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暁の史記  作者: 焚火卯
二章
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第十一話『バチは当たらない』

「正直に言って、ぼくは王族だと思いますか?」


 王族問題について、レクトはまだ二人だけ確かめていない人がいた。一人は聞く機会がなくて、もう一人はなんだか取っつきにくくて。

 とはいえ今さら確かめたところで、レクトに引き返すという手段はない。

 なので、返事がどんなものでも変化はないのだが、なんとなく訊くのを止められなかった。


「最初に持ちかけたのは我であるからな。言い出した手前、忘れてくれは無理があろう。だが、正直に言えば……」


 最初に答えてくれたのは、顔の怖いピリピリした男である━━ハゼルだった。

 あれから数日経過し、ルステラの言った通りハゼルともすぐに合流できた。

 そしてやっと、訊く機会ができたということだ。


「━━王族であってくれという気持ちである」


 ハゼルの厳つい顔に出てきたのは、ある種の弱さと呼べるものだった。

 強きものが初めて何かに縋るような、そんな弱さだ。


「王子がいなくなってから、アセシア王妃は今もなお捜査を続けている。次第に回せる人手も少なくなって、しかし、地道に」


「━━━━」


「我も、本当は……」


 弱さと後悔と自責と。ハゼルはなにか大きな感情を抱いていた。

 しかし、ハゼルはわざとらしく咳払いをして、強引に切り上げると、


「アセシア王妃ならば、一目で真偽が分かる。たとえ王子でなくとも、我が悪いようにはさせぬ。いっそ騎士にでもなるか?」


「あはは……。でも、ハゼルさんに剣を習うというのは悪くないかもです……」


 セーラさんを助けた後のことを、レクトはあまり考えていなかった。

 もちろん手を貸してくれた人たちに恩返しはするのだが、それでは漠然としすぎている。

 ならば、一つぐらい目標を決めていても良いかもしれない。あくまでも仮だけれども。


「━━━━」


「ハゼルさん?」


 いつになく、ハゼルが真剣な顔をしていて、レクトは思わず名前を呼んでしまう。

 ファーストインプレッションは顔の怖い人だったが、ハゼルさんは意外と表情が変化するなとレクトは認識を改めた。


「……いや、なんでもない。そうだな、気が向けばいつでもいいから教えてくれ。とはいえ、我は基本的に斧を使って戦う故、習いたいのならそちらの方が良いかもしれん」


「確かに斧持ってそう……」


 目の前のハゼルにイメージで斧を持たせてみると、あり得ないぐらいしっくりときた。しかも、大きければ大きいほどしっくりとくる。

 反面、レクトはまだあまり斧という感じではなさそうである。ハンドアックスぐらい、似合う男にならなければ。

 そしてもう一人、レクトは不躾にも視線を送った。


 現在この場にはハゼルとレクト━━と、アレキスがいた。

 さっき言った通り、取っ付きにくい雰囲気を醸し出しているが、それを考えられないほどにレクトは気になってしまったのだ。


「なんだ」


「えっと、アレキスさんは何でも似合うなと……」


 剣を持たせても斧を持たせても槍を持たせても、どうしてかしっくりと来てしまう。

 今は作戦の都合上、ファミルド王国の騎士服を着て剣を携えているが、それも似合っていた。


「……武器は一通り扱える。理由があるならそれだ」


 一切の淀みなく一通りの武器が扱えると言い放ったアレキス。

 こんなところで大法螺を吹くことはしないだろうが、一応ハゼルにもアイコンタクトで所感を訊いてみた。


「信じがたいが真実であろうな。フレン・ヴィヴァーチェとはまた別種の強さを感じる。何故、名が売れていないのか不思議なほどにな」


「強さと知名度は必ずしも比例しない。……レクトにはよく分かるだろ」


「━━━。あ、セーラさんのこと……」


 初めて名前を呼ばれて、若干処理に遅れが生じてしまった。

 だが確かに、セーラは強くはあるが有名というわけではない。━━否、一部界隈ではそれなりに存在が知れ渡っているが。


「それにレクトの家族……王だってそうだ。強くはないが知名度はある」


