壁ドン
「で、出たぁぁぁ!!!」
俺は洗面所から飛出し、寝室の壁に張り付いた。原因は歯磨き中に、発見してしまった蜘蛛である。俺は虫が苦手なのだ。上京し大学の寮で一人暮らしな為、蜘蛛を外に出す術がない。大学の友人を夜に呼び出すわけにもいかない。誰か助けてくれ。そう心の中で祈った。
ドン!!
「五月蠅いぞ!!」
「……っ! す、すいません!」
壁を強く叩く振動が背中に伝わり、隣人からの苦情が響いた。俺は反射的に謝罪を口にする。都会とは怖い所だとは聞いていたが、ご近所トラブルは避けたい。寮に住んでいるということは、俺の先輩の可能性がある。
日々の生活を快適に過ごす為にも、明日にでも正式に謝罪をしよう。そう思い、壁側に振り向いた。すると、窓硝子に俺が映った。
「……あれ? そういえば、俺の部屋って角部屋じゃね?」
俺の独り言が大きく響いた。