5.『Moon暦726年3月21日(水)』
5.『Moon暦726年3月21日(水)』
私が艦長にプライベートで連絡をしてから、午前中はいつも通りの個々の授業をこなしても、毎日二個ほどのパーコンによるレポート提出が課されているので、その宿題のレポートさえ提出すれば成績に関しては問題がなく、キャプテンの仕事が入れば早起きしてレポート作成の時間にあて、午後からは体力作りのための訓練をしていた。
☆ ★ ☆
「リリーさん、艦長からプライベート通信が入った」
『了解』
艦長から連絡があっても私が連絡をしても、お互いの番号は直通である。
「はい。マギーです」
「キャプテン、今時間は大丈夫? 部屋にいるの?」
「はい。自分の部屋にいます」
「あれからマーシャさんから連絡があったの?」
「いえ、ありません」
「そう。金曜日に連絡があってからいろいろ考えてね。昨日は別の会議が入ってたからね。今日は午後から極秘に特別会議を招集したのよ。巨大ミミズ事件の資料を取り出してね。自爆で死亡した五人の仲間が助け出されて生きていた、と連絡があったことを説明したのよ。マーシャさんのこともね」
彼女がそう説明してくれたけど、すでに最初の連絡から二十五日間も過ぎていた。
「今まで上では数百年以上も知的生命体を探っていたのよ。それが言葉も理解してるし仲間を五人も救助したと話したのね。皆は信じられないと言ってた。当然そうなると想定してたけど、私はキャプテンの話しは信じてるからね。キャプテンがここに来て直接マーシャさんと連絡を取るということに決定しました。そうすれば皆が信じるわね。このことは『Moon歴』が始まって以来の重大ニュースになる。リリーさんが開発した時計があるから連絡が取れること、三回連絡があったこともね。キャプテンから聞いた細かいことは話してないからね。とりあえず、明日の九時にサーム・ナッカ号からそちらに連絡が入ります」
「了解しました」
私はそう言ったけど、艦長も私の話しを信じているかどうか分からないな、とか思ってしまい、ほかの人はもっと信じられないのだ。それは当然のことだし疑問の余地がないとも思ったし、だからこういう話しになったのであり、私が彼女に直に連絡をすれば、ほかの人は信じてくれると思う。
「エネルギーの関係上十日ほど日をあけた方がいいことも考慮したのよ。前回みたいに来週の月曜日からまた病気になってね。キャプテンも予定があるだろうから前もって知らせておこうと思ったのよ」
そう言った艦長の声の響きは、少し喜んでいるようだ。
「ありがとうございます。月曜日に上に行くということですね?」
「そういうことね。でも土曜日からここに来たらどう? そうしたら土日に二人でゆっくり話しができるでしょう。私も急に予定が入るかもしれないけど、私の部屋の隣にプライベートルームがあるからそこに泊まりなさい」
艦長が突然そう言ったから私は驚いてしまう。
「そういうことができるのですか。喜んで行かせていただきます」
私は即座にそう返事をしたけど、そういうことができるなんて信じられないと思いながらも、泊まることを深く考えていなかった。
「……よかった。土曜日の十四時はどう? ほんとうはもうプランを組んだのよ。キャプテンに話す前に悪かったけど、そうしないと私の時間が取れないからね。午前中は別の用事かあるけどキャプテンは午後から時間があるの? 夕方はまた人と会う予定があるからね」
艦長はそう説明してくれたが、私もやることが多いがリリーさんがいるので相談する相手がいるから、精神的な不安に対する圧力が少しは軽減されているような気がするが、艦長場合は分刻みの予定が文字を埋めるごとく羅列してあると考えられる。
「了解しました。十四時にお願いします」
「キャプテンも忙しいとは思うけど、ほんとうに大丈夫なの?」
「大丈夫です。上に行く機会は少ないですから貴重な時間です。まして艦長と直接お話ができるなんて、私は幸せ者です」
「ありがとう。勝手に決めたけどね。それでは十四時にトランスミットルームで待機して、こちらからやるようにセッティングさせるからね」
