錬金再び
その後は何事もなく門付近まで戻ってこれた私達は、街の中には入らずに壁沿いに少し歩いたところで座り込んでいた。
街の中の施設を借りるほどではないけど、街中で広げるには邪魔になりそうな作業や持ち物の整理などを行うためだ。
最初に錬金板を使って、たまった狼の毛皮を合成して大き目の敷布を二枚作って片方に腰をおろし、もう一枚にはドロップしたものを並べて二人で分けていく。二人で狩りをしに行ってからドロップしたものは分かるように区域を分けていたので、特に問題なく取り出せる。
綺麗に割り切れないものはあとから端数をそれぞれ欲しいものをとっていくようにして分けていった。とはいえ、私もウミもそれほどコレが今欲しい!というものがあるわけではないので、なんとなくで選んだり、じゃんけんで勝ったらこっち、負けたらこっち、みたいな感じの分け方をする。
「それも分けるの?」
「あれ、いらないかな」
そう言って指さされたのは枝についた蜘蛛の巣、表記としては鳥もちとなっているそれだった。確かに売ろうとしても本当に二束三文って感じで売る意味がないような素材だし、ドロップした蜘蛛の糸とも違うから何に使えるということも今のところはない。
「うーん、……投擲してもうまく当てられないしチョッキが何かに使えそうなら使っていいよ」
「そう?じゃあなんか色々試して使えそうなものができたら渡すね」
「楽しみにしてるね」
「はいはーい」
素材を分けたあとは採取した薬草でポーションの補充をする。ウミはその傍らで素材の整頓だったり魔法紙を使って色々試したりしている。
「机もないところでペライチの紙に文字とか書くのって大変じゃない?」
「うーん、難しい構成だとダメらしいんだけど、前に見せた音を大きくする魔法とか簡単なものだとわりと雑に書かれてても大丈夫みたいだから」
そう言いながら自分の手のひらを使ってうまいこと文字を書いていくウミに、多少はマシになるかもしれないからメモ束を下にしいたらどうかと渡す。ウミはそれを受け取って多少は平らな面が広がって書きやすくなったのか、敷布の上で正座の体勢から両腕を地面につくようにして文字を書き始めた。そんなウミに何か参考になればとメモ束の簡易魔石の中身を書き写したページも伝えておく。
さっきは私が作業している間にウミに近づいてきた敵を処理してもらっていたから、今度は何かきたら私が対応しよう、と傍らにナイフを置いた。とはいえ、この辺りで出る狼やイノシシ相手ならレベルがあがったこともありダメージを与えなくてもそれなりに捕縛できる確率が上がっているからナイフの出番はないと思うけど。
一通り採取した薬草分はポーションにできたので、再び錬金板を使った作業に移る。全部使ってもいいと言われた鳥もちで色々試すためだ。
まずは枝と蜘蛛の糸とで分解したらドロップで獲得した蜘蛛糸と同様になるのかを試してみる。
数本の鳥もちを錬金板の上に載せて分解する。すると鳥もちと表記されていたそれは、分解されて木の枝と蜘蛛の粘糸というものに分かれた。木の枝は勿論なんの変哲もないただの枝だけど、粘糸の方は『蜘蛛の巣に使われていた粘り気の強い糸。捕らえた獲物は逃がさない』という表示が出た。刺繍糸のように小さくまとめられたそれは、鳥もち数本分からできたためか長さはそれほどない。
できた糸を指で擦るようにして触ると、ドロップした蜘蛛糸とは違い確かにネトッと指にくっつくような感触がする。ドロップした蜘蛛糸は服飾で使えそうな糸という感じだけど、このくっつき方だと装備などには使えなさそうだ。
鳥もちとしてついていたときよりは粘着力は落ち着いているから、一応束ねた糸という形状になっているんだろう。
今度はできた粘糸を合成してみる。その次は自分でどういう形状にするかイメージしつつ合成。量を増やして鳥もちを分解。そんな風に結果を確認していく。
「……うーん。なるほど……?」
ふむ、と指を口の下に当ててインベントリを開いて残りの鳥もちの数量と他に使えそうなものがないかを確認する。インベントリには表示されていないポケットの中身も同様。
そして自分のスキルの現在のレベルとできることも改めて確認する。
「……よし」
ウミが集中しているせいで地面に顔を近づけて作業をしているのを横目に、自分も錬金板と向き合って再び作業にとりかかることにした。
鑑定ではフォレストスパイダーの粘糸等で表記されていますが、チョッキは基本的に種族名までは意識していないので単純な呼び方をしています