優等生
また、他人視点です。次からは、玲夜視点に出来ると思います。
「あー、玲夜。なんで俺の所に居んの?」
「え…?だって、陸翔が元々誘ってきてたでしょ?だから、今日から遊べるよ、って」
そういう事だったのか。玲夜は笑顔を人を恐怖に貶める時に使う事がよくあるから、何かやらかしたか焦った。俺ー椰永 陸翔ーは相変わらず時々学校を休む問題児だからな。玲夜は入学してから全教科満点の実技はぶっちぎりの出来で、先生が「死咲くん、君個展を開かないかね?」なんて言っていた。
少し引くぐらい出来が良いし、苦手なものが無さすぎて人間味が全くない。一つ年上の意味不明な苛めの主犯の橋本 樹も人間とは?と言いたい様な出来だけれど。時々目が完全に闇に堕ちている以外はまともな先輩だから、もう少し正気を保っておいて欲しい。
「それで?」
「一緒にやりたいなぁ、って。僕…さぁ?初心者PKには会いたくないからさ。それに、君がずっと言っていたんだから一緒にしようよ」
「覚えていたんだな」
案外忘れ去られていると思っていたから、意外に感じる。この学園は、かなり勉強スピードが早く、且つ高難易度なので、玲夜はいつ勉強しているんだろうかと考えてしまうのはしょうがないだろう。もしくは、そもそもの脳の違いなのか。橋本先輩が苛めている海霧 葉月さんは、色々な成績において最下位を取っている。唯一、例外があるとすれば音楽だけだ。歌と作曲においては、学園トップに立つ。それ関連で、文章を書くのも得意だったはずだ。
一回だけ音楽の授業ではなしたことがあって、そこからは葉月さんがとても頭が良い事しか分からなかった。彼女のとっている成績さえもがいじめの一種です、と言われたら絶対に信じることができるぐらいにはとても聡明な人だった。何を考えて、感じているのかがよく分からない無機質な精巧な人形のような目を持っていた。表情を上手く取り繕っているようだったが、目に生気を宿っていなかった。ここまでくると、人は違和感がないだろうと思うぐらいには完璧な微笑みだった。しかしその瞳は、最後に見たあの少女と同じような瞳だった。
「で、どこの国に降りたらいいの?別に他の国でも移動したら良いだけだけど、面倒臭いでしょ」
「そうは言ってもよ、俺が弱いかもしれねぇぞ?」
ほんの少しのいたずら心で聞いてみる。実際には、上の中ぐらいの実力は持っている。圧倒的な強さではないし、型に嵌れば中の下の奴にだって負けてしまうような中途半端な強さだ。CEWO内で、通称【ナンバーズ】と呼ばれている奴らには手も足も出なかった。そんな、俺の思考を嘲笑うかのように玲夜はコロコロと鈴なりに笑った。何かがおかしいと言うように。
「そんなことないと思う、けど。君は最前線プレイヤーだったでしょう?約半数のVRゲームで。僕もちょっとずつやってたし、知ってるよ?僕だって、ネット上での友達って、沢山いるし。沢山いればいるほど、最前線プレイヤーの情報も多くもらえる様になったりするからね。
ゲームのタイトル数は、確か31もあったよね?その上で、半数に当たる15タイトルにおいて最前線をキープし続けられているということは、十二分に陸翔が最上位プレイヤーであるということの照明だと思うよ。僕は、できて8つまでだと思うし。これ以上は、普通にできるけれど途中で面倒くさくなりそうかな。
あとは、陸翔ってそのまんまじゃん。分かっちゃうから〜。隠す気ないよね、ネットリテラシーのnの字もなそうなんだけど大丈夫そう?」
「かなり長文で言われると思わなかったや。まぁ、そうだよ。やっぱり、分かるか。ネットリテラシー自体はあると思うけれど」
結構詳しく知っているんだな。俺はそこまできちんとは数えていないんだけれどな。
「俺が降りたのはまぁ、フィングルド王国な。てか、お前も最前線メンバーだったりした?」
さすがに俺だけバレるのはなぁ、なんか嫌だなというか癪に触る。ネッ友繋がりで知ったと言っても、8つが飽きずに楽しむ限界とか言っている時点で最前線プレイヤーだよな………。複数やっていた奴らって名前を変えてる奴らが5名に、同一ネームが4名だったっけな。2位総舐めのぜんてぃと、3位総舐めのArbre enchevêtré、明るい独特な音楽YouTuberの音鬼。音鬼と同じ音楽グループ「invisible passion」の神無だ。
