変わっていく未来と変わらないもの
「穢れ者め!」
凪斗に向かって飛んできた小石。パシリっと掴むと、そのまま力を入れ砕いた。ゆっくりと手を開くと砂となり地面へと舞った。ひぃ、化け物だー!と小石を投げた子どもは慌てて走って逃げた。あの後ろ姿には見覚えがある。黒髪を邪神だと信じてる一家の子どもだ。
「…ふん」
こんな事は日常茶飯事だ。ぱんぱんと手を叩き、ふと視線を両手へと落とす。
「…」
せっかく片手で掴んだのに両手で叩いてしまった為に汚れが広がってしまった。
手のひらの紋様の隙間に砂が入っている。指紋は生まれてから死を迎えるまで絶対に変化しないと授業で習った事が浮かんだ。
「…、…終生不変って言ったっけ…?」
時を遡っても黒髪は穢れ者として扱われるのは変わらないのか。
死んでやり直しても変わらない…?
そう、前世でも虐めはあった。
あの頃は学校どころか村さえも行かなかった。だが今は違う。現在は村の学校へと通っている。
違うんだと両手を擦り合わせ、指紋の隙間から汚れを掻き出したい。
山奥からわざわざ村の学校へと通っているのは何の為だ。
今は両親に扱かれ水の加護も剣術も最高クラスになっている。学校には魔法、剣術以外のことを学ぶ為に通っている。凪斗は成績が良かった。いや必死に勉強したのだ。成績が良ければ魔法も剣術もトップクラスになればーーー2人は安心して子離れするだろう、と。
生きていて欲しい。あんな出来事は二度と味わいたくない。
父と母に街へ住むよう薦めた。離れる事に大反対されたが凪斗は『子離れしてよ!』と強引に押し切った。
街には常時、警備兵がいる。そんな中、なかなか放火はされないだろうと考えた。それに弱点となる自分からは離れた方がいい。
…ふたりは本当は最強なのだから。それに父の仕事の事もあるし、わざわざ山奥から通うより街に住んだ方がいい。
あのときの放火の犯人は凪斗を狙っていたのだ。
ーーー狙われるのは自分だけでいい。
擦り合わせ過ぎた両手のひらは真っ赤になっていた。
変わったんだ…。
今も山奥の自宅には水の魔法で結界を張っている。夢の通り放火にきた男がいたが突然できた池に落ちて、あっさりと捕まえる事ができた。凪斗の魔法だ。罠さえも仕掛けられるようになった。それに父で鍛えられてることもあり魔法を使わなくても人間の大人など簡単に倒す事もできるだろう。
ーーー放火魔の件で努力が実っていると感じた筈だ。
変わろうとしている自分が誇らしい。
まるで自分に言い聞かせるようにギュっと目を瞑り反芻する。
「ーーー…」
だけど何より…父も母も無事に生きてる。それが一番、凪斗は嬉しかった。
変わった未来、だが…。
すう…と目を開くと赤くなった手のひらが現実を伝える。
例え、変わらず他人に忌み嫌われていても…。