「今の設定でそれを言うのは、なかなかに豪胆であろうな」


「王様への不敬……って、そうだった!」


 話の流れが良い感じに王族へシフトしたところで、レクトは会話の始まりもとい確かめたかったことを思い出す。


「アレキスさんはぼくが王族だと思ってるってことですか?」


「……さっきの質問か」


 さっきしていた質問の矛先が自分へ向いて、アレキスは嘆息した。

 それは、あまり関心がなさそうな態度に思えて━━。


「━━必要ない」


「え?」


「王族かどうかなど、考える必要はない」


 そう断言されて、レクトは呆気に取られる。

 確かにいまさら考えたところで引き返せはしないが━━、


「ルステラはどちらに転んでも大丈夫なように手を打ってある」


「だから、大丈夫と?」


「少なくとも、俺はな」


 ルステラが言ったからアレキスは大丈夫らしい。正直、関係性の謎は深まるばかりである。


「だが、今この場で確かめれる方法がないこともない。星王の……」


「━━ここで試すには、些か危険な行為であろう」


 アレキスの持ちかけたことを、ハゼルが食い気味に咎めた。

 心配から来ているのだろうが、受けるレクトは理解が追い付かない状況である。


「それにもうすぐそこだ。急く必要もあるまい」


「……それもそうだな」


 二人で納得し合って、話はすぐに止まってしまった。

 訊くべきか訊かぬべきか、逡巡しているとハゼルの言った通りすぐに目的地についた。

 結局訊く機会は訪れず、レクトはハゼルとアレキスに連れられて馬車を出る。


「行くぞ、レクト。━━いや、ウィリアム第四王子」





 王都ファザスの某所。王城を眺めながら女━━ルステラはため息をつく。

 それを見られてしまい、フレンに声をかけられる。


「不安か?」


「うんや、アレキスが付いてるからそこは大丈夫。これは、まさかこんなことになるとはねって意味のため息だよ」


「まあ、怒濤の展開だったしな」


 レクトと出会って、手を貸すことにして、あれよあれよと国の中核に乗り込むことになった。

 結局のところ高度な問題に立ち向かうには、国の深部から逃げることはできないのだろう。


「知っちゃったからには、しょうがないけど」


 ルステラの感情は、全てレクトに向かっているわけではない。

 まだ見ぬレクトの養育者、セーラに対してもかなりの比重がかかっている。

 もちろん半端なことはしないけれど。


「━━ルスちゃん!」


 ルステラとフレンともう一人。フラムが、間を割って入ってきた。

 とはいえ、ルステラもフレンもフラムが何を言いたいかは一瞬で分かる。

 フラムはきっと、


「フラムも一緒に行きたかった!」


 一番最初にレクトを見つけたのはフラムで、同年代ということもあり、一緒に連れていけば精神面でそれなりに寄与はしただろう。

 だがしかし、それ以上にフラムが付いていくという状況は意味がわからない。

 一応フレンとセットでみたいなことも考えてはいたのだが、ルステラの案的にあまりそれはやりたくなかった。


「ごめんね。でも、今回はこれが一番だと思うから」


「フラムは、することない……?」


「状況の転がり方次第かなぁ。それで言ったらフレンもだしね」


 ないとは思うが、レクトが王族ではなく全く関係のない子供だった場合、フラムの出番はやってくる。フレンも同様だ。


「とりあえず今は待つしかないね」


 ルステラの思い描く大きな分岐点は、レクトが王族であるパターンとないパターンだ。

 さっきも言った通り後者の可能性は限りなく低いと思っているが、万が一ということもある。

 もちろんその時のための案もあるが、絶対に実行したくない。何故なら面倒だから。

 そして王族であるパターンを引けても、また択が生まれてしまう。こっちも基本的には、自分が思う方へ行ってくれるとは思うが、行かなかったらこれもまた面倒である。

 しかし━━、


「そろそろわたしたちの都合の良いように進んでも、バチは当たらないと思うけどなぁ」


 空振りし続けたルステラたち。都合にはそろそろ微笑んでもらいたいところである。

 ルステラは、そう一人希った。

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