第八話『爆炎』
フレンとメレブンが豪華な邸宅で激しく戦っている最中、ルステラは━━ルステラたちは、
「━━メレブンのこと、ありがとうございました」
三人で街までやって来ていた。
その最中、アメリがお礼を述べたのだった。
「まだお礼を言うのには早いんじゃない? フレンが大ボカをかますかもしれないしね」
置いてきた二人が具体的に何をしているのかは、ルステラたちの預かり知るところではない。
それ故に、礼がから回ることもあるだろうと━━、
「ルスちゃん、嘘! フレたんはちゃんとやるって思ってる。フラムと一緒」
「……私もそう思います」
軽口は受け止められることもなく流される。
「別に礼を言われることじゃないよ。……いずれ、向き合わなくちゃいけなかったんだから」
フレンの夢に全員が乗っかってくれるなんてのは幻想でしかない。
そもそもが幻想のようなものだ。なおさら、宜なるかなと言う感じである。
「むしろ、お礼を言うのはこっちの方かもね」
「はい、どういたしまして」
「あれ? そういう反応!?」
「ふふっ、冗談ですよ」
アメリの微笑で、会話は区切られた。きっと不毛なお礼の言い合いを招かないようにだろう。
互いにおなじだけ感謝していることが分かったのなら、わざわざ言葉を重ねる必要もない。
「━━お兄様が、見失ったままにならなくて良かったです」
嬉しそうに、そして悔しそうに、ともすれば申し訳なさそうに、ない交ぜの感情をアメリは浮かべた。
気になったからと言えば浅慮に思えるが、踏み込んだことで何かのきっかけになるかもしれないと、ルステラは問う。
「詳しく聞いても?」
「お兄様……メレブンのことですか?」
「アメリのこともね」
複雑な家庭事情なのだとは、少しだけ聞き入れた。
実際に、彼女が一人であんな大きい邸宅を抱え、それだけでなく周囲の土地も所有しているのも見ているのだ。そこからも察するものはある。
「それでは少しだけ。私とメレブンが従兄妹なのは話しましたよね。━━本当は、もう一人いたんです」
「━━━━」
「メレブンには、ソロという弟がいました」
一度フレンに、メレブンについて聞いたことがある。とはいえ彼単体ではなく、シュネルのことなどを聞いたその延長のものだ。
フレンによれば、彼はつかみ所がないのだという。
そのイメージが、あまり良くない方法で消えていく。
「いたってことは……」
「亡くなりました。━━メレブンは、そのせいで光を見失ってしまったんです」
「━━━━」
「そのとき既にメレブンはノンダルカス王国に居て……『魔法国家』に居た私にはどうすることもできず……」
アメリの横顔からは後悔が見て取れた。なにもできなかった自分の不甲斐なさに対する後悔。
「だけど、メレブンはまた同じだけの光を見つけた。それはたぶん、あまり良いものじゃなかったですよね……」
「そのことについては、わたしもフラムも、もちろんフレンもメレブンは咎めないということで終わってるから」
フレンが、フレンたちが許さないのは、シュネルのしたことだけだ。
だから不問ではなく、問題がそもそも発生していない。
「……でも先日こちらへ来たとき、メレブンはまた光を見失っているようでした」
「だから、フレンに任せてくれたの? 新しい光になってもらうために」
「いえ、フレン様はメレブンの光にはなれません」
フレンとメレブンだけを残してくるにあたって、一番の難点はアメリだと思った。
だがアメリは意外にもすんなりと物事を聞き入れてくれた。
アメリも、期待していたのだ。
メレブンの選んだフレンが、光になれずとも━━、
「だけど彼女は、メレブンが見失わない何かになってくれると思います」
「信頼が大きいね」
「他でもない、メレブンが選びましたから」
フレンがメレブンに向き合う機会を得ることができたのは、メレブンのおかげだ。
彼は直接的にそうは言っていなかったが、彼はきっと理由を求めていたのだろう。
「━━本当は、私が光になってあげられれば良かったんですけどね……」
結局それは無理でしたと、アメリははにかんだ。
もしかしたら、ノンダルカス王国で起きたことに対する申し訳なさも入っていたかもしれない。
「アメりん、そんな顔しなくてもいい!」
「え?」
顔には届かないから、フラムは袖口を引っ張ってアメリの意識を向けさせる。
真剣な表情をしたフラムと、アメリの視線が交錯した。
「アメりん言ったよね。フレたんが、光じゃなくてもナニカになれるって。アメりんも一緒だと思う!」
「━━━━」
「アメりんだって絶対なれるよ。大切なナニカに!」
アメリは通りでピタリと足を止めて、フラムの言葉を聞き込んでしまう。
「わたしも、そう思うよ。まだ諦めることなんて、何もない」
「でも、できることなんて……」
「それがなかったとしても、ただ諦めないだけで、未来っていうのは変わっていくんだよ」
心持ちというのは生きていく上で、非常に重要である。
行動を起こすことは確かに肝要なのだが、しかしながら、その手前には感情があるのだ。
思わなきゃ動けない。だったら、思うだけでも、そこに意味はある。
「進むのは、ちゃんと決まってからでいいんだから」
彼女の苦悩が、解消されてくれることを心から願う。
だけど、彼女はすぐに見つけることができそうな気がした。
○
「そろそろ、戻りましょうか」
空気を読んで出ていくという名目のもと、街を散策していたルステラたち。それももう潮時だ。
「だね。流石にもう大丈夫だろうし」
ルステラたちが心配しなくてはならないのは、家が残っているかどうかぐらいだ。あまりはっちゃけていないと助かるのだが。
とまれこうまれ戻るしかない。フラムにも呼びかけて━━、
「━━フラム?」
その声に呼応はない。━━ないと理解した瞬間、ルステラの行動は早かった。
「━━━っ!」
「ま、待ってください」
引き留めるため腕を掴もうとするアメリをするりとかわし、ルステラは否が応にも付いてこざるを得ないようにした。
こんな態度になってしまったのは申し訳ないが、フラムが動いたということは━━、
「━━━━」
ほんの数十秒前まではそこに存在していたのだ。フラムの足ならば、そう遠くは行けないはず。
加えて、危機が発生しそうな場所と言えば━━路地裏だ。
ルステラは戻り、路地裏を突き進む。以前も、同じようなことをしたなとルステラは思う。あのときは最初から路地裏に居たが。
「フラ━━」
最初にフラムに焦点が合って、他の二つの影を視認━━するかの瀬戸際、ルステラたちは呑み込まれた。
━━膨れ上がる、爆炎に。