「了解しました」
私はそう言ったけど、艦長は忙しそうなのに私と会う時間を作ってくれるなんて信じられないとも思い、何か特別な話しがあるのだろうか、と私はふとそう思ってしまう。
「ニッシー大尉に迎えに行かせるから直接私の部屋に来なさい。彼がキャプテンに話しがあると言ってたからちょうどよかったのよ」
「えっ、リリーさんのボディーのことでしょうか」
私は即座にそう尋ねてしまう。
「私も詳しく知らないけど彼も忙しそうだから、私とキャプテンに直接話すつもりなのでしょうね」
「ニッシー大尉にはほんとうに感謝してます。お忙しいのに何度もここに出向いていただき、私たちの意見も取り入れていただきました」
「大尉の報告によると毎回楽しかったと言ってたわよ。私の方が不思議に思うくらいなのよ。そのつど報告はあるけどね」
「ほんとうですか。仕事の話し以外は上の話しとか自分のこととか、私がリリーさんと二人で話しているのと変わりない普通の話しですが……」
「……普通の会話か、ここでは友だちとの会話はあまりないからね。仕事の話しばかりでしょう。大尉は普段はとても無口で仕事が友だちみたいなのよ」
「ここではとてもおしゃべりでしたよ」
「あなたたちとは気が合うのね。だからそっちに行くのが楽しいのよ。私にも意味がよく理解できた。行くのが面倒だと言われるよりはいいけどね」
「……最近は連絡がありませんが、仕事か落ち着かれたのでしょうか」
「ボディーの九十五%は完成したとか言ってたわよ。残りの五%はリリーさんが直接使いこなしながらチェックするとも言ってた。リリーさんであれば自分でできるかもね」
「そうですね。私はずっと楽しみでしたので、とても待ち遠しかったのですが嬉しいです」
「……この機会に一つ聞いてもいいかしら?」
「えっ、何をですか」
「私がリリーさんのボディーを作ることに関して、その……何か聞きたいことがあるのでは?」
「えっ、何のことでしょうか」
私はそう言ったけど、突然の話しで頭の中のパーコンが言葉を検索しているみたいだ。
「私とリリーさんのつながりを不思議に思ってるのでしょう?」
「えっ、ボディーを作っていただいて感謝してます」
私はそう言ったけど、その言葉しか検索結果が出てこない。
「そう……それならいいけど、私も少し気になってたから聞いたのよね。キャプテンが気にしてないならそれでいいから……キャプテンも大人になったのね」
「……私は『えっ』を連続してますね。自分で驚いてます」
私そう言ったけど、自分で何を言っているのだろうか、と思ってしまう。
「……急におかしなことを聞いて悪かったわね」
「……私の心の準備ができてないだけです。今度は質問内容を整理しておきます。それまで待っていただけますか」
私はそう言ったけど、今度の言葉も会話が成立していない。もう自分で何を言っているのか分からなくなる。
「了解しました。会話力もうまくなったわね。それが大人になったということよ。将来が楽しみね」
「ありがとうございます」
私はそう言ったけど、会話が上手いなんてその言葉も意味不明だ。
「……土曜日は楽しみにしてるからね」
「はい、私もです」
「マギー、お休みなさい」
「お休みなさい。失礼します」
☆ ★ ☆
「リリーさん今の聞いてた。艦長はどうしたのかしら? 最後にマギー、お休みなさいって言ってたよ。ビックリしちゃった。心拍数が上がっちゃったよ」
『……私も驚いた……マギーを今まで以上に頼もしく思ったのでは』
「そうかなー。私はリリーさんのボディーが完成するのが楽しみなだけで、艦長とリリーさんとのつながりは気にしてないよ。今まで考えたことはあるけどね。どう考えても結論が出ない。艦長が話したあのドクターの話しもほんとうかどうか分からないし、艦長を疑うつもりはないけど、記憶力がいいのは不思議ではない。ほかの仲間もスペシャルスキルがあるからね。それよりも不思議に思うことはね、ここの仲間はどうしてここに集められたのかということよ。そっちの方が気になるのね。今までリリーさんにこういう話しをしたことはないけど……私だって誰かがここに行くように指示したから、その誰かが知りたいと思ったのよ。リリーさんは知ってるの?」
