異星人との遭遇
光速を超えられない限り異星人が地球にやって来れないと考えたらこのような話しか思い付きませんでした。
「坊や こんところで何してるの?」
遊歩道から少し離れた道の無いところで 子供が一人でしゃがんでキノコを採っているように見えたので声をかけた。
子供は不意を突かれたかのように少し慌てて顔を上げ
「え、あ、あの・・・」
「あ、ごめんごめん、驚かしたかな、そんなつもりじゃなかったんだけれども・・・キノコによっては毒のやつもあるから一人で採っちゃ危ないかなあと思ってね。お父さんやお母さんは近くにいるの?」
「いや、あの、ぼくだけです・・・」
見た目は小学校高学年の男の子なのだが、目つきや動作がどこか子供っぽくないように見える。
それにこの場所は自然公園の中でも民家からは少し離れているため、子供一人というのはやはり不自然な感じがする。
「あなた理解力ありそうだからちゃんと説明しましょうね」
目の前にいた子供が急に大人びた口調になり 心持ち声まで大人びたような気がして私は少し慌てた。
(しまった・・・見た目子供かと思って“坊や”って言ってしまった・・・)
「あ、いやいや失礼しました。何といいますかそのぉ・・・」
「いえ、気にしないで下さい。ご親切にお声をかけて頂き有り難う御座います」
見かけだけで判断して 坊や呼ばわりしたことに私は非常に後悔した。そんな私の心の中を見透かしたかのように彼は話をつづけた。
「この姿は仮の姿なんですよ。大人の容姿ですと国によってはいきなり突っかかってこられたり、ましてや女性の姿だとますます面倒なことになったりして・・・」
(・・・えッ、この人は一体何を言っているんだ? まるで姿を自由に変えられるみたいなことを・・・)
「そうです、私ははっきりした形を持ってないんです。実態は在るんですけれどもね」
(あれ、何も言ってないのになぜ私の心の中の疑問に正確に答えてくるんだ?)
「あなたの脳に直接話しかけてるんですよ、見かけ上口はパクパクしてますけどね」
そう言われれば確かに口の動きと言葉が少しずれてる様な・・・
「テレパシーってこと?」
[まあ そう思って構いません」
それは何となく理解できたとしても、姿形ちを自由に変えられるというのはどうにも・・・
「ああ、それね、今ここには無いけれども体の分子構造を自由に変えたりできる機械があるんです」
「3Ⅾコピーなら知ってるけれども有機体のコピー機なんて聞いたこともない・・・」
「いえ、コピー機とは全く違います」
「しかし分子構造を自由に変える機械なんて日本やアメリカには無いよね? まさか中国じゃぁ・・・」
「驚かないでくださいね、地球じゃないんです」
「エッ・・・!?」
「はい、私はあなた方の言う宇宙人です。まあ我々から見るとあなた方の方が宇宙人ですけれどもね」
「・・・」
「私の星では細菌は単体でしか存在し無いものですから 地球に来てキノコを発見した時には珍しくて、いくつか持ち帰ろうとした時にあなたが声をかけてきたと、そういう訳です」
「あなたの星っていうのは・・・?」
「直ぐ近くです。2000光年位しか離れていません。」
「そりゃあ何万光年から見たら近いかもしれないけれども、光の速さで飛んだって2000年はかかるでしょう?」
「光速とか電波とかの物理概念では宇宙旅行は無理です。どんなに技術が進化してもせいぜいお隣の3、4光年離れた所までが限度でしょう」
「光速の50%出したとしても・・・」
「いや、今の地球文明ではどんなに技術が進化しても10%出せるかどうか・・・」
「あなたは2000光年彼方からどれ位懸って来たんですか?」
「ほんの一瞬です」
「そうですか・・・やはり空間を歪めてワ一プとか?」
「そんな莫大なエネルギ一の懸る様なことはしません。あなた方の物理学と私たちの物理の進化の形態が全く違ってるので、説明しても理解できないでしょう」
「アインシュタインは間違ってたんですか?」
「いえ、相対性理論は何の問題もありません。あれだけシンプルな公式は我々の世界でも驚きです」
「でも光の速さは越えられない・・・」
「先程我々と物理進化の形態が違うと言ったでしょう。あなた方は我々と比べて視力が非常にいいですし、言語中枢もよく発達しています。目が良い事から星の観察が始まり、そこから数学が生まれます。その数学が基本となって文明が今日のような進化に繋がっています」
「あなた方は目が悪いんですか?」
「全然見えない訳ではないですけれども 地球人と比べたら相当悪い。先ほど言った分子構造を変える機械で地球人の姿になったら まあ見える見える・・・宇宙の星の奇麗のなんのって!」
「星を見たこと無くて宇宙旅行してたんですか?」
「まあその分あなた方には無くなってしまった別の感覚で物質の存在を感じることは出来ますけどもね」
「言語中枢・・・てのは?」
「それですよ別の感覚ってのは、これはあなた方が言葉で仲間とコミュニケイション出来る分 テレパシー能力が退化してしまったんですよ。たまに大事な時に弟六感的な形で働く時が有るみたいですけれどね。我々はしゃべれない分テレパシーが発達したんです」
