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ある黒のドラゴンの転生記  作者: 文月 水涸
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プロローグ




…なにが、間違っていたのだろうか…?


ぼんやりと霞む視界、重い手足。

「…、…」

ああ、そうか。術封じの手枷に足枷のせいだ…。首輪にボロボロのローブに身を包んだ俺。それが今の俺だ。まるで他人事のように思える。どうでもいい、自分よりも大切な…そう、大切な人がいたから。

ひとりの愛しい人の姿が浮かぶ。

『凪斗…』

途端に視界が広がった。

ああ、俺の、一番…大切な…。自然と笑みが浮かぶ。彼女の事を考えると幸せになるんだ…。誰よりも何よりも俺の大切な…。

ふと視線を感じた。その視線は…聖騎士の後ろから覗きこんでいた彼女だった。彼女を見つけて嬉しくて笑顔になる。だけど俺と目が合った途端に、ふいっと顔を背けた。

なんだよ、それ…。

ガチャ…と鎖の音。

「…?」

何だ、これ…?

枷どころか封術鎖で地面に縛り付けられてる。そして周りは聖騎士隊に囲まれているじゃないか…!

一歩も動けない状態だった。

「…」

俺を悪しきモノとして扱う聖騎士隊。

まさか、俺が君を襲うとーー…??

「…ティアラ…」

…愛しい彼女の名を呼んでしまう。その途端に彼女はカタカタ…と震え始めた。

「…っ、…」

怯えてる、俺に…?

そんな彼女を、そっと抱きしめるのは聖騎士隊長のハーブだった。俺達は親友だ、そう言っていたのに…!彼女の傍らには常にハーブがいた。

「…、…っ…」

悔しいが、まるで寄り添う二人は絵画のようだった。美男美女でお似合いのふたりだと噂されただけはある。噂だけだと思ってたのは俺だけでふたりは心通わせ恋人へとなっていた。

「せめて…友として、あの世におくってやろう」

スラリと構えた剣に俺は嘘だろう…と呟いた。ギラリと輝くそれ。

ドラゴンソードじゃねぇか…俺を唯一、殺せる道具じゃねぇか!…もとから殺すつもりだったのかよ?

なんだ、それ…俺は…俺は…、親友だと言ったのは嘘だったのか!

「俺は守護獣として聖女に誓いをたて…彼女を護っただけだ!ティアラ!俺は君の為にー…!」

「彼女の為?…自分の欲の為だろう?彼女の両親を殺し、悲しむ彼女のパワーを奪い監禁してたのは誰だ?…そんな汚いやり方をするとは思わなかったよ…」

ハーブの冷たい声と視線。

「パワーを奪う…なんの事だ?それに、監禁などしていない…!…、…確かに…ティアラの両親を殺しはしたが…」

それは彼女が俺に命令したから…主人の命令には俺は背けない…!

「お父様、お母様…」

泣き崩れたティアラに愕然とした。なんでだよ…命令したじゃないか! 

「ごめんなさい、ごめんなさい。本気で言ったわけじゃないわ…!ほんのちょっと口走っただけなの!死んじゃったらいいのにって。そう、呟いただけ。独り言よ!それなのに…凪斗が勝手に…!いいえ!もう、私じゃ止められないの!だって黒の守護獣は穢れてるから!…私が知らなかったばかりに…!そのせいでお父様もお母様まで…」

ああー!と泣き崩れる。聖女様は悪くありませんと聖騎士たちが口々に慰める。

……穢れて…?

穢れ…。

「は、はは…」

嗤いが出た。

なんだ、それ……穢れてると…?

俺が黒龍だから…か?

好きで黒龍で産まれたわけじゃないのに…本音はそう思ってたのか?


『色が黒だからって私は偏見の目で見ないわ。私にはわかる、あなたは優しい目をしてる…お願い、私を守って…凪斗…』

ー私の守護獣は…あなただけよー


そう…言ったのは嘘だったのか…あの言葉に俺は救われたのに。だから俺は契約したのに。ティアラの為に何でもすると誓ったのに…。

心では涙が、ぼろぼろと流れてるのに俺は笑っていた。

「はは…はははは…」

騙されてたのか…騙されていたんだ。

…結局、俺は都合のいい道具だったんだ…君にとって。

あの笑顔も作り物だったのか…。

禁忌魔法にまで手を出して身体が腐りはじめたのも、痛みさえも我慢できたのは君が、君が幸せなると思ったから…。俺をみて微笑んでくれると信じたから。

…何よりも、それがティアラの幸せだった…と。

その全ては…偽りだった。嘘の中で俺だけは幸せに浸って居た。なんて滑稽なんだ…。


笑い続ける俺を哀れな目でハーブは見つめる。他の聖騎士達の呟きが聞こえた。

狂ってる…

やはり早く始末した方がいい

汚らしいー…

聖女には、ふさわしくない…

忌々しい…


そう、それは幼い頃から言われ続けてた言葉。

なんて惨めな姿。

腐り続けるこの身体。

醜いドラゴンの姿も…。

全て…。



《本当に汚いわ…》


俺しか聞こえない主人の【声】だ。

顔を上げた俺が見たのは密かに嗤うティアラだった。

その声は、わざと聴かせてるのか。

ショックで蒼白になる俺に彼女の【声】は続く。偽りのなかで過ごしていたと判ってても俺はどこかでティアラを求めている。


《もう用済みなのよ…なんで、わからないの?貴重価値のドラゴンだったから守護獣にしてあげただけよ?前までは、なかなか容姿が良かったのに…。腐り始めたあんたのせいで私の評判が落ちたのよ。私は聖女なのよ!あんたのせいで聖神力が弱いんじゃないかなんて噂がたってるのよ。それに…今はもう素敵なナイトがいるもの…。ハーブこそ私の運命の相手だわ。そう、あなた邪魔よ。主人の為なら大人しく斬られて死んでちょ〜うだい》


「…ティアラ…俺は…君を愛してた…ずっと…」


たとえ、振り向いてくれないとわかっていても。傍にいるだけで幸せだったんだ…今も主人の声を伝えてくれることに幸せを感じてる。

でも、君にとっては俺は…邪魔だったんだね…。

ティアラの…主人の命令で、なおさら俺は抵抗は出来ない。

斬られろと命令された。


「…凪斗、残念だ…君を救いたかった…」

ハーブが苦々しい表情をしたまま剣を振り下ろした。







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