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パン屋と農場

 

 外も大分明るくなり、通りのプレイヤー以外の住人らしき人たちの人通りも多くなっていた。

 一旦ログアウトすると言っていたスーサナさんからはまだ返事はない。まだしばらくは時間は大丈夫だろうと、今度は横道を通り農場の方へと進む。


 途中、昨日は閉まっていたお店もちらほらと開き始めていた。

 ふわりとパンのいい匂いが鼻をくすぐる。お店で買うもので食べたものは先ほど貰ったお弁当を除くと串焼きぐらいだ。インベントリ内に入れたもので傷んだりはしないし、いくつか買うのもいいかもしれない。


 美味しそうな匂いにつられるようにしてパン屋の扉を開ける。軽いドアベルの音と共にいらっしゃいませと挨拶をされた。店内では開店したばかりだからかどのパンも出来立てのように見える。街中にあるようなパン屋とは違い入口にトングやトレーはなく、カウンター側の面だけにパンが並んでいる。


「お決めになられたら声をおかけください」

 にこやかに店員さんにそう言われる。どちらかというとケーキ屋さんのような形で売られているようだ。

 どれも美味しそうに見える。とはいえそれほど種類はなく、厚めのパンに具材が挟まっているサンドイッチや、食パンの上に卵やベーコンのようなお肉がのせられているパンなどがある。あんパンなどの甘いタイプのパンやカレーパンなどはないが、食パンも売られている。


 サンドイッチとベーコンエッグトースト、それに食パンを選んで購入しインベントリにしまう。

 ふとカウンターの隅に置かれているものを見ると、乱雑に長めのフランスパンのような形のパンがいくつか置かれていた。他のパンに比べると雑に置かれているし出来立てという感じもしない。


「これも売り物ですか?」

「あぁ、それは昨日の売れ残りだよ。カチカチになっちゃってるからほとんど売れないけど、もったいないから一応置いてるんだ」


 そう言って店員さんがパンを掴んで軽く叩くと、確かにコンコンとパンからは普段聞かないような音がしていた。値段はほとんど二束三文の捨て値だった。なんとなく置いてあるものを全て買うことにした。パン粉とかにもできそうだし、ほとんどタダのような値段だし、スープなどに浸したら食べられなくもないだろう。

 あと硬すぎていっそスライムぐらいなら倒せそう。一瞬バットみたいにスライムをパンで吹き飛ばすのを想像した。勿論道具は当たらないし、食べ物で遊んだりしないからただの想像でしかないけど。


 パンを買い終わり再び農場へ向かうと、前回来た時はあまり見えなかった柵の向こう側の農場の様子がよく見えた。

 低めの葉物野菜のような作物が植えられている向こう側に、実をつけた木々が沢山見える。思っている以上に大きな農場だったらしい。それらを見ながら昨日の小屋の入口まで行こうとしていたら、大きな木箱を抱えたおじいさんと目があった。


「……」

「おはようございます」


 少し距離があるけど、挨拶と共に軽く頭を下げた。

 明るくなってきたとはいえ、時間としてはまだ朝だと言える時間だ。大きい声は近隣の邪魔になりそうだから出しづらい。


 昨日と同じように、眉間に深いしわを作りながら木箱と共に顎をしゃくって小屋の方を示された。

 あっちで話を聞くってことかな。小屋の近くまでくると、前回は売り切れになっていた無人販売所にいくつか作物が小さな浅い籠に入れられ並べられていた。前回もらったソルダムも置いてあるけど、もらったものよりも大きく綺麗な形をしていた。

 並んでいるのはソルダムやリンゴなどの果物や人参やジャガイモ、ほうれん草などの野菜だった。

 これもいくつか買って行こうかな、そんな風に見ていたら近くで足音が聞こえ、振り向くといつの間にかかなり近くにおじいさんが立っていた。


 び、びっくりした。身長差もあるし、静かに近くまで来られているのにも驚いた。


「お、おはようございます」

「……」

 小さく頷いておはようと低い声で返される。音量は小さいけど聞こえにくいわけではない。


「今日も内臓を持ってきたのでよろしければ受け取っていただけると嬉しいです」

「……」

 こくりと頷かれ、予想がついていたのか前と同じように大きな甕を差し出された。

 その中に前回と同じ要領でインベントリから解体で獲得した内臓を全ていれた。

 今回は自分で解体した内臓だけではなく、スキルの解体で手に入れた分の内臓もあるから前回よりも量が多い。


「……前よりも量が多いな」

「スキルで解体ができるようになったので、そのおかげもあります」

「……そうか」

「……あの、あんまり量が多いと困ったりしますか?」

「……大丈夫だ」

「ならよかったです」


 ぽつりぽつりと話してくれる。

 相変わらず眉間の皺は深いけど、怒っているわけじゃなさそうだ。威圧感はあるものの、それだって身長差と顔、雰囲気からのものだ。

 声からは不機嫌な感じはしない。


「ありがとうございました。それでは」

「……錬金術が」

「?」


 今回も売り物にならない訳ありのソルダムやリンゴをいくつか貰った。前回よりも内臓の量が多いからか、その数も少し増えていた。お礼を言って去ろうとすると、おじいさんが口を開いた。


「……錬金術が使える人が近くにいるなら、内臓で肥料を作ってそれを持ってきたらもっと対価が渡せる」

「そうなんですか?」

「こちらで肥料化する手間が省けるからその分ぐらいは」

「なるほど……」


 おじいさんの方を見ると、錬金術を使える人に頼んでいるから具体的なやり方は分からないと言われた。何も言ってないけど、欲しそうな顔でもしていただろうか。子供みたいな見た目だとはいえ、あからさまに欲しがり感あるとやらしいから気を付けないとな。

 頬をむにむにと片手で触りながら、分かりましたとありがとうを伝えて今度こそ農場を離れた。

 離れるときについでに販売所に置いてあった野菜もいくつか購入した。

 野菜を買ったあと、沢山食べろと小さく言われて顔を上げると、もうおじいさんはその場を離れていた。

 昨日よりは多少慣れたとはいえ独特な間のおじいさんだなぁ。


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