「話し戻していいですか? さっきの一瞬で何千光年も移動する技術の話なんですが・・・」
「ええ、何千光年だろうが何億光年だろうが一瞬で移動できます。ただこの原理は失礼な言い方かもしれませんがあなたの脳では理解できません。と言うよりも世界中の物理学の第一人者でも無理でしょう。」
「そんなに難しい理論なんですか?」
「う一ん・・・強いて言うならば量子もつれの応用なんですけれどもね。我々からすると決して難しくはないんですが あなた方の物理学では10進法の数学に当てはめて考えますから 無理やり数式で表そうとして発狂者が続出するんじゃないですか」
「数学ってのはあらゆる文明に共通するものかと思ってました。宇宙人も含めて」
「我々には数学という概念はありません」
「複雑な数の計算なんかはしないんですか?」
「しません、答えはすぐに頭の中に浮かびます。例えば真っ赤な縦じま模様の星の形、と言えば大体頭の中に思い浮かぶでしょう? それを数字に置き換えて足したり割ったりしたら訳が解んなくなるでしょう?」
「う一ん、なんとなく分かったようなわかんないような・・・あなた方は我々と比べてどれぐらい文明が進んでるんですか?」
「まったく同時期に発生しました。我々の方が20万年位進んでますか・・・」
「に、20万年・・・!」
「以前、5千万年位進んでる星に行ったことがあるんですが 全く異質な世界で面白くもなんとも無かったです。この地球位が我々と同じ生態系をしていて私にとっては面白く感じます」
「300年後でも想像出来ないのに、千年、一万年、どころか20万年後の世界なんて全然想像できないなあ」
「何百万年、何千万年毎の大きな気候変動が無い限り 文明とは無縁の動植物はほとんど変化しません。その時々の気候にちょうど適したものが多少大型化するぐらいですかね」
「しかし我々人類のような文明を持ってるものにとっちゃ 百年違ったらとんでもなく違いますよ」
「今の地球文明は滅びるか飛躍するか 岐路に立っていますね」
彼はとんでもない話をしている割にはいとも平然と話しているので ほかの星の例を幾つか知っているのかもしれない。
「ほかの星で滅びた所なんかあるんですか?」
「半々ぐらいかな、そろそろ行かないと・・・」
と言って彼は先程採取したキノコを容器に2,3個入れてこの場から立ち去ろうとした。
「ちょっ、ちょっ・・・ ちょっと待ってください・・・! あなたにとっちゃ珍しくないかもしれませんが、この地球が滅びるか滅びないかは私にとっては大問題です」
「まあそうかも知れませんが あなたの力ではどうにもなりませんよ。ごめんなさいね失礼な言い方で」
「それはそうなんですが、やはり核戦争ですか?」
「それも多いですが AIロボットに滅ぼされるということも結構多くあります。あと大規模な気候変動や小惑星衝突・・・」
「AIは人間が組んだプログラムに逆らうなんてことあるんですか?」
「現実にAI組み込んだ兵器使って人間を攻撃してますから 人間は殺しても構わないものと認識してますよ。あとはネットワークが完成してロボットが自己増殖し始めれば時間の問題です」
「もう手遅れですか?」
「いえ強力にプログラミングしなおせば間に合います」
「それに比べて核戦争は愚かな指導者がいる限り防ぎようが無い・・・」
「いや、核戦争とは限らないです。そもそも人類は核廃棄物の放射線処理をきちんと出来ないうちに利用し始めたことに間違いがあります。火の消し方を知らないで使ったら火事になってしまう・・・」
「・・・いちサラリ一マンの私ではどうしようもないですね」
「あなたの立場でやれることと言ったらマスコミを利用して騒ぎ立てることでしょうかね。面白ければ面白いほどマスコミは寄ってきますから」
「先日あった宇宙人が言うには・・・ってですか?」
「そんなことを言ったら変人扱いをされて さすがのマスコミも相手をしてくれませんよ。それじゃあ私はもう戻ります」
「も、もう一つだけ! あなたの星に私を連れて行ってもらう訳にはいきませんか? ほんの一瞬なんでしょう? 勿論何日かしたら地球に戻してもらうのが条件ですけど・・・」
「出来なくは無いですがまずその体では無理です」
「機械で分子構造を変えるんですか?」
「いや、もっともっと物体としての存在はほとんど無くして量子というほとんどエネルギーだけの存在にまでバラバラにします」
「ちゃんと元に戻れるんですよね」
「勿論ですが問題はあなたの脳なんです。20万年の文明の違いはあなたの脳では理解できません。それを何とか理解しようとしてオ一バ一ヒ一トするのは目に見えています」
「発狂してしまうという事ですか?」
「100年や200年位なら ああずいぶん便利になってるなあ、で済みますけれども・・・、そんな訳で私について来るのは諦めて下さい、それじゃあ・・・」
と言ったかと思ったら頭上からライトブルーの小型カプセルのようなものが急に覆いかぶさり、5,6秒後には飛ぶというよりは すうっと消えてしまった。
書き始めはもっと長くなるかなあと思ったのですが、話そのものが立ち話という設定なものだから 書き上げてみたら思いのほか短く仕上がりました。