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エミリーの華麗なる転身  作者: 歩芽川ゆい
5/9

5:学校生活2

まだ学校生活の説明です。

 入学式の日、教室で学院生活での注意を聞き、さらには地獄の自己紹介時間を経て、その日は解散となった。


 自己紹介が地獄とか、想像もしなかった。

  Aクラスは生徒数22人。10人が貴族で、庶民は私ともう1人の男子だけ。クラスの男子5人が攻略対象者で、女子4人がその婚約者や候補者というすさまじさ。


 ちなみに、ゲームでの攻略対象者は全部で7人。同級生5人、2人は2年生だ。攻略者の婚約者も7人で、4人が同級生、残り3人のうち1人は2年生、2人は中学部にいる。


 ちなみに一学年に10人も貴族の子息令嬢がいるのは珍しいらしい。現在の3年生では貴族は男女合わせても5人、2年生は3人だけだ。

 貴族の数自体がそんなに多くないから、一人二人、という事も珍しくないらしい。

 では残りは? というと、準貴族の子供たちで、街の領主だったり、富豪や、貴族の家で働く執事などの上級職の使用人たちがそれにあたる。彼らの方が人数は多いので、一学年20人程度には確保されている。

 高等学部からは庶民が20人程度加わるので、一気に倍に人数が増えるわけだ。中等部までも成績でクラス分けされている。男爵以上はAクラスに残る事に必死になるらしい。

 

 何故か今年はお貴族様が沢山いる学年、という事だが、これはゲームにおいてその方が便利だからだろう。同じ学院の生徒というだけよりも、同級生の方が一緒に行動も出来る。イベントが沢山出来るという事なのだろう。ご都合主義の結果だ。


 ところであのゲームは人気声優さんを使っていたから、彼らの声のすばらしさと言ったら! 王子さまのテノールも、宰相息子のちょっと高い声も、外相息子の甘い声も、魔法省の息子の低音の魅力も、体育系騎士の腰に来るような低音も、令嬢たちの可愛らしい声も、もう耳が幸せで仕方がない。

 ゲームではほぼモブだった先生方も、ワイルドな魅力ボイスだったりで油断すると顔が緩んでそれこそよだれも垂れてしまうので、必死に無表情を取り繕った。


 その上、立ち姿だけでも貴族の令息令嬢は高貴で、それだけで格の違いを思い知らされた気分だったし、ただ名前を言って礼をしているだけなのに美しい上に、優雅で。やっぱり気品というのは生まれと育ちで身につくものなのだなあと眼福すぎて、うっとりしていると自分の番になっていた。


 慌てて立ち上がったその行動も姿も、彼らの洗礼された姿の後ではどうしようもないほどにガサツに見えてしまい、それでさらにパニックだし、カミカミの自己紹介に失笑もされて、もちろん誰も友達になろうと近寄ってくれる人はいないし、身分が違い過ぎてこちらから声を掛けるなどもっての外で。


 しかも私は何も言っていないのに、その後も廊下を歩いている時に「あれが今年の最高得点獲得者なのか」とか「魔法資質もずば抜けていたとか」とか「剣術も女生徒なのに合格点を大幅にクリアしていたらしい」「マナーで大幅に減点されていなければ、新入生代表だったかもしれない」などと言う囁きが聞こえてきて、思わず『個人情報駄々洩れ!!』と内心で叫んでしまったくらいだ。

 人数少なすぎるし、現代日本じゃないから仕方がないけれども。


 その新入生代表うんぬんの時には、偶然近くを歩いていた同じクラスの皇太子がピクリと反応していたし、剣術云々の時には、騎士団団長の息子が、魔法実技云々では科学省の息子の顔が引きつっていた。マナー云々の時だけは女生徒全員がかすかに頷いていたけれど、その次の言葉で皆が固まっていたし。


 もうこのクラスで楽しく友人に囲まれて、などという夢は一切捨て去った。私はひっそり過ごすのだ。

 友達など高望みしない。ボッチでいい。絡まれなければそれでいい。


 私はヒロインスキルの「気配を薄く」を駆使して乗り切る事を決意したのだった。



 ヒロインの得意なものの中には魔法もある。その中でもゲーム中で使われていたと推察されるのが、魅了魔法だ。あれだけ周りがヒロインに惹かれるのは、それしか考えられない。

