バレンタインデー~森本涼介~
2月13日の日曜日、涼ちゃんこと森本涼介は姉と一緒にお菓子作りをしていた。
「涼ちゃん、そろそろオーブン予熱しておいて、180度にして。」
そう言われ、涼介はオーブンの予熱を設定して、開始ボタンを押した。姉を見てみると真剣な表情で、小麦粉や砂糖を1g単位で正確に計っている。
「お姉ちゃん、そんなに正確に測らないといけないの?」
涼介が質問してみると、
「お菓子作りは1g、1度で変わってくるから、レシピ通りに作らないとうまくいかいの。料理はだいたいでも作れるけど、お菓子はだいたいではダメね。」
姉は、涼介にお菓子作りの難しさを教えた。涼介は大変だなと思うとともに、一つ一つ工程を指示通りにこなしていくことに面白さも感じた。
明日のバレンタインデー、涼介はチョコを渡して理恵ちゃんに告白するつもりだった。姉に相談したところ、市販品よりも手作りの方が気持ちが伝わるからと、それで朝から姉と一緒にビスコッティを作っている。
ようやく生地が出来上がり、オーブンに入れる。姉と話をしながら、焼き上がりまでの20分を待つ。
「明日告白する子って、前から言っていたポニーテールの子?」
「そう、理恵ちゃんって子。上手くいくかな?」
「やらない後悔より、やる後悔だよ。」
姉はそうやって、期待と不安が入り混じる涼介を応援してくれた。
いつも姉は涼介のことを応援してくれる。子供の時なかなか自転車に乗れなかった涼介に、乗れるまでずっと練習に付き合ってくれた。また受験の時、成績が伸び悩んでいた涼介に、姉は一緒に勉強に付き合ってくれた。シスコンと言われるかもしれないが、それ言われても構わないぐらい姉のことが大好きだ。
焼きあがったビスコッティを袋に入れきれいにラッピングして、メッセージカードを添える。カードには「これからも、仲良くしてください。」と書いた。もし、告白が受け入れられなくても、友達としては続けていきたいので保険をかけてみた。
翌朝バレンタインデー当日、放課後になり理恵ちゃんが教室に入ったきた。
「お待たせ。相変わらず担任の話長くて、ゴメンね。」
理恵ちゃんはいつも通り陽気な笑顔と元気な挨拶に、涼介は嬉しくなった。
「理恵ちゃん、なんか久しぶりだね。」
涼介は挨拶を返しながら、以前は頻繁に昼休みにお弁当を食べに2組の教室に来ていたが、最近はあまり来なくなってしまった。もちろん廊下ですれ違う時はあるが、挨拶だけで最近あまり話していない。
勉強会が始まる前に、理恵ちゃんがチョコを配り始めた。かわいい袋を開けると、チョコトリュフとメッセージカードが入っていた。みんなに配っているから友チョコだと思うが、手作りチョコをもらえるだけ嬉しかった。
その後勉強会が始まり、早速涼介は英語の質問を理恵ちゃんにしてみる。いつも通り、理恵ちゃんは教えてくれる。涼介がどこまでわかっているかを一つ一つ確認していく教え方は、なんとなく姉と教え方が似ている。だから、理恵ちゃんを好きになったのかもしれない。
完全下校時間の6時半に勉強会が終わりとなり、いつも通り4人で校門をでて、学校前のバス停で蒼ちゃんとはるちゃんと別れた。
理恵ちゃんと二人になり、いよいよ告白する時が近づいてきた。涼介は鞄から昨日作ったビスコッティの入った袋を取り出し、理恵ちゃんに渡す。
「頑張ってビスコッティ焼いてみたから、良かったら食べて。」
「私のために?」
「お姉ちゃんと一緒に作ったけど、理恵ちゃんに食べて欲しくて。」
涼介はそう答えた後に、告白しようと思っていたが言葉が出ない。
「ありがとう。」
理恵ちゃんからお礼を言われたが、このままだとお菓子を渡しただけになってしまうが、どうしても「好きです」の言葉が出てこない。
「味見もしたけどおいしかったよ。」
「あの、その、」
涼介がなかなか言い出せない中、理恵ちゃんを見るとその言葉を待っているのか、見守るような目で涼介を見ていた。もうすぐバスかきてしまう。覚悟を決めるしかない、
「理恵ちゃん、好きです。付き合ってください。」
勇気を振り絞ってようやく言えた。
理恵ちゃんが返事を言うまでの一瞬が、永遠にも感じた。
「一つだけお願いがあるんだけど、涼ちゃん3年になったら男に戻るって言っていたけど、女の子のままでいてくれる?」
「わかった。それで理恵ちゃんと付き合えるなら、そうする。」
涼介は即答で返事した。どうしても男に戻りたいわけではなかったので、理恵ちゃんと付き合えるなら、女の子のままでもいい。
帰宅後すぐに、姉が駆け寄ってくる。
「涼ちゃん、どうだった?」
「OKだったよ。」
涼介は満面の笑みで姉に結果を報告した。姉が、よかったねといっしょに喜んでくれた。それで、女の子のままでいてとお願いされたことを伝えると、さらに喜んでくれた。
姉に理恵ちゃんの写真を見たいというので、以前撮ったプリクラをみせる。
「かわいい。涼ちゃんにはもったいないな。今度3人で買い物行こう。妹がもう一人増えたみたい。」
姉が嬉しそうにしている姿を見て、涼介も嬉しくなった。




