したくない
はい、玲夜視点です。
お願いします。
うーん、これは陸翔にバレないようにした方が良さそうだなぁ。身から出たさびではあるのだけれども。まさか、あんなに敵対心ばっかり出していた陸翔に今までバレずに、僕自身がCEWOの誘いに乗るなんて思ってなかった。
……音鬼は大丈夫なのかな。もうずっとメッセージアプリであるLINEの返事が来ない。僕がメッセージを送っても、既読無視状態。あの日から、何も言わないから何があったのかすら分からない。あの人達の様な能力があれば何かが分かるかもしれないのに。
陸翔のことは僕が真面目な優等生だから、誘ってるだけって思ってたのになぁ。外面は優等生でも、中身は狡猾な悪魔なんだけどさ?けれど、利益を考えればどうでもいっか……。適当に一緒に遊んで、バラしてバイバイすれば。それが彼にとっても、僕にとっても、1番良いだろうし。
Arbre enchevêtréや神無みたいな何考えているのか全く分からない奴らとは違うから。音鬼みたいに見透かされているように思わせる者とも違うから。
僕の世界に彼を入れてはいけない。僕の世界に入って来て、耐えられるような子では多分、ない。未だに入れない理由が明確になっている葉月さんみたいな感じでは一切ないし。あれは、葉月さんが可哀想だよね。樹様の独占欲のせいだって分かっていないのかな?葉月さんが樹様を諦めようとしているのが、本当に謎だよね。相思相愛のレベルを超え過ぎてしまったレベルに2人は愛していると思うんだけど……。
まぁ、でも………。
「結局は僕自身が傷付きたくないだけなんだよね、全部。優等生なわけないのに、ね。彼は……僕よりも、遙かに良い子だからなぁ。」
葉月さんも、陸翔も。2人とも、あの学園に通う者としては考えられないぐらいに何にも染まっていない。染まっている云々で話すと、1番樹様が染まっている。統一■神である事も相まっているのだろうけれど、身分………身分??差があることを明確に示している。
葉月さんは1番なのに1番染まっていない。だからこそ神族と半神族の連中は、普通の人間と魔族の内、葉月さんを嬉々として苛めている奴らを親の仇かと思う様な目で威嚇していた。本当に、正常な反応だ。強制手段にする意味は分からないけど。
2人が両片思いな状況になっているって気付かないものなのか……?いや、でも樹様の1番仲の良い人が話し合った方が早いと言っていたから、周り(状況のわかっている者)は、気付いていると考えた方が早いね。なんであそこまで渋る必要があるんだろ………………?
陸翔は何も考えずにいじめはダメだと抗議をしに行ったみたいだけど、樹様がイラッとしてどろりとした感情を増長させる手伝いにしかならなかったみたい。独占欲がかなり強いっぽいし。さすが、半身が攫われたからというだけで■■の統一邪神を■■ただけあるね。
でも、約束した以上、破るわけにはいかない。樹様とも約束を交わしているから、どの道ゲームをしないといけない。樹様はまだ始めていなかったみたいだけど、葉月さんが始めてからにするのかな?僕が、TPになってしまった原因を苦々しく思いながら、ヘッドセットをセットする。
1番分かりやすい原因は、VRMMOが発売され始めた時にはすでに、音鬼の心はかなり疲弊していたからというもの。音鬼に何があったのかは、現実の情報が僕のハッキング能力を持ってしても視えなかったから、分からない。普通の情報は視えるから、一定以上のレベルの情報統制とセキュリティの精度が高いということか、他の人が妨害プログラムを組み入れたか。
そのプログラムからわかるには、自分では開示できないレベルの族間位階表示システムが最低でも5つ組み込まれていた。最初の1つとそれ以外では、趣が全然違ったため音鬼以外の者もいじっているとは思う。それが誰なのかが全く分からない。Arbre enchevêtréの確率が高くても、音鬼の方はArbre enchevêtréと仲良くはなかった。いつもArbre enchevêtréが一方的に会話をしていた。それにプログラム変更は、流石に独断で組み込まないと思う。
ここ1年半会っていないから、音鬼がどう過ごしているのかも分からない。ここ5ヶ月ほどは、楽曲更新すらなく、グループの活動動画や生放送にすらいないから生きているのかすらよく分からない。音鬼は、これ以上は嫌と言って手を抜く様なことがなければ、1番になっていたはずだった。それだけの実力が彼女には備わっているから。特殊喰い《イーター》と呼ばれる彼女は、本気でなくても少し頑張ろうと思えば常人よりも良い成績を軽々と残す。僕と彼女が本気で戦ったら、ほぼ確実に負けると思う。
Arbre enchevêtréはArbre enchevêtréで、1番になるのが面倒くさいとか言っていた。音鬼が表舞台と裏から姿を消す辺りで、彼自身がおかしかった。今は音楽ゲームをしていると、弟の樒夜から聞いた。一緒にプレイできる音楽ゲームをよく一緒にしていて、音鬼の歌った楽曲を避けに避けてプレイをしているらしい。彼にとって、音鬼の存在がとてつもなく大きいという事がよく分かる。2人の間に何かあったのだろうとは、想像できるけれど音鬼の方がいつ心が疲弊し切ってもおかしくはない状態だったから、よく分からない。
Arbre enchevêtréは、まだCEWOを始めていないみたいだった。音鬼が始めてからする、と言っていたらしい。もう一度、話したいから同じ国の方が良いと。彼は、音鬼がもう一度ゲームをすると思っているみたいだった。どこか確信めいた感じだったよ、と樒夜が言っていたがゲームを辞めた人がゲームを再びするのは、理由にもよるけれど彼女の場合は殆どあり得ないと思う。
だから、僕的には本当は、したくない。また、あんな気分になるかもしれないから。また、あんな感じにゲームを変えてしまうかもしれないから。また、他人の価値観を変えてしまうかもしれないから。また、仲間が苦しんでいることを知っても、助けられないかもしれないから。また、1人取り残されてしまうかも知れないから。
-怖い-
そんな感情を随分前に感じなくなっていたのに。いや違うな、音鬼とArbre enchevêtréの件があってから封じ込めていただけだ。それが、陸翔のせいで剥がされたんだ。
これまでにかかった回想の時間は10秒足らず。ゲームハードの電源を入れて、他世界の中に、意識は落ちて行く。




