彼女がくれたもの
「ファル、おかわりする?」
ファルシオンはほとんど喋らなかったけれど、アディアに話しかけられて、応じてはいた。アディアはファルシオンに興味があるらしい。ファルシオンという名を明かし、歳も教えた。アディアも十七歳だった。栄養状態が悪く、体がしっかり成長していないのだ。
ファルシオンは首をすくめて、からになった茶碗をアディアへ渡した。彼女は微笑んで粥をもう一杯注いでくれる。同じ船だった男達がファルシオンを小突いた。「いいな、ファル」
「おにいさん達、あんまりファルをいじめないで」
「いじめちゃいないよ。羨ましいだけだ」
男達に更に小突かれたが、ファルシオンはそんなに悪い気分ではなかった。
夕食のあと、アディアと話すことが増えた。といっても、坑道前の広場の隅でだ。ジュニがそれを遠くから見ている。
「ファル、魔力を奪われるのって、どんな感じだった?」
アディアが遠くに居る父を見ながら云う。彼女は不安そうだ。「お母さんがね、最近起きられなくて……魔力をとられたひとは、長く生きられないんじゃないかって、お父さんが云うの。凄く大切なものをとられた感じがするからだって。そんなふうなの?」
その日、あたらしく来たばかりの罪人が、掘り当てた魔水晶を額に押し当てた。だから、アディアはそんな話をしたのだろう。
魔力を奪われた人間は、再び、魔水晶で魔力を得ようとしても、高い確率で死んでしまう。その罪人も例にもれず、死んでいた。
「僕は、もとから魔力がないんだ。だから、なにもされなかった」
ファルシオンは迷った末に、そう口にした。アディアははっと、ファルシオンを見る。
「ファルも?」
ファルシオンは頷く。
アディアは涙ぐんで、顔を背けた。「そう……わたしもそうなの……ファルと一緒だね……」
ファルシオンが島に来てひと月ほど経った頃、坑道で事故が起こった。
木で枠組みをしているのだが、魔物の家族がぶつかってそれが崩れ、天井部分が落ちてきて大勢が生き埋めになった。ファルシオンもそのひとりだ。
「だいじょうぶ?」
ファルシオンは吐き気で目を覚ました。
傍らに、目だけが光っているアディアが見える。彼女は椅子に座っているらしい。屋内はくらい。彼女の緑色の瞳。伯父が身につけていた宝石のようだ。いや、あれよりも美しい。
ファルシオンは声を出そうとしてできなかった。体中が痛い。アディアが喋っているのだが、意味がわからない。
アディアが立ち上がる。小さな手がファルシオンへ伸びてきた。その手には、赤紫色に光る石が握られている。
額にそれが触れた。ファルシオンは気を失った。
次、目を覚ましたファルシオンは、体を癒す魔法をつかった。
つかえた。
ファルシオンは体を起こし、アディアがベッドへ突っ伏して寝ているのを見た。彼女が助けてくれた。彼女が魔水晶をつかって、魔力をくれた。
ファルシオンは魔力を持っていた。