第十一話『バチは当たらない』
「正直に言って、ぼくは王族だと思いますか?」
王族問題について、レクトはまだ二人だけ確かめていない人がいた。一人は聞く機会がなくて、もう一人はなんだか取っつきにくくて。
とはいえ今さら確かめたところで、レクトに引き返すという手段はない。
なので、返事がどんなものでも変化はないのだが、なんとなく訊くのを止められなかった。
「最初に持ちかけたのは我であるからな。言い出した手前、忘れてくれは無理があろう。だが、正直に言えば……」
最初に答えてくれたのは、顔の怖いピリピリした男である━━ハゼルだった。
あれから数日経過し、ルステラの言った通りハゼルともすぐに合流できた。
そしてやっと、訊く機会ができたということだ。
「━━王族であってくれという気持ちである」
ハゼルの厳つい顔に出てきたのは、ある種の弱さと呼べるものだった。
強きものが初めて何かに縋るような、そんな弱さだ。
「王子がいなくなってから、アセシア王妃は今もなお捜査を続けている。次第に回せる人手も少なくなって、しかし、地道に」
「━━━━」
「我も、本当は……」
弱さと後悔と自責と。ハゼルはなにか大きな感情を抱いていた。
しかし、ハゼルはわざとらしく咳払いをして、強引に切り上げると、
「アセシア王妃ならば、一目で真偽が分かる。たとえ王子でなくとも、我が悪いようにはさせぬ。いっそ騎士にでもなるか?」
「あはは……。でも、ハゼルさんに剣を習うというのは悪くないかもです……」
セーラさんを助けた後のことを、レクトはあまり考えていなかった。
もちろん手を貸してくれた人たちに恩返しはするのだが、それでは漠然としすぎている。
ならば、一つぐらい目標を決めていても良いかもしれない。あくまでも仮だけれども。
「━━━━」
「ハゼルさん?」
いつになく、ハゼルが真剣な顔をしていて、レクトは思わず名前を呼んでしまう。
ファーストインプレッションは顔の怖い人だったが、ハゼルさんは意外と表情が変化するなとレクトは認識を改めた。
「……いや、なんでもない。そうだな、気が向けばいつでもいいから教えてくれ。とはいえ、我は基本的に斧を使って戦う故、習いたいのならそちらの方が良いかもしれん」
「確かに斧持ってそう……」
目の前のハゼルにイメージで斧を持たせてみると、あり得ないぐらいしっくりときた。しかも、大きければ大きいほどしっくりとくる。
反面、レクトはまだあまり斧という感じではなさそうである。ハンドアックスぐらい、似合う男にならなければ。
そしてもう一人、レクトは不躾にも視線を送った。
現在この場にはハゼルとレクト━━と、アレキスがいた。
さっき言った通り、取っ付きにくい雰囲気を醸し出しているが、それを考えられないほどにレクトは気になってしまったのだ。
「なんだ」
「えっと、アレキスさんは何でも似合うなと……」
剣を持たせても斧を持たせても槍を持たせても、どうしてかしっくりと来てしまう。
今は作戦の都合上、ファミルド王国の騎士服を着て剣を携えているが、それも似合っていた。
「……武器は一通り扱える。理由があるならそれだ」
一切の淀みなく一通りの武器が扱えると言い放ったアレキス。
こんなところで大法螺を吹くことはしないだろうが、一応ハゼルにもアイコンタクトで所感を訊いてみた。
「信じがたいが真実であろうな。フレン・ヴィヴァーチェとはまた別種の強さを感じる。何故、名が売れていないのか不思議なほどにな」
「強さと知名度は必ずしも比例しない。……レクトにはよく分かるだろ」
「━━━。あ、セーラさんのこと……」
初めて名前を呼ばれて、若干処理に遅れが生じてしまった。
だが確かに、セーラは強くはあるが有名というわけではない。━━否、一部界隈ではそれなりに存在が知れ渡っているが。
「それにレクトの家族……王だってそうだ。強くはないが知名度はある」
「今の設定でそれを言うのは、なかなかに豪胆であろうな」
