小鳥亭へ
ロルフさんから以前教えてもらった食事処、小鳥亭は一階部分が食事処、二階から上が宿屋になっているようだった。
時間は深夜を過ぎ、夏だったらもうそろそろ明るくなるようなそんな頃合い。閉まっているかもしれないと思いつつ足を運んだけど、お店はまだ開いていた。
扉を開けて中に入ると、ドアを開けた瞬間からかなりのお酒の匂いがする。店内は外観から想像していたよりも広く、ゲームだから外と中が違うこともあるんだなと思いつつ様子を見る。
置かれたテーブルでは何人が突っ伏したり壁にもたれかかって寝ていたりしている。ニーナと設定を見直したときに、頭の上に逆三角のアイコンが表示されるように設定しなおしたけど、なんとなく頭の上にマークがついていることに違和感があったから表示を消していた。そのため、そこにいる人達がプレイヤーなのかそうでないのかは分からないけど、騒いで飲んだあと、という印象だった。
「おや、お客さんかい?」
きょろきょろと周囲を見ていると、快活な女性の声が聞こえた。声がした方を見ると、女性が両腕に何個もの箱を抱えた状態で立っていた。
「食事かい?すまないが今日の食事の受付はもう終わってるんだよ。再開するのはもう少し後になるね。それともこんな時間から宿の申し込みだったりするかい?」
どうやら出入りができるのは宿泊している人や食事が終わった人が帰るためだったらしい。食事が終わった人というか飲み潰れた人が意識を取り戻したらと表現した方がいいかもしれないけど。もしプレイヤーだったとしたら、お酒に酔ったときの状態は人によって違ったり強い弱いがあったりするんだろうか。
「あ、そうなんですね。片付けのところ申し訳ないです。あの、ロルフさんからお話を聞いて、お肉を納品できたらと思って来たのですが出直した方がよさそうでしょうか?」
小鳥亭への肉の納品依頼は、ロルフさんとの会話で出てきたもので小鳥亭で働いている人との間で交わしたものではない。
急に肉を納品したいと伝えて対応してもらえるのか、普段からそういうことがあるから問題ないのかは分からないけど、依頼として出ているんだからシステム的には問題ないだろう。そうは思っていても急にシステムウインドウで肉を受け渡しするわけにもいかないし、時間帯的に受け取れないことはあるかもしれないから女性の都合を尋ねる。
「おや、そうなのかい。一種類だけじゃなくて色々な部位が欲しいんだけど大丈夫かい?」
「はい。イノシシに狼、ウサギであればそれなりに部位があると思います。特にウサギなら多めに持っているんですが、どれが多