夏祭り
勉強もひと段落して蒼がリビングでテレビをみていた時、佐藤さんから週末の市内の夏祭りに一緒に行こうとラインが届いた。夏休み、涼ちゃんの家に泊まりに行った以外は勉強ばかりだったので、いい加減この生活にも飽きていたところだった。蒼はすぐにOKの返信をすぐに送った。
「行ってきます。」
「9時までには帰ってきてね。」
夏祭り当日、夏らしく水色のワンピースにレースのカーディガンを羽織った蒼は、母から見送られ家を出た。
中学生までは毎年行っていた夏祭りだが、高校生になってからは、高校の友達は市外に住んでいるし、中学の友達とは疎遠になってしまったこともあり、一緒に行く友達もいなかったので行く機会を逃し、夏祭りに行くのは3年ぶりになってしまった。
蒼が乗っているバスが夏祭りが行われている神社に着くと、浴衣姿の佐藤さんが待っていた。
紺地に花火柄の浴衣は長身の佐藤さんに似合っており、髪もアップスタイルでおくれ毛に艶っぽさを感じる。
「浴衣かわいいね。」
蒼がほめると、
「浴衣見せたくて、祭りに誘っちゃった。迷惑だった?」
「迷惑じゃないけど、坂本さんに見せたいんじゃないの?」
佐藤さんと仲良くすると、また坂本さんに怒られてしまうんじゃないかと心配してしまう。
「見せたかったし、誘ったら坂本さんは市外からでも来るとは思うけど、夜遅くなると帰りが心配だから、誘うのやめておいた。」
神社までの参拝路に並んでいる屋台を楽しみながら、神社までお参りして帰るのがこの祭りの定番コースになっている。蒼たちもその定番コースに倣って、神社に向けて歩き始めた。
子供の時ほどではないが、綿あめや焼きそばの屋台にテンションが上がってくる。
「金魚すくいやってみる?」
蒼の誘いに、佐藤さんは金魚すくいの屋台の裏に回って、何かを確認した後戻ってきた。
「この店はやめておこう、ポイが7号だった。」
「ポイって?」
「金魚すくいの網の事。7号は破れやすいからやめておいた方がいいよ。」
なんでそんなこと知っているの、と蒼が思っていた時、
「網が破れちゃった~。一匹も取れない。」
小学生らしき女の子が泣き始めた。
「ごめん、森田さんちょっと待ってもらっていい?すみません、金魚すくい一人分お願いします。」
屋台のおじさんから300円と引き換えにポイを受け取り、佐藤さんは浴衣の袖をまくり水槽の間に座った。
「お嬢ちゃん、ちょっと待っててね。」
佐藤さんは金魚を次々にすくいあげて、お椀に移していく。泣いていた女の子もなくのをやめて佐藤さんの金魚すくいをみている。10匹ぐらいとったところで、まだポイは破れていないが、
「まあ、こんなもんかな。」
金魚をビニール袋に移してもらた後、
「金魚どうぞ。」
佐藤さんは泣いていた女の子に金魚をあげた。
「佐藤さん、すごいね。あんなにいっぱい取る人初めて見たよ。」
「子供の時出来ないって言ったら、練習するために水槽やポイなど金魚すくい一式買ってくれて、練習したからね。」
やるなら徹底的にが佐藤家の方針みたいだ。
再び神社に向けて歩き始めていると、「やめてください。」と声が聞こえた。声が聞こえた方をみると女子高生らしき女の子が、金髪と茶髪の男二人に絡まれている。
「あっ、森若さんだ。」
蒼は思わず声をあげたが、絡まれている女の子二人のうち一人は蒼の中学時代の同級生森若さんだった。
「あの子、森田さんの知り合い?」
「うん、中学の同級生。」
「森田さん、これ持ってて。」
佐藤さんは蒼に貴重品の入っている巾着を渡すと、男二人と森若さんたちの間に割り込んで、
「あんた達、いい加減やめなさいよ。」
突然の乱入者に男二人はいきり立って、
「痛い目に遭いたくないなら、ひっこんでな。」
金髪の男が佐藤さんの胸ぐらをつかもうと手を伸ばしてきたとき、佐藤さんは左手で男の手をつかむと、足をはらって男を転ばせた。
「誰が、痛い目に遭うって?」
煽り文句に立ち上がって再度佐藤さんをつかもうと襲い掛かってきたが、佐藤さんは再び男の右手をつかむと一本背負いで投げ飛ばした。
茶髪の男は意気消沈して、唖然とした表情で立っている。騒ぎが大きくなったところで、警備員が駆け寄ってくるのが見えたので、
「森田さん、巻き込まれると面倒だから逃げよう。」
足早に騒動の現場を離れ、神社に向かった。
神社でお参りを済ませた後、再び参拝路に戻ろうとしたとき、森若さんが駆け寄ってくるのが見えた。
「さっきはありがとうございました。」
森若さんが佐藤さんにお礼を言った。
「素人相手にちょっと本気出しすぎちゃった。騒ぎ大きくしてごめんね。」
「素人相手って、佐藤さん何かやってたの?」
蒼が思わず尋ねると、
「言わなかったけ、子供の時からずっと柔道やってて、中学の時は県大会3位だったって。」
「それって、男子の部で?」
「もちろん。」
そんな会話を聞いていた森若さんは、
「ひょっとして、ハクジョ男子ですか?」
「そうだけど。」
「今度改めてお礼がしたいので、よかったら連絡先教えてください。」
佐藤さんは渋っていたが、粘る森若さんに根負けして連絡先を交換していた。