「さぁ、どうだろうね。見つけてみたら?分かったのなら教えてあげる。案外、分かりやすいかもしれないよ」
「ごまかすなよ…、でも、否定はしないんだな」
「否定したら、知り合いに思いっきりどつかれそうだからね。僕の知り合いちょっと怖い子いるから。Arbre enchevêtréと音鬼に説教を喰らうことほど精神的に疲れる事はないよ……、本当に。Arbre enchevêtréには説教を喰らう機会があるから。まぁ音鬼は……、僕も連絡つかないから。ずうっと、既読無視なんだよね」
想像通り、やっぱ最前線メンバーか。CEWOしてない奴ら、ゼロのハナ以外にも普通にいるからな。分からん!!有名所の内、多種類のゲームが得意な奴らが軒並み参加していない。かなり活躍している奴らに限って、なぜかCEWOを未だに開始していないんだよ……。上手い奴らはゼロのハナに合わせなければいけないという決まりがある、と言われても信じられるや。
最も、ゼロのハナの次に上手いと言われていた音鬼は、1年半前にパタリと辞めてしまったし、連絡先も知らないから聞けない。玲夜は、知っているみたいだけれど。ここ1年ぐらいは、楽曲自体の更新も殆どない。どんどん更新頻度が落ちていっていた。
1番新しい楽曲は、半年ほど前に発表された作品である。しかも、少し暗い感じがした。「音鬼らしくない」という意見が至る所で見受けられた。彼らも俺も、音鬼について完璧に把握しているわけでは、勿論ない。しかし、音鬼が作品を上げ始めてから一度も作ったことのない暗さがその作品にはあった。
確かに、あの音鬼を見ていなければそう思うのも無理ではないと思う。
最後に彼女と会った時音鬼は泣いていた、どことなく狂ったように。過呼吸気味に呼吸をして、目に入る敵を全て殺していた。彼女は、自分の闘い方を他人に見せる様な奴ではない。なのに、バレるのも承知の闘い方をしていた。彼女は、傀儡人形を使っていた。そして、彼女の通った道には血の涙の跡ができていた。泣き終わった彼女の瞳には、映っているはずの景色さえも、何も映ってはいなかった。
それに、Arbre enchevêtréは、誰とも連絡先を交換していないはずだし。絶対にリアルバレしたくないとかどうたらこうたら言っていた気がする。もしバレてしまったら、引きこもるとかって言っていたから、本当にバレたくないんだと思う。音鬼にリアルバレしたくないと1番声高に叫んでいたから、音鬼と現実世界で知り合いなのか、と思う。音鬼と動き方がどこか似ていたから、よく一緒にいるのかと思っている。
音鬼がゲームを辞める8ヶ月前ぐらいに、エリアボスを連続でMVP討伐して行っていたけれど、それは何か関係があるのだろうかと変に勘繰ってしまうのは、仕方がないだろう。時々MVPをとることのある彼だったけれど、たまたまで収まる範疇のことしかしてこなかった。そんな彼がバーサーカー並みに、討伐していっていたのだ。時期はかなり空いているが、何かあったとしてもおかしくはないだろうと思う。そこから更に何かがあったと考える事もできるし。
神無は、invisible passion関連のゴタゴタで、いまだに始められていないはずだ。音鬼がグループまでも脱退するかどうかの討論が交わされているって言っていた。彼女は、グループにあった曲をもう歌えない、作れない、という事を最大の理由に挙げていた。音鬼が小学4年生の頃に立ち上げたグループで、みんなで切磋琢磨し合うようなグループだった。
勿論、音鬼がグループを脱退すると言っているのだから、その通りにしたほうが良いのだろう。問題は、メンバーの1人の祈雨が全く納得していない事だった。祈雨の説得に時間を大幅に喰っているのだ。祈雨にとっては親代わりの様な存在である事も、説得の遅れている要因らしい。
音鬼がゲームを辞める前に、「僕はこの世界に要ると思う?」と言っていたけれど…………。あれは、どういう様な意味だったんだ?俺は、「お前がいなかったら、グループとかどうすんの」って、言ったけれど何を言うことが正しかった?彼は何を俺に求めていたんだろう?そういえば、音鬼はなんで自分のことをウチじゃなくて僕と言ったんだ?
「あ、僕って愉快犯に思われない?」
音鬼について考えを巡らしていたせいで、そんな言葉を玲夜が呟いたのは聞こえなかった。