「王様への不敬……って、そうだった!」
話の流れが良い感じに王族へシフトしたところで、レクトは会話の始まりもとい確かめたかったことを思い出す。
「アレキスさんはぼくが王族だと思ってるってことですか?」
「……さっきの質問か」
さっきしていた質問の矛先が自分へ向いて、アレキスは嘆息した。
それは、あまり関心がなさそうな態度に思えて━━。
「━━必要ない」
「え?」
「王族かどうかなど、考える必要はない」
そう断言されて、レクトは呆気に取られる。
確かにいまさら考えたところで引き返せはしないが━━、
「ルステラはどちらに転んでも大丈夫なように手を打ってある」
「だから、大丈夫と?」
「少なくとも、俺はな」
ルステラが言ったからアレキスは大丈夫らしい。正直、関係性の謎は深まるばかりである。
「だが、今この場で確かめれる方法がないこともない。星王の……」
「━━ここで試すには、些か危険な行為であろう」
アレキスの持ちかけたことを、ハゼルが食い気味に咎めた。
心配から来ているのだろうが、受けるレクトは理解が追い付かない状況である。
「それにもうすぐそこだ。急く必要もあるまい」
「……それもそうだな」
二人で納得し合って、話はすぐに止まってしまった。
訊くべきか訊かぬべきか、逡巡しているとハゼルの言った通りすぐに目的地についた。
結局訊く機会は訪れず、レクトはハゼルとアレキスに連れられて馬車を出る。
「行くぞ、レクト。━━いや、ウィリアム第四王子」
○
王都ファザスの某所。王城を眺めながら女━━ルステラはため息をつく。
それを見られてしまい、フレンに声をかけられる。
「不安か?」
「うんや、アレキスが付いてるからそこは大丈夫。これは、まさかこんなことになるとはねって意味のため息だよ」
「まあ、怒濤の展開だったしな」
レクトと出会って、手を貸すことにして、あれよあれよと国の中核に乗り込むことになった。
結局のところ高度な問題に立ち向かうには、国の深部から逃げることはできないのだろう。
「知っちゃったからには、しょうがないけど」
ルステラの感情は、全てレクトに向かっているわけではない。
まだ見ぬレクトの養育者、セーラに対してもかなりの比重がかかっている。
もちろん半端なことはしないけれど。
「━━ルスちゃん!」
ルステラとフレンともう一人。フラムが、間を割って入ってきた。
とはいえ、ルステラもフレンもフラムが何を言いたいかは一瞬で分かる。
フラムはきっと、
「フラムも一緒に行きたかった!」
一番最初にレクトを見つけたのはフラムで、同年代ということもあり、一緒に連れていけば精神面でそれなりに寄与はしただろう。
だがしかし、それ以上にフラムが付いていくという状況は意味がわからない。
一応フレンとセットでみたいなことも考えてはいたのだが、ルステラの案的にあまりそれはやりたくなかった。
「ごめんね。でも、今回はこれが一番だと思うから」
「フラムは、することない……?」
「状況の転がり方次第かなぁ。それで言ったらフレンもだしね」
ないとは思うが、レクトが王族ではなく全く関係のない子供だった場合、フラムの出番はやってくる。フレンも同様だ。
「とりあえず今は待つしかないね」
ルステラの思い描く大きな分岐点は、レクトが王族であるパターンとないパターンだ。
さっきも言った通り後者の可能性は限りなく低いと思っているが、万が一ということもある。
もちろんその時のための案もあるが、絶対に実行したくない。何故なら面倒だから。
そして王族であるパターンを引けても、また択が生まれてしまう。こっちも基本的には、自分が思う方へ行ってくれるとは思うが、行かなかったらこれもまた面倒である。
しかし━━、
「そろそろわたしたちの都合の良いように進んでも、バチは当たらないと思うけどなぁ」
空振りし続けたルステラたち。都合にはそろそろ微笑んでもらいたいところである。
ルステラは、そう一人希った。




