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ファルシオンの生い立ち




 ファルシオン・ハヴィーナは、スブムンド王国の第三王子としてこの世に生を受けた。ハヴィーナは母の実家の姓である。

 ファルシオンは、多くの人間が魔力を持つこの世界で、魔力を持たずに生まれた。


 王家は、というか父王は、ファルシオンをはじめ王子として認めなかった。王妃である母もまた、「魔力なし」を生んだというそしりをおそれて、ファルシオンを無視した。

 その為、宮廷でもてあまされたファルシオンは、母の実家である辺境伯の爵位を持つハヴィーナ家へ預けられた。誰が名前をつけたかさえ記録に残っていない、慌ただしい引き渡しだ。父母のどちらもファルシオンの命名に関わっていないことだけは確実だという。


 しかし魔力なしに対する風当たりは、どこであってもつらかった。

 実の父母でさえ、魔力を持たないファルシオンをないものとして扱うのである。祖父母の態度にも、それとたいした違いはなかった。ファルシオンは基本的に、放っておかれた。

 とはいえ、王の子どもであることにかわりはない。死なせたら()()の責任になる。

 宮廷も、ハヴィーナ家も、どちらもファルシオンに消えてほしいのに、どちらも責任をとることは回避しようとしていた。宮廷はハヴィーナ家へファルシオンをおしつけたし、ハヴィーナ家はファルシオンに無教養な乳母をつけて死ぬことだけは防いだ。王の子どもを殺したとなれば、問題になる。


 乳母が最低限のことをしてくれたおかげで、生きながらえることはできたが、ファルシオンは常に栄養が不足していた。

 彼の最初の記憶は「空腹」だ。

 とにかく腹が減って腹が減って仕方がなかった。なにかを食べないと()()()ことと、なにか食べられるものがあることを本能的に理解した。ファルシオンは手を伸ばして掴んだものを口へいれ、次の瞬間殴り飛ばされてその場に倒れた。

 やっと歩けるようになった小さなファルシオンは、母の兄であるジャーデ辺境伯の息子の部屋へ這入りこみ、そのおやつを盗んで食べたのだ。仮にも王の子どもであるのに。


 ファルシオンはいとこに殴られ、いとこの乳母達の手で地下牢へ放り込まれた。しばらくしてそこから出されると、ファルシオンは厨房へ這入りこみ、または広間へ忍びこみ、とにかくどうにかして食べものを手にいれようとした。それ以外は考えられなかった。

 三回に一回は見付かって、酷く殴られたり、地下牢へ放り込まれたりした。魔力を持たないファルシオンには抵抗する手段はなく、まるまって耐えるしかできなかった。ある程度時間が経てば、相手は飽きていなくなる。

 一応は衣食の世話をしてくれていた乳母もいつの間にかいなくなり、最低限の庇護もなくなったファルシオンは、城中の人間から隠れるようにして生きることを余儀なくされた。




 ファルシオンが五歳の頃、雲行きがかわった。


 ファルシオンには上にふたり、兄が居る。同じ父母から生まれた兄だが、そのどちらも大きな魔力を持ち、王子の称号を戴いている。

 そのふたりが、揃って病に倒れた。それとほぼ同時に、父王もその病を得た。

 当時、都では厄介な病がはやっていた。隣国との戦争が終わったばかりで、幾つかの国との国交が回復し、よそからやってきた病が爆発的に流行したのだ。

 特に、国外からの嗜好品を扱う商人達が集まっている都では、大勢の人間が死んだ。魔法ではどうしようもない病では、魔力がある人間でも太刀打ちはできなかったのだ。

 第一王子、第二王子ともに病の床に伏し、王は焦った。このまま息子がふたりとも死ねば、政敵である王弟が継承権第一位になる。そのまま自分が死ねば、弟が次の王になる。

 自分の血をひいた者が玉座に座るべきだ、というのが、王の考えだった。そして彼は、自分に三人目の息子が居たことを思い出した。




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