二人で森の中
森の入り口付近ではまだ狼やイノシシが出てくることもあるけど、進んで行くと遭遇する頻度は下がり、代わりに蜂や蜘蛛などの虫系の敵との遭遇が増えていく。
途中はられている蜘蛛の巣は、前のようにナイフで落とした木の枝で取って収納していく。ただ、昨日のボス蜘蛛と遭遇したきっかけが分からないから今日森に入ってから回収した蜘蛛の巣の数が分かるようにインベントリ内で分けて収納していく。
相変わらず枝で取ったあとは鳥もち表記になっている。これについては、通常の蜘蛛を倒して得られた蜘蛛糸よりもねばつきが強いから鳥もちとしてではなくて分離してねばつきの強い蜘蛛糸として獲得できたら何かに使えないだろうか。錬金術の分解と合成を使って枝からのねばつく蜘蛛糸を取り出したり、量をまとめたりできないだろうか。
こんな森の中で座り込んで錬金をするつもりは今はないけど、後から試してみるのもいいかもしれない。
そんなことを考えながら森の中を進んでいく。
ウミは前回とは違い、火魔法以外に風魔法も使えるようになっているから、燃え移りとかを一応警戒して風魔法をメインで使っていた。もちろんゲーム内だからそういったことはないだろうけど、何かのイベントをひいたりした場合にそういうことが起きてダメージを受けたり死んだりすることもあるらしいという噂程度の情報をウミが聞いたことがあったからだった。まぁ新しく覚えた魔法のレベルを上げたいというのがメインのようだけど。
ウミの放つ魔法の狙いがちょっと甘いのはまだそれほど改善されていないため、対角線上とかにいたりすると流れ弾が当たりそうになったりする。
今は私とウミの二人だけだから、蜘蛛については私が捕縛してからのウミの攻撃、もしくはそのまま私の攻撃。蜂については捕縛のレベルのせいか私の技量のせいかうまく初発からの捕縛ができなかったから、鳥もちを投擲してぶつけて落としてからの攻撃や、ウミの魔法での遠距離攻撃。そんな感じで進める形に落ち着いていた。何なら単体で来たときは早さにも慣れたから手で掴むのも普通にできるようになっていた。サイズが手で持ち上げられるぐらいのサイズだからこその行動だけど。ウミはゲーム内とはいえサイズの大きい蜘蛛や蜂を手づかみするのは嫌なのかどことなく引き気味だった。
「でもほら、手袋もしてるしさ」
「そういう問題じゃないんだよなぁ」
「そうかな」
「……いや、チョッキがいいならいいんだけどさ」
そう言いながらウミは近づかれた蜂相手に杖を横薙ぎに振るって攻撃する。
ウミは武器の装備として杖を持っているけど、敵に近づかれたときは杖を使っての突きだったり横殴りなどで対応していた。スキルについて詳しく全部聞いたわけじゃないけど杖術だか棒術というようなスキルを持っているのかもしれない。私は相変わらずナイフを振るよりも殴るか蹴るかした方がまともに当たるから、動けなくさせたとき以外ではナイフは使用していない。
「……チョッキは武器振っても全然当たらないね」
「投擲は当たるんだけどね」
「逆に投擲はコントロールよさそうだもんね」
「ウミは投擲というか魔法を放つ感じのはあんまりコントロールまだよくないね」
「そのへんはホラ……魔法操作とかのスキルレベルを上げたらよくなるんじゃないかなって」
「だといいねぇ。私もなんか武器のスキル取ったら当たるようになるかな……」
「いや、狙いが甘いのと全然当たらないとではまた違うような気もするけど」
「……ウミはちゃんと杖、当たるね」
「そりゃ……でもチョッキだって……」
「ごめん無理してフォローしなくて大丈夫」
これは私の振るナイフが一向に当たらないのをウミが見た時の会話だった。
そりゃ、の後に続く言葉は当たり前だとか勿論だとかそういう言葉だったかもしれないけど、少しの間の後困ったように目をそらして言葉を探し始めたから、ウミを少し困らせてしまった。
ナイフを避けるように地面に着地した蜘蛛に向かってアースショットを放ち倒す。新しく取得した土魔法のスキルも水魔法と同じような段階を踏むらしく、最初から使えるのは土を生み出すクリエイトブロックと土の塊をぶつけるようなアースショットだった。私もスキルに慣れる目的もあり土魔法をメインで使っていた。
「ウミは私とは逆で物投げてもあんまり当たらないよね。投擲はとってない感じ?」
「一応は持ってるけど元々あんまり球技とか得意じゃないからそれもあるのかな」
「なるほど……風魔法使ったら投擲も遠くに投げられたりとかもできそうなのにね」
「うーん……」
現実で得意じゃないことがそのままゲーム内でも得意じゃないのはなんとなく悔しい気もする。ゲームの中でぐらい得意とは言わなくてもある程度はできるようになってたっていいのになぁ。もしかしたら苦手意識が強すぎて反映されている部分もあるかもしれないけど。
そう思いつつ、動きを留めて固定した状態でナイフを突き刺して止めを刺す。
「……チョッキ」
「ん?」
「もうそろそろ前に進んだところよりも奥に行くから、念のため別の何かが来ても対応できるように注意して進もう」
「あー……。うん。分かった」
私は変わらず森の中でマップを開いても自分が進んで来たところはマッピングされているものの、建築物があるわけじゃないからあまりどの辺りまで進んでいるかはよく分からない。ただ、少し進んだところでマッピングされている場所が終わっていることから、ウミの言葉が正しいことが分かった。あんまりマップを見ている感じはしないけど場所の把握が苦手ではないってことだろうか。助かる。
どことなく周囲の音もざわざわとしているような気がしてくる。進んできたところよりも木々の葉や枝が生い茂り日差しが差し込む量が少なくなっているのか少し薄暗くなったような気もする。
「……ウミはこの先って何があるとか情報仕入れたりしてる?」
「あんまり」
「そっか。……私も」
「というかちょっと調べたぐらいだからかもしれないけど、次の街とかそっち方面は結構情報が出てくるけどこっち側はまだあんまり情報としてまとまってないみたいで」
「そんなに来る人が少ないってこと?」
「うーん、虫が相手だと苦手な人とかもいるだろうし、この奥に具体的に何があるって分かってるわけじゃないから街とかが優先になってるのかもなぁ」
そんな話をしながら、ウミは杖を、私はナイフを握りしめて奥へと足を進めていた。前回私達は特殊条件で遭遇したランドロードスパイダーと戦ったけど、通常のボスはクイーンビーという大きな蜂らしい。とりあえずはそのボスと遭遇するというエリアを踏まないようにして奥に進んでみるというのがウミと私で相談した結果だった。
勿論、周囲の気配に気をつけながらだ。
「!?」
「っ」
突然ガサガサっとした音がしたと思ったらウミが急に地面へと倒れこむように転んだ。




