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カチカチパンとつきあおう

 

 ニーナとイッチを待つ間、もう少し何か試そうとフライパンをセットする。

 両手鍋で作ったスープは試しにそのままインベントリに入れたら鍋ごと入ったからそのまましまっておき、代わりにパン屋で買ったアレを取り出した。


 そう。たたき売りのように在庫処分で売られていたカチカチパンだ。いっそ武器にでもなるのでは?と思えるそれは、相当に硬い。振り回すのに試しに使ってみたい気もするけど、ゲーム内とはいえ食べ物で遊ぶような真似はなんとなく憚られる。


 ガンッ

「!?」

「あ、ごめんウミ。気にしないで」


 なんとはなしにまな板に向かってカチカチパンを振り下ろしてみる。思っていた以上に大きい音をたてたそれにウミが大きい目を丸くしてこちらを見たので、パンを軽く振りつつ瞑想を続けるように伝える。

 持っているパンを見つめる。想像していた以上に硬かったのか、自分の振り下ろす勢いがよすぎたか、もしくはその両方かは分からないけど相当な音がした。


 …これ、ちゃんと齧れるだろうか。


 包丁をパンに添えると、パンに添えているとは思えない固さを感じる。カボチャだとかそういう感じの、包丁をおろすだけでは絶対に切れない。そんな固さ。

 包丁を前後に動かすようにして、カチカチパンを2センチぐらいに切る。固さがあるおかげで、まっすぐに切ることができたし、もちろん力で潰れることもなかった。

 切ったパンを早速齧ってみる。とてもパンを食べているとは思えない歯ごたえ。齧るよりもふやかすようにして食べた方が食べやすいな、これは。そう思いつつも、齧りついたパンからかみ切らずにそのまま口を放すのもなんだから、行儀が悪いと思いつつ加えたまま、二枚目のパンを切り始めた。

 咥えたままパンを切っていると、食べ進めやすそうな固さになってきたのでパンの咥えている部分を進めていく。んむんむと食べつつ作業をしていくと、長かったパンを切り終える頃には試しに齧ったパンは全て食べることができた。小麦の匂いと素朴な味で美味しかった、けど、やっぱりこのままだと食べるのに時間がかかるし食べづらい。

 卵とか牛乳があったらフレンチトーストでも作ったら美味しく食べられるかもしれないし、多めの油と火力、砂糖とかがあれば揚げて砂糖を振りかけるのもよかっただろう。


「うーん、でも今はないしなぁ…」


 今できそうなこと…。


「……チョッキ、美味しそうな匂いがするね」

「あれ、ウミ。瞑想はもういいの?」

「うん、大分回復したかな。あと匂いが気になって」

「そうなんだ」

「油なんて持ってたっけ?」

「ううん、持ってなかったけど、牛脂とかがあるなら、他の肉でも脂部分使ったら使えないかなーって思ってやってみたらそこそこうまく油っぽく使えたから」

「ドロップでそんな部位あった?」

「解体したときに出たやつでーす」

「なるほど」


 油っぽい何かを作るときは、錬金術での分離とかを使ったりしたけど、思った以上にそれらしい物ができた。パンは解体用ナイフと武器用ナイフを重ねて、パンを削るようにしたらパン粉っぽいものができた。ただし相当粗目な状態だったけど。そうしてできたパン粉もどきと油もどきを使って平たく切って叩いて薄めにした肉に味付けして揚げ焼きにしていく。

 普通に焼いただけでも美味しかったけど、粗目のパン粉がカリッというかザクっというような食感がして結構美味しくできた。あと肉!油!衣!って感じで、ただ焼いただけの肉よりも満腹度の回復量が多かった。


 はい、とウミに出来立てのお肉を渡すと、熱かったのかはふはふと息を出しつつ食べてくれた。サイズが大きかったせいでもぐもぐと頬をいっぱいにしながら目を細めて美味しそうに笑うウミ。


 …自分が言うなって話だけど、見た目が幼いせいで微笑ましい気持ちになるし、追加でおかずを渡してあげたくなるな。ウミ自身は子供扱いされたいわけじゃないだろうからあからさまにはしないけど。


 一通り用意した分を揚げ焼きし終わったから、1つは自分の口に放り込んで残りは全てインベントリにしまう。むぐむぐと食べながら料理と調合で使った道具類も洗ってから同様にしまっていく。


「っ!?」

 片付けも終わって立ち上がって手をはらっていると、どんっと背中に衝撃。自分の両肩から出されている腕。驚いて後ろを見ようとすると、肩越しにニーナが見えた。ニーナの後ろにはイッチが呆れたような顔で笑っていた。




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