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魔力坑のある島へ




 近衛兵を必要以上に武装させ、一緒に訓練している。

 近衛兵や従僕に、宮廷の間取りや警備情況について訊き、情報収集している。

 魔法に関しての本を読んでいる。


 それらが嫌疑の主な理由だった。たしかに訓練はしているが、必要以上にではない。

 宮廷について訊いたのは、自分がいつかそこへ行くのではないかと思っていたからだ。いつか、きちんとした王子として宮廷へ行く日が来ると信じていた。

 みっつ目に関しては完全ないいがかりだ。魔法に関する本を読んで学べというのは、父王の命令なのに。

 ファルシオンは近衛兵達と引き離され、すぐに馬車へのせられて、運ばれた。手枷をかけられたが、本来流刑に処される人間が施される処置はなかった。魔法の本を読んで知っていたのだ。普通なら、魔力を奪われる。

 それさえ自分にはない。




 数日すると、別の馬車へいれられた。流刑にされる人間達がのった馬車だ。

 ファルシオンは自分がどこへ行こうとしているのか、同じ馬車にのせられた罪人達の会話で知った。

 馬車が向かっているのは港であるらしい。そこから船へのって、王国北東の海にある孤島へ送られる。そこには魔力坑があるそうだ。


 魔力坑、というのは、やはり本で読んだ。

 魔力は世界中に遍在していて、人間はそれを体へとりこんでつかうことができる。ただし、人間ごとに体のなかにいれられる魔力に多い少ないがあり、魔法の修行をするか、魔水晶をつかわないとそれは増えない。

 魔水晶というのは魔力がこごってかたまったもので、それがとれるところが魔力坑だ。

 魔水晶を額へおしつけると、体へ吸収されて魔力が増える。

 反対に、胸へおしつけると、体のなかの魔力が吸いとられてしまう。これが、普通流刑に処される人間が施される処置だ。同じ馬車にのった者達はすべて、それをされているらしい。

 魔力のない人間や、魔水晶によって魔力を吸いとられた人間は、魔水晶を額にあてると死ぬ可能性がある。魔力坑で働かされているのはだから、魔力を奪われた人間だけだ。




 食事は一日に一回、粥か、乾燥したパンか、チーズだった。それと別に、朝一番に水を飲む時間がある。

 ファルシオンはかならず食事をとり、水を飲んだ。ぎゅう詰めにされた馬車のなかで、すでに死者は出ていたし、食事を一度でもとり損ねたら死に直結することは本能でわかった。

 まだ生きていたいのか、自分の気持ちがわからない。

 馬車のなかで何度も、宮廷からの使者を夢に見た。あの時、持っていた剣であいつを殺していたら、そして逃げていたら、どうにかなったのだろうか?

 わたしはどうして、素直に縛に就いたんだ?

 まだ、話せばわかると思っていたのか? 宮廷への叛意などないと、父上がわかってくれると。


 馬車が停まり、ファルシオン達は降りるようにいわれた。食事はもうすんでいるから、それとは別口だ。

 馬車を降りたファルシオンは、白波の立つ海を見た。罪人を運ぶ退屈な任務を任された兵士達が、大声で指示を出している。「並んで、こちらへ来い」

 そこは港だった。大きいだけで今にも壊れそうな船が停まっている。

 ファルシオンは兵士に突き倒されて転び、乏しい食事と長時間の馬車移動でまともに動かなくなった脚で、そちらへ向かった。




 船の旅は決して快適ではなかった。

 海は荒く、とても食事はとれたものではない。ただ、護送の兵士達も、魔力坑で労働する人間が減るのは困る。なので、たまにあたためた酒が出され、ファルシオン達はそれを呑んでなんとか生きながらえた。

「あんた、なにをしたんだ」

 毎度、隣り合った場所に座るようになった男に訊ねられ、ファルシオンは彼を見た。男は答えを求めていないようで、喋り続けた。「俺は兵士だったんだ。上官の罪をおしつけられた。俺はなにもしていないのに、部隊の金がなくなって……」

 周囲の人間はそれをきっかけに会話をはじめた。

 多くの人間が、自分はなにもしていないのだという。なにもしていないのに、上官に、兄に、姉に、婚家にはめられた。罪を被せられた。

 ファルシオンはなにも喋らなかった。彼らのいうことが本当なら、ここに居る人間すべてが本当は罪がないことになってしまう。そんなばかな話はない。

 ファルシオンはまだ、どこかで王家を信用していた。おとなしくしていれば、きっと父はわかってくれる。誰かが助けてくれる。誰かがわたしの無実を証明してくれる……。


 船旅は最後まで不愉快だったが、ファルシオンはその島へ辿りついた。

 陰鬱な天気だった。でこぼこした道を歩かされ、魔力坑の入り口近くまで辿りついた。

 細い溶岩流があるのが目にはいった。兵士が居丈高に云う。「飛び越えろ」

 罪人達は足をひきずって歩いていき、苦労してそこを飛び越えた。ファルシオンも、なんとか踏み切り、飛び越える。

 兵士に促されて歩いていると、背後で悲鳴があがった。

 飛び越えるのに失敗した男が足を焼かれ、倒れている。船のなかでファルシオンに話しかけてきた男だった。兵士が面倒そうにそちらへ歩いていく。

「手間をかけさせるな」

 兵士が男を蹴って、溶岩流へ落とした。ファルシオンは息をのむ。

 細いといっても溶岩流だ。落ちたらひとたまりもない。男はあっという間に見えなくなった。悲鳴もたてない。

 足を停めている罪人達に、兵士がむっとして目を向ける。

「なんだ? 治療できる人間が居ない。怪我をしたらそれきりだ。ほら、速く歩け」

 ファルシオン達は黙って、兵士に促されるまま歩いた。


 溶岩流で通行を遮断され、更に柵でおおわれた村のような場所へ、ファルシオン達は這入った。もとが何色だったかわからないような色の服を着た人間達が集まってくる。それぞれ、手にはつるはしやシャベルを持っている。男も居れば、女も居た。

「新人だ」

 兵士がぶっきらぼうに云った。「魔水晶は?」

「こちらです」

 坑夫のリーダーらしい男が、兵士を案内していく。


 ファルシオン達は残った男達に、道具を渡された。

「すぐにはいってもらう。あんた達はこっちの坑道へ、背の低い人間は向こうへ行ってくれ。力自慢は居るか? 居るなら、邪魔っ気な石を運び出す係をしてほしい」

 食糧事情がそれなりにいいのか、服こそ粗末だが、働いている男達は元気に見えた。

 兵士とリーダーらしい男が戻ってくる。兵士は赤ん坊ほどの袋を抱えていた。「今回は質がいいな」

「リエルさまの番なので、いいものを残しておきました」

「いい心がけだな」

 兵士は機嫌がよく、今度酒を運ばせると約束して居なくなった。

 魔水晶にも善し悪しがあり、いいものを本土へ運ぶと兵士が誉められるらしい、と、ファルシオンは学んだ。




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