

 群がる女生徒たちを取っ替え引っ替えにしては、ふしだらな関係を築き、時には女教師のつまみ食いなんてこともやっているようだ。

 肉林に溺れ、下級生を蹴散らし、恨みを買って最後は殺される。

 だいたい、いつもの展開だ。

 アホだな、俺。

 学び舎なんだから学べよと言いたい。


 このままでは、冬を待たずに死にそうだ。

 路線変更を急がねば。


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