合流前の
「……まぁこんなもんかな」
そう言ってウミが身体を起こす。あれから暫くの間、ウミは何度かは身体を起こしたけど、それ以外ではまた地面にはりつくような体勢で魔法紙を記入していた。
私はというと、自分のやりたい作業がある程度終わってからは、両手鍋を使って簡単なスープを作っていた。新しく手に入れた肉で肉団子を作り、農場の販売所で買った野菜、それに塩コショウで味を整える。具材が多すぎてスープとは言えないものになってはいたけど、出来上がったものはマグカップ一杯で満腹度が30回復と簡易食料並みの回復量にはなった。スープを時たま混ぜながら、ニーナからきていた連絡に返信もあわせて行っていた。
「うまくできた感じ?」
「あ、うん、まぁ。指笛用の魔法紙は何枚か補充したし、他にも何個かは使えそうなのができたかな」
そう言って先ほど渡したメモ束をお礼と共に返された。メモ束に書かれた単語とかも参考にできたらしい。発動はしていないけど鑑定では一応効果が記載されているからおそらく使えるだろうということだった。
私もウミから一枚魔法紙を受け取って鑑定させてもらう。確かに鑑定結果では魔法紙の名称はないものの、効果は示されていた。名称がないのは正式に普及している陣や言葉の組み立てじゃないからだろうか。それとも市販の魔法紙も同じように個別の名称はないのだろうか。
「チョッキの方はどう?」
「ん-、ふふ、こっちもまぁなんとなくそれなりに使えそうなものはできたかな。色々試せて楽しかったし」
そう言って出来上がったものを並べて見せると、ウミは1つずつ鑑定してどんなものかを確認していく。
「なるほど……こっちの寄せてあるのは?」
「色々試してる間にできた失敗作というかあんまり効果がなさそうな諸々、かな」
「そうなんだ。僕は生産系のスキルは取ってないから経験はないけど、失敗したら真っ黒な何か、みたいな感じの物体ができたり、消えてなくなったりするんじゃないんだね」
「うーん、どうなんだろう…料理に関してはある程度の焦げまではそのままだったし、私は今のところそういうのには遭遇してないからなぁ」
「そうなの?運がいいのかな」
「うーん、失敗するような挑戦をしてないってことかも」
「これで?」
「いや、…はは。もしかしたらレシピでスキルレベルにそぐわない物を作ろうとしたらそういうことが起きるのかもね」
今のところ初級ポーション以外ちゃんとしたレシピを使って作業してないし。初級ポーションは本当に初心者向けって感じだから失敗も何もないだろうし。
「でも一応失敗作でも鑑定結果だと一応『○○のような何か』とか『○○になりそこなったもの』みたいな名前でふわっとした効果が表記されてるね」
「そうなんだよね、使えるのか使えないのかよく分からないような表記だから暇な時に広い場所で試してみる感じかなぁ」
失敗作はいくつかあるけど、それぞれ工程や材料が違うからか説明も少しずつ違って、そのままインベントリに入れるとそれぞれでインベントリの場所を使ってしまう。無駄にマスを埋めてしまうから手持ちの袋にひとまとめにして入れておいた。
「うまくいったやつも試してみたいね」
「ウミはどれなら使えそうとかある?」
「僕でも使えそうなのは……この辺、かなぁ」
「じゃあそっちはウミで、こっちは私が持っておこうかな」
「いや、でも何があるか分からないし折角だし一応それぞれ分けておこうよ」
「そう?」
「うん、自分が必ずしも使わなければいけないわけじゃないしさ」
あぁ。それぞれ別の人とパーティー組んだときとかに使えるかもしれないもんね。私は今のところニーナやチョッキ、ウミの3人としか組んだことはないけど、イッチと一緒に他のパーティーを組むこともあるのかもしれない。
そんな話をしてから、先ほどのニーナからの連絡について話をする。
「あ、こっちにもイッチから連絡きてた」
「ニーナには返信したけど、私達が街の中に用事がなければ二人がこっちに来るって」
「アイテムはまだそれなりにあるし、MPポーション…は多少心もとないけどまだ売ってないしなー…」
「ウミはMP自動回復とかはとってないんだっけ?」
「とってはあるけど、ポイント重ねる程余裕ないからまだレベルは上げられてないんだよね。チョッキは?」
「私も一回ポイント振っただけだなぁ。あ、でも一応瞑想もポイント振ってとったよ」
「やっぱりそうなるよなー」
「MPポーションのレシピも買っておいたらまた違ったかもしれないけど金欠だったからさ」
「まぁそういうこともあるよね。欲しいものを優先するのは仕方ないよ。僕もそうだし」
「食料よりも魔法紙だし?」
「そういうチョッキは防具より魔法石だし?」
ニッと笑いながらそう言うと、ウミも似たような感じの顔でそう言う。
「……」
「……」
二人でしばらく見合ってからどちらともなく笑う。
「やー、だってゲームなんだから楽しんだ方がいいよ」
「好きなことして好きなものに力入れてもいいよねぇ、仕事じゃないんだしさ」
「そうだね」
「それに、きっとニーナ達も別にそれに対して怒ったりしないと思うしね」
「それはそう。イッチ、アイツがそれで怒るのって想像つかないなぁ」
「ね」
イッチもニーナもあの元気な声と朗らかな笑顔でしゃーないな!って笑ってくれるだろう。
「まぁ、でもこのあとボス戦に向かうっていうなら、ウミはMP回復しておいた方がいいよね」
「チョッキは?」
「私はそれほど大きな魔法は使ってないからさっきの時間で大分回復してるかな。だから二人が来るまでは瞑想で少しでも回復しておきなよ。何かきても私が対応するしさ」
「うーん……」
「それにほら、まだもう少し料理したいから。二人が合流したら一緒に腹ごしらえして出発しようよ」
「うん、じゃあ、そうするかな。ありがとう」
「大丈夫大丈夫」
そうしてウミは目を瞑って瞑想に入り、私はフライパンで次の料理にとりかかった。