スライムとの戦闘。
スライムに近づく前に、回復としてポーションではなく試しに薬草を噛んで食べてみた。そうすると草の独特な苦みとえぐみのようなものでえずきそうになったけど、5だけ回復していた。一応そのまま食べても回復はするらしい。でも味的にも効果的にもそのまま食べる意味はあまりなさそうだから多分もう食べない。口の中がまずい。
まぁ薬草は興味本位で口にしたけどそれ以上は回復しなくていいだろう、ということで少し歩いた先に見えたスライムの方へと足を進めた。
今度はちゃんとナイフを抜いて右手に持って上から振りかぶれるよう向きで握った。刃物を振り回した経験はないけど、とりあえず短“剣”だし剣みたいな持ち方でいいでしょ。
スライムは目が合って一定距離になると、ぽよぽよと近づいてきて、ジャンプして体当たりをしてくる。体当たりのときはまっすぐ跳んでくるから避けるのは簡単だった。
試しにもう一度当たってみたけど、私がレベル1かつ初期装備なのもあるかもしれないけど、普通に当たると3ダメージが入った。最初のHPが30だから10回当たったら死ぬね。
さっき5のダメージを受けたのは気を抜いているときに後ろからだったせいらしい。
少し低めの態勢になって正面からスライムに相対する。スライムに向かってナイフを振ったら、振り下ろす前にジャンプされて顔からスライムにぶつかられた。
「いっ!たくはそんなにないけど、恥ずかしいな!」
誰に聞かせるわかでもないけど、ちょっと恥ずかしくて思わず独り言みたく声を出してしまった。
周りにほとんど人がいなくてよかった。黙々と採取をしている間にまばらだった人も移動したのかいなくなっていた。
先に素振りとかをしておいた方がよかったかもしれない。ぶつかった鼻あたりを押さえつつスライムの方を見る。相変わらずぽよぽよしている。
今度は自分からではなくジャンプのタイミングでナイフを当てることにする。正面から体当たりをするスライムに向かってナイフを振る。
スライムは一発当たってそのまま地面にぶつかりそのまま死んだ。
ただし当たったのはナイフではなくナイフを握っていた右手の拳だった。
「……」
いや、でも倒したは倒したしな。次行こう次。
そう思いなおして周りを見て、緑色を探す。一応ウサギもいないかも気にしてはいたけど、近くにはスライムしかいないようだった。
さて、次は「ナイフを」当てるぞ。そう思いながらスライムと戦っていく。
……。
そのあと依頼をクリアする程度に倒したけど、結果としてナイフは振るけどほとんど当たらなかった。試しにナイフの持ち方を逆にして上から突き刺すみたいに持ってもみたけど、やっぱり当たらなかった。
どれもナイフではなく、ナイフを握っている拳が当たって死ぬ。複数同時に跳んでこられて左手ではたき落とすみたいにしたら地面に叩きつけられて死ぬ。うっかり踏んだら死ぬ。足が当たって蹴っとばしたら死ぬ。跳んできたのを思わず左手で掴んで他のスライムに投げつけたら両方とも死ぬ。石を投げたら当たって死ぬ。こんな感じだった。途中からは掴んで投げる、殴る、蹴っ飛ばすがメインで、ナイフは握って添えるだけみたいになっていた。いや、毎回振ってはいたんだけどね。当たらないから。
これはスライムのせいじゃなくて明らかに自分のせいだろう。
関係あるのか分からないけど、そういえば学生時代体育とかでラケットとかバットとかを使うタイプの競技がすこぶる苦手だったのを思い出した。直接蹴ったり、ボールを身体で受けたり投げたりするのは大丈夫だったんだけど、ラケットとかに球を当てるのがひどく苦手だったのだ。
これは武器選択をミスったかもしれな……いや、でもその理論でいくと他の武器も似たようなものだったのでは?
そうだ、考え方を変えよう。
動いているものに振って当てようと思うからだめなんだよな、多分。動かないものになら普通に当てられるんだから、動かなくしたらいいんだよ、きっと。
そう思って再び近くに来ていたスライムに向き合う。
体当たりをしようとしてきたスライムを左手で掴んで脇に抱えた。柔らかいからウナギとかみたいにつるっとは出ていきそうだから掴んでいる左手はそのままだ。逃げようとぶるぶる動いていたけど、きっちり左手と脇で押さえたら逃げることはできない。
押さえこんだ上で、ナイフを突き刺すように振りおろした。途端にぼふんっという音と消えたスライム。インベントリにはドロップした素材。
十数体目初めてナイフで倒すことができた。何度も振って初めてのことだった。これはナイフを扱うスキルをとったらなんとかなるんだろうか……。いや、でもこんな感じで戦ってたらそのうち扱うのに慣れるかもしれないしね。気長にいこう。全然無理そうだったら冒険者ギルドで初級の講習を受けよう。
スライムも依頼数は一応討伐が終わったから、次はウサギと戦いたい。
そう思って周囲を見回してもパッと見た感じそれらしきものは見つからない。
もしかしてすごく小さいから見つからないとか?
とりあえず近くにはいないようだから、もう少し奥に行った木々が生えている手前ぐらいまで行ってみることにした。
一応念のため初心者用ポーションを飲んでHPを回復しておき、採取のときに拾った手頃なサイズの石もポケットにいくつか入れておく。ナイフは一応握りつつ足を進めた。
そういえば水魔法も持ってるんだから一回ぐらいは使いたいよな。
最初にスキルを確認したときに、使える魔法がウォーターショットとクリエイトウォーターとなっていた。スキルの詳細も見たけど、ウォーターショットは水の弾をぶつける攻撃用の魔法で、クリエイトウォーターは水を生成するという魔法だった。これはRPGとかあんまりしない自分でもなんとなくイメージ通りの水魔法って感じだ。
ナイフは当たらないけど魔法なら自分でボールを投げる判定で当てられるかもしれない。
そんな希望を抱きつつ周囲を見渡す。
ガサガサと音がし、そちらと向くと一匹のウサギがいた。
「えっ」
現れたウサギには大きな角が一本おでこに生えていた。