私は長々と今まで考えていたことを口にしてしまったが、誰かの指示なしでは……それが人間なのかパーコンなのか確認したいと思ったからだ。
『そこまでは知りません。私は地上と『ムージュ号』以外はアクセスが不可能だから、地上と言ってもジュピターシティーだけよ。マギーがここに時計をセッティングしてくれたように、上でのセッティングは不可能なのよ。パーコンが巨大すぎて太刀打ちできないと思う。だから、マギーが卒業して上に行って階級が上がればそれなりにプライベートナンバーが変わるから、それを使うと私も上のパーコンへのアクセスが可能になるのよ。プライベートナンバーはほかの人に聞くことができない。その人の経歴がすべて入ってるし極秘情報でしょう。そういう理由で上にはアクセスできない。上から連絡が入るのは大丈夫だけどね』
「……なるほどね。リリーさんにも分からないのね」
『マギーはそういうこと考えてたの? 私はマギーが上で活躍することだけを考えてたけど、もし上に入って調べられたら教えるね。約束します』
リリーさんはそう言ってくれたけど、彼女の存在がそういうことになっているなんて、今まで考えたこともなかった。
「ありがとう。それとどうして艦長が私のことを知ってるのかしら? それも不思議なのよね。でも、今となってはどうでもいいことだけど、私は艦長と直接話しができるだけで満足です。そう思わない?」
『ほんとうにすごいことなのよ。『ムージュ号』がサームナッカ号の付属艦として登録されているから、それでマギーの噂を聞いたのでは、キャプテンになってからだと思うけどね。マギーがあれこれ改革してるから、ほかの仲間よりも確率は高いでしょう? 私は上には直接アクセスできないけど、上のパーコンがチェックすれば筒抜けなのよ。いくら私が頑張っても規模が違うのよ。そういうことを考えたことがあるの?』
彼女からそう聞かれたから、驚いて一瞬考えが止まってしまう。
「……今まで考えたこともなかった。リリーさんが管理してるのかと思ってたからね。今までの改革は筒抜けだったのね。でも……何も言ってこないのでしょう?」
私はそう言ったけど、そのような状況になっているなんて初耳だ。
『そうなのよ。何も言ってこないのよ。それが私も不思議なんだけど、艦長がひょんなことでマギーを知り、マギーのやったことが艦長の意志に合っていたのでは、だから暗黙の了解なのでは……私にも理解できないけどね。ドクターの話しはマギーを上に呼ぶ口実だったりしてね。私が知ってる限りではマギーの経歴には何もないよ』
〈私はマギーの経歴は調べられない……私たちが出会ったときからしか分からないのだ〉
「リリーさんの話しを聞いてるとさ、いつもなるほどと思うけどさすがだよね。そうか……筒抜けなんだね。私は考えてもなかったよ。今更変えようとも思わないしこれからもやりたいことがあるし、違反しているなら何か言ってくるでしょう? 上のパーコンはそんなに巨大なのね……それさえも知らなかったよ」
私はそう言ったけど、艦長が管理しているのかパーコンが管理しているのか、どういうシステムになっているのだろうか。
『上でマギーが階級をあげなくてはね。地上と同じではその階級までの知識しか調べられないと思う。大丈夫よ、キャプテンは優秀だから艦長もご存知だと思うわよ』
「ありがとうございます。リリーさんがそういうから私は信じます。リリーさんの話しは理解しやすいですね。今日はもう遅くなったのでこれから寝ます。おやすみなさい」
『おやすみなさい』
どちらにしても終わってしまったことであり、リリーさんは私の経歴には何もないと言っているが、艦長が嘘を言っているとも思えないけど、なぜ話しが食い違っているのだろうか。
私のスペシャルスキルは記憶力がいいことで、五歳から今現在までの経験は必要のない記憶と共に、すべて頭の中のパーコンである記憶媒体に保存されていた。
読んでいただき、ありがとうございます。
引き続き次話もよろしくお願いいたします。