インターハイ予選 その3
蒼は試合開始を観覧席で待っている間、涼ちゃんに話しかけてみた。
「涼ちゃんは3年生になったら男に戻るって言ってたけど、もう戻りたいと思わないの?」
「理恵ちゃんが女の子のままでいて欲しいというから、女の子のままでいるよ。女の子は女の子で楽しいし。蒼ちゃんは?」
「女の子の方が楽しいし、女の子のままでいたいけど・・・」
女装した男子が好きな理恵ちゃんと違って、はるちゃんは彼氏が女装していても受け入れているにすぎない。その違いは大きい。やっぱりはるちゃんもかっこいい男子が好きなんだろうかと思ってもしまう。
本田さんが下田さんのことを心配して「本当の女の子には勝てない」と言っていたが、蒼も本当の男子がはるちゃんの前に現れたら勝てる自信はない。
ハクジョ男子って男子にも女子にもなれない、なんて中途半端な状態なんだろうと思う。
試合が始まって2セット目の途中に、一人の男子生徒が観覧席に入ってきた。身長や体格から、遠くからでも先週はるちゃんに話しかけた金本君だとわかる。はるちゃんの試合を見に来たみたいだ。
男の自分から見てもかっこいいし、バレーの強豪校で活躍しているとなれば、男の魅力として蒼の方が劣っていると感じてしまう。蒼も女の子だったら、好きになってしまいそうなぐらい金本君は魅力的だ。
試合後、はるちゃんたちと話しているときに金本君が話しかけてきた。特に長話をするわけでもなくあいさつ程度に話して帰っていったが、話しているときのはるちゃんの表情が困惑気味ながらも嬉しそうだった。
バスで帰る涼ちゃんたちと別れて、駅までつづく公園内をはるちゃんと一緒に歩く。自分から金本君のことは聞きづらく、なかなか会話のきっかけがつかめないまま無言のまま時が過ぎていく。
「大丈夫、金本君とは何もないから。」
はるちゃんが沈黙に耐えかねたのか、話しかけてきた。今は何もないにしても、今後はわからない。男子としても女子としてもどっちにも慣れない中途半端な自分よりも、金本君の方がいいに決まっている。
「蒼ちゃんが好きだから、大丈夫だって。」
はるちゃんが蒼の気持ちもわかったうえで、安心させようとしてくれるのはわかる、それでも今後のことはわからない。
「金本君に本気で告白されたら、」
そこまで蒼が言った時、はるちゃんが蒼の手を引っ張り公園の木の陰に連れて行った。理由を聞く前に、はるちゃんに抱きしめられた。そして、二人の唇が重なった。唇ってこんなに柔らかくて、温かいんだ。
はるちゃんが息継ぎするタイミングで唇を離し、
「蒼ちゃんのこと好きだから、信じて。金本君は、他の女子でも上手くいくけど、蒼ちゃんは私がいないとだめでしょ。」
はるちゃんは自分自身にも言い聞かせるように言い終えると、再び蒼の体を抱きしめた。
「はるちゃんは、彼氏がハクジョ男子でも気にしないの?やっぱり彼氏はかっこいい方がいいじゃないの?ハクジョ男子と付き合っていることで他の人から変に思われない。」
蒼は一番気にしていたことを聞いてみた。
「スカート履いていると含めて、蒼ちゃんのことが好きだから大丈夫だよ。かわいい彼氏もありだと思ってるよ。」
そう言って、またはるちゃんは蒼を抱きしめてくれた。
翌日の日曜日、インターハイ予選3回戦が行われた。秋には届かなったベスト8をかけた試合ということもあって、はるちゃんや理恵ちゃんの真剣な表情からも今日にかける気合いが伝わってくる。いつもの笑顔と違う凛々しい表情が新鮮に感じる。
試合が始まり、一進一退の攻防がつづく。はるちゃんも理恵ちゃんもみんな必死のプレーが続いている。
そんな中、観覧席に金本君の姿が見えた。今日は昨日の制服とは違い高校名の入ったジャージを着ている。何度見てもかっこいいと思うし、男として負けていることは自分でもわかる。蒼も女の子だったら、好きになっていたかもとも思ってしまう。
試合は両校実力伯仲で競り合ったまま、3セット目に入った。その中盤、ブロックアウトではじけたボールをはるちゃんが必死につないでコートに返した。そのプレーから流れが変わり連続得点が白石高校に入り、3点リードの24対21とマッチポイントを迎えた。
白石高校のサーブから始まり、相手の右サイドからのクロスのスパイクをはるちゃんがレシーブして、セッターの理恵ちゃんにボールが渡る。相手のスキをつき、ツーアタックを仕掛けた。相手も反応して、ボールを上げようとする一歩間に合わずボールがコートに落ちた。
一瞬の間をおいて、歓喜の喜びがコート中に響き渡る。10年ぶりのベスト8進出が決まった。蒼も涼ちゃんと手を取り合って喜ぶ。
試合後、昨日と同じようにはるちゃんと駅に向かうため公園内を一緒に歩いていると、
「そういえば、金本君と更衣室の前で会ったよ。」
「なにか話した?」
「うん、私の隣にいた子がかわいいから紹介してって言われた。」
「隣にいた子って、理恵ちゃんの事?」
「ちがうよ、蒼ちゃんのことだよ。」
予想外の展開に、はるちゃんと一緒に蒼も笑ってしまった。




