二者面談
連休もおわって次の祝日までを思うとうんざりする5月中頃、帰りのホームルームの終わりに松尾先生が、
「本田さん、森田さん、森本さんはこのあと話があるので私についてきてください。では、ほかの皆様は気を付けて帰ってください。」
日直の生徒の「起立、礼」の号令の後、蒼たち3人は先生の後を追った。
先生は相談室の扉をあけると、「ここに入って」と3人に入室を促した。
「毎年男子生徒にはこの時期全員にやっていることなんだけど、」
と先生は前置きをしながら、
「これから3人それぞれ、一人15分ずつぐらい2年生になって制服がスカートになってどうだったかを聞きたいので、二者面談を行います。一人ずつ隣の相談室に来てください。出席番号順に本田さんからで、次に森田さん、森本さんの順でやります。では本田さん一緒に隣の相談室にいきましょう。」
といい、本田さんと部屋を出ていった。
部屋に残った涼ちゃんに、
「涼ちゃんは受験する前から2年生はスカートって知ってた?私は知らなくて、親が勧めてくるのでよく調べずに受験しちゃったけど。」と聞いた、
「3つ上の姉ちゃんがここの高校だらか知ってたよ。長い人生1年間ぐらい女の子になってみるのも面白いかなと思って。」と涼ちゃんは答えた。
そのあとも私服はどんなスカートもっているなど、女子トークを涼ちゃんと話しているとあっというまに15分が経ち、本田さんが部屋にもどってきた。
「次森田さんだって。」と本田さんに言われ、蒼は相談室に向かう。
部屋に入ると松尾先生に促され長机を挟んで対面する形で着席する。
「制服がスカートにかわって1か月ちょっと経つけど慣れた?あと何か悩みある?」と先生から質問があった。
蒼は最近思っていた疑問を口にした、
「完全になれたわけではないですが、制服がスカートに変わってから、かわいいものが好きになったり、食事の好みも変わったりして女の子になってきている感じです。始業式の時先生は、心まで女の子になる必要はないといっていましたが、このまま心まで女の子になっていくのか不安です。」
蒼の質問に対して松尾先生は、
「スタンフォード監獄実験って知ってる?看守役と受刑者役に分かれるやつ。」
と思いがけない返事がきた。
被験者を看守役と受刑者役にわけておくだけで、特別な指示をしなくても時間が経つに連れ、看守役の被験者はより看守らしく、受刑者役の被験者はより受刑者らしい行動をとるようになる実験のことだ。人間は役割にあわせて行動してしまう、ということを証明した実験であると何かの本で読んだ気がする。
蒼が監獄実験について知っていることを答えると、松尾先生は
「だったら話は早い。つまり今森田さんがいったのは、森田さん自身がかわいい女の子になろうとしているからなのよ。無意識のうちにスカートを着ることで「女子高生」という役を演じようになって、それで女子高生が好きであると思われるかわいいものを好きとおもうようになったり、食事の好みも女子高生が好きそうなものを食べたいと思うようになってきてるんじゃない?」
と蒼は、松尾先生から説明をうけ納得した。
「心まで女の子になる必要はない、というのは無理に女の子を演じなくてよいということよ。物事に対して「女子高生」を演じている自分が好きなのか、本当の自分が好きなのか、そこを区別するようにしてください。区別した上で、本当に女の子になりたければ、なればいいと思います。この後も困ったことや不安なことがあったら相談してください。」
と言われ、蒼の二者面談は終了した。
帰りの電車の中で先生の言葉を何度も思い出してみる。そして、この前の日曜日に買い物に行って、かわいい服を買ってもらってうれしかったのは、「女子高生」を演じている蒼なのか、本当の蒼なのか、自分のことながらあるがどちらなのかわからなくなってきた。




