3:ひとりごと
一年ぶりの更新となってしまいました(汗)。
このゲーム内の国の説明と、えみりの決意です。
さてこの『ビラング王国』では、王都に大きな図書館があり、だれでも気軽に利用することができる。小さな街でも必ず図書館がある所が他国とは違っていて、それだけ国全体の学力向上に力を入れているという事になるだろう。
貧乏な私は家庭教師など利用できないから、学校や街の図書館に入り浸って本を読みまくった。それと私の「一度見聞きしたものは完璧に記憶できる」能力のお陰で、こうしてこの学校に入れているので、本当にありがたいものだ。
現代日本に比べたら不便であるはずのこの世界だが、慣れてしまえばすこぶる暮らしやすい。運良くも食生活は日本と似たようなもので、食事がまずいなどという事はない。
そしてとてものんびりとした世界で、空が広い。それに裕福ではなくても毎日の食べるものが無くてという事はなかったから、ストレスも少なかった。
情報や本がネットで調べられない買えないというのはストレスだけれども、システムがないのだから仕方がない。
こののんびりした世界でそうまでして一生懸命勉強してきたのは。
「この学校で知識と人脈を得て、一人でも暮らしていけるような職に就かなくては」
これが私がこの学院に入らないといけない理由だ。この世界ではまだまだ大学進学率は低いものの、少なくとも高校を出ておかないと高収入をみこめる職種に就けないのだ。
ゲームでは恋愛成就の末はすべて玉の輿、ルートによっては王子に求婚されて将来の王妃! という将来もあったが、私は正直そんなのはごめんだ。王族は華麗で働かなくても生きていけるイメージがあるけれども、実際にはそんな気楽なものではなく、朝から晩まで働き通しだ。
それに重圧が凄すぎる。何といっても王族とは一国を治める存在なのだ。王女らしい立ち居振る舞いなんて、私に出来るはずもない。その教育を今さらやった所で、本物の貴族令嬢の足元にも及ばないだろう。笑われて馬鹿にされるのがオチだ。
もう一つのルート、貴族の奥方さまも似たようなものだ。彼らも領地を持ち、それを治めている。パーティを開くのは外交の為だ。そして奥様方は屋敷内の総監督状態になる。パーティにも忙しいけれど、そのための準備やらなにやら、非常に忙しい毎日になるはずだ。
偶に単なる浪費家もいるけれど、庶民として気楽な暮らしをしてきた私が、そんな窮屈な生活など出来るはずもないし、無駄遣いなどもっとできない。
こちらの世界での、生まれながらの貴族たちや皇族と比べるまでもなく、前世でもこの世界でもド庶民の私がそんな世界に入ることが無理なのは、一目瞭然だ。
ゲームではそんな現実は無視されている。だから庶民の主人公が気軽に貴族の恋人になろうとするのだ。王子様に見初められるとか、女の子の夢だしね!
前世でに私は働き通しだった。ブラック企業ではなかったけれど、なんだかんだと休日出勤に残業だ。帰宅すると大体は落ちるように寝ていた。
休日は掃除と買い出しをしたあと、気力がある限りSNSをチェックしたり、ゲームやコスプレの用意をして終わる。これらはストレス発散だから、疲れていても必需だった。
イベントの日だけは有休をもぎ取っていたけれど、生まれ変わったこの世界でまで働きづくめなんて絶対にごめんだ。
付け加えて言えば、コミュ障ぎみの上、会社でいじめられぎみだった私には、いくらヒロイン補正があろうとも、次々と対象と仲良くするなんて、絶対に無理だ。恋愛相手は一人だけと決めている。ゲームでは1人クリアしたから、次の人はどうかな、と試すけれど、現実には無理だし逆ハーレムとか考えただけで痒くなる。
たとえエミリー・ノエンヴリオスであっても、それで皆を誘惑したうえ、国を背負うとか無理ポ過ぎる。
ゲームではうまくいっていた? それはそうだ。選択肢がいくつかある中から行動を選べるのだから。間違えたってセーブデータからやり直せばいい。
それにゲームだから攻略できませんでした、それならやり直そう、で済むけれど、現実で失敗したら?
それこそ皇太子を筆頭に高位貴族に不敬を働くのだ。断罪イベントが発生してしまう。悪役令嬢などではなく、私に。
いやだ。絶対に嫌だ。一つも選択肢を間違えられないし、途中で無理そうだからと攻略対象を変える事も出来ない。
そんな世界でハイリターンだけど、超ハイリスクでもある恋愛ゲームを楽しむなんて、私には無理だ。なにせえみりである私はいい大人なのだ。勢いだけで行動できる17歳とは違う。
失敗してもリセットできるゲームの世界だからこそ楽しめるものであって、現実世界で楽しむものでは決してない。
ちなみにこのゲームの攻略は、だれか一人を攻略するパターン、逆ハーレム完成パターンなど、結構多くの攻略パターンが存在する。私は攻略していないのだが、裏ルートとして令嬢を攻略するパターンもあるらしい。
男子そっちのけで令嬢のみを攻略する。この場合のエミリーはその令嬢の補佐として末永く活躍するそうだが、なにせ男子のパターン全部を攻略しないとこの裏ルートが出てこない。
私は女性声優にはあまり興味がなかったので、そこまでやり込んではいない。
その令嬢ルートも攻略するとさらに隠しルートがあるなどという噂を聞いたこともあるが、たどり着いた人を聞いたことはない。
私は部屋に備え付けられている姿見を見た。そこに映る、魔法で姿を変えた私を。
丸眼鏡に、魔法でくすんだピンクグレーに変えた髪。化粧で眉毛を太くし、そばかすを散らして、タオルをお腹にまいて体型も太って見えるようにしてみた。目元と髪が違うだけでも印象が変わって見えるのが面白い。
これで生まれ育った街で顔見知りに出会っても、私だとは気が付かれないだろう。
これから起きることを私は知っている。
これは強みだ。ゲーム通りに生きたくないなら、ゲーム内でのイベントを徹底的に避ければよいだけだ。
「絶対に、攻略対象に接触することなく、平和に平穏に学院生活をおくってやるわ!」
私は決意も新たに、荷物を解いて片付け、寮内の探検に出かけた。
お読みいただきありがとうございます。7話までは出来ていますので、こまめに更新する予定です。