海霧の源
海霧の精神状態が酷い理由がわかるかと思います。
「……。零夜、止まれ。暴走しようとするな」
「音緒兄‼︎ああ、あはは……。僕、どうしちゃったんだろ?はぁ」
「まぁ、記憶に関するものはその者の性格をも変えるって言われてるぐらいだから、気にしてない」
「ムグルマが言うと説得力が減るのはなんで?」
言葉の重みがなんか少なくなっちゃうんだよねぇ……。本当はちゃんとしたことを言っているんだけど。あ、紫苑と白雪いるや……ちょうどいい。そういえば、主の自我がないからこその自由行動なんだっけ?それとも、基本1人でなんとかなるから自由行動なんだっけ?そこのところはどっちだっけ?
どっちの神の1柱だっけなぁ……。一般的には邪神って見られてるけど、その割には負の魔力が少なすぎるし?そもそも主神は記憶がある時の方が珍しいし。それを考えると、主神の七聖獣なのかなぁ?消えてなくなってしまいそうな主神を直接手助けすることができない、出来損ないの死に損ない達。色々な制約に縛られて、何もできないのに、死にたい時に死ねずに生かせられ続ける。
「紫苑‼︎これ読んで?それで、この人をどうするか考えてくれたらいいかな。別にこっちででも、地球でもいいから」
「そうですか。更生の余地はどうでしょうね……まぁ、頑張って矯正します。最悪、黒夢に手伝ってもらうので」
「流石に黒夢はやめてあげなよ?間違えて廃人にしちゃったらどうするの?もしそうなったら、白夢が危険だよ」
黒夢にとってはいいのだろうけれど、黒夢の後ろに引っ付いている白夢が的確に殺しかねない。死んじゃえ☆って、勢いのままに殺す可能性しかないから、黒夢は引っ張ってきたらダメでしかない。愛なんて黒夢が他者には与えないのはわかっていても、勘違いする奴が続出してるし。白夢にさえも、黒夢は何もない。
ーーーー愛、それがわからないのが、八岐大蛇が1柱、海霧黒夢の背負う呪い。1番軽いのが、灰夢の両性具有の呪い。灰夢がご褒美だ、と言ってしまうぐらいには灰夢は、祝福と捉えている。
海霧の9柱の中で最も重い呪いを患っているのは、海霧葉月。記憶封印の呪いである。時々、その呪いに綻びが出る。その回の時には、一部の物事は覚えている状態で生きていくことが可能となる。全ての回で、違和感を覚えながら過ごしている。
虚しい日々を楽しい事で誤魔化して偽って潰していた殺神の末路。
その末路であり、八岐大蛇発生の核である葉月の記憶を、身体を、活力を、呪いは蝕む。ーーーー
「白舞とか虹夢は?あの子達ならちょうどいいんじゃない?」
「無理だぞ。もう少ししたら呪いの周期がまた回ってくる。八岐の呪いはランダムすぎて、どうすればいいかわからないから。1週間は、天牢に閉じ込める。その後に、大丈夫なのが黒夢だけってことだ。」
「もうそんな時期ですか……。白雪は、灰夢と一緒にいてもいいのではないでしょうか?」
「あの時期の灰夢は、いや、違うな……8柱は互いが互いを慰めている。誰か1人でも欠けたら、本当に呪いが収まるのが遅くなる。御主人は、1人でいつも苦しんでるけど」
呪い、か……。程度が強い呪いなのかな?気合いでなんとかなるような生半可な呪いではない。結構潔癖症な白虎の白雪にとっては、呪いの効果が最も強い時期には一緒にいたくない。それは、内容が内容だけに普通だし、なんなら逃げないといけない案件だ。
「御主人様は、1番負の魔力がなく、1番負の感情がある方ですからね……。御主人様の愛されたかったという事実が願望となって呪いにも影響を及ぼしているのでしょう」
「愛……ね、あいつの愛は常軌を逸している。受け入れることは不可能に近いのだろう……な?御主人の精神がほとんどもう消えかけなんだ」
「呪いってさ、そんなに大層なものなの?」
「えぇ、八岐の呪いは八岐大蛇が生まれた時に発生した、一蓮托生型の呪いです。呪いの種類としては生成最果です。条件などは、私共も分からないのですが……。とても強力な呪いで、御主人様が8回目の時に発生しました」
「それに、呪いの餌食になるのが半年に一回なんだよ。その時に、発情状態でほんっとすげぇ淫乱になりやがるからな?御主人なんか、引きこもってどうしようもない熱を堪えてんだよ。どこの世界線でもそうなる。なんかの小説の中での出来事ならいいんだけど、な」
呪いの中でも最上位の呪いに当たるのか。一蓮托生型は、死ぬまで……これだけでも強力な呪いに分類されるのに、最果種は……転生する限り苛まれ続ける。だからこそ、呪いが成長し続けてしまう。呪いの発生主であり、1番食われてしまう者が、何に分類されるのか?
その前の回は、バッドエンドでも、宿主的に幸せだったら……それを覆すほどの絶望を味わせられる。そんな呪いらしい。この呪いは、番にさえバレないほど、深淵に根付いていて、どうしようもなく手遅れみたい。
「どうしようもない成れの果てだから、御主人がこっちに来ないように尽力するだけ。御主人には、外の世界で生きて、死んで欲しいから。もう、魂が持たないんだよ……。御主人は、1人で頑張りすぎた」
「私共は、御主人様が心安らかに眠る手伝いをするまでです。邪神にバレずに永遠に死ぬのが、あの方の願いですから。私共も……もう、苦しまれておられる様子を見たくはありません。御主人様がもう生きたくないというのならば……その御心に従うのみです」
従魔の奴らって……、奴らが苦労してるんじゃない。苦労をしているのは、ずっと、ずっと、主神。何を考えているんだろう?今の主神には記憶がないらしいから、心の奥底深くに芽生えているものだって、嫌でも分かる。救いたくても救えない従魔。教えてすらももらえない邪神。
「……。御主人を見かけたら、そっとしておいてあげて?その方がいいから。刺激しちゃったら、どうするかはわかんないし」
「分かった。楽になりたいならなればいいよ……。記と滅は借りるね?」
「えぇ、こちらも人紛いについては精査しますよ。それでは、お気を付けて」
特に何も言われなかったなぁ?もう早く、楽になりたい、か……。魂がなくなりかけているからこそ、だろうけど。そうではないのだったら、邪神が束縛して離さないだろう。
御主人って……。葉月さんだよね?なんで、八岐の呪いがかかってんだろ……。普通は、発生に他者は関係ないのに。