 そういえば、ゲームの影響か、なぜか自分のステータスが『わかる』のだ。自分の魔法レベルだけだが、意識すると数値が頭の中に浮かぶ。もしかすると好感度なども見えるのかもしれないけれど、今のところは見えていない。


 わたし、えみりの意識がはっきりとした時には、すでに魅了魔法のレベルはマックスだった。どれだけいままで使ってきたのか、エミリーは。

 まあ意識して使っていた、というよりは『私を見て』という意識が強すぎて、自然と術を発動していた状態のようだが。

 だから私はそれだけは絶対に使うまいと決意しているのだが、学院生活を穏便に過ごすには、魅了の反対の魔法を使えば良いのだと考えた。同時に魔物やらなにやらから逃げるためのスキル、「気配を薄く」スキルのレベルを上げるべく、入学まで必死に使ってそこそこのレベルまで上げてきた。


 これは難しかった。生来目立ちたがり屋のエミリーだから、気を抜くとすぐに解除されてしまう。それを矯正するのが本当に大変だったが、おかげでこの魔法に耐性がある人でなければ、意図して探さなければ気が付かない程度のレベルにはなった。


 さらにゲームでは同級生の令嬢たちに囲まれたり、無理やり人気のない場所に連れて行かれたりしたので(原因は私の言動なのだが)、そうなった際に逃げられるように、まさに変身できるように変化魔法も頑張った。


 まずは制服から用務員さんのシャツとズボン姿になれるようにした。これでいつどこでいじめられても、逃げ出して見えないところでこれに変身すれば気が付かれない。ただ何もない所から帽子を作ることは無理なので、そこはカバンにいつでも折り畳みの帽子を入れておくことにした。こんなところで前世のコスプレで培った裁縫の腕が活かされるとは思わなかった、と苦笑しながら。


 そんな事を繰り返していてテンションが上がった私は、これだけ変装できるならすでに私、魔法少女じゃん!! と歓喜して、学院の制服をモデルに色々変身を楽しんだ。もちろんレベル上げの為もある。レベルが上がるほど変身時間が短くなるし、いろいろと変化できるようになるのだから。


 その結果。


 夜、寝静まった寮の自室の大きな姿見の前の私は、もともとの目立つピンクゴールドのフワフワ髪を大きなリボンでツインテールにして、眼鏡をとり、代わりに狐的なお面を顔の上だけつけて、唇にはピンクのルージュを引き、学院の制服のスカートは腿の長さに縮め、そこにレースをたっぷり足してパニエで膨らませた感じの膝上の長さに、上着もフリフリをふんだんに足した、まさに魔法少女的な姿になっていた。

 さらに魔法少女の使うワンド的な魔法の杖を作るため、私は安いアクセサリ店で宝石風の飾りが付いているおしゃれペンを購入した。ただの木のデザインを変えることはできるが、魔法少女のキラキラステッキに変化させることは出来ない。それでも大きさを変えることは簡単に出来る。このペンを大きくすればあらまあビックリ、まるで魔法少女のステッキ風に変身! というわけだ。

 これを制服の胸ポケットに差しておけば、いつでもどこでもステッキに出来る。これで私は完璧な魔法少女だ。


 あの冴えない少女から、この目立つ魔法少女への変身。しかもくるりと回っている間に!


 完璧だ。誰も私とは思わない。しかも可愛い。ヒロインってば半端ない。ああ、イベントで皆に見てもらいたかった~~~!! 


「ま、かわいいけれど使うことはないけれどもね~~」


 こんな目立つことをしたら、ひっそり暮らす計画が台無しになってしまう。


 まあ本当なら、せっかく15歳に若返った状態で前世の記憶が戻ったのだから、学院生活を謳歌したい気持ちもあるのだけれど、今全力で楽しんでしまったら、将来の自由が手に入らないのだから、我慢するしかない。

 それにこうして純粋に楽しむ時間もある。たった3年の我慢だ。この高校時代でしかイベントは発生しないのだから。


「これはこれで、部屋でひっそり楽しもう」


 可愛らしい姿とはおさらばして、グレーの髪色に戻し、大きな眼鏡をかける。魔法で華やかにした制服も元にもどして、寝巻に着替えた。一気にモサい少女の出来上がりだ。よしよし。


 さてそろそろ寝ないと。明日も朝から学院なのだから。


 そんな風に気楽に考えていたのに、あんな騒動に巻き込まれるとは、この時は知る由もないのだった。



お読みいただきありがとうございます。続きが気になったら、イイネをぽちっとな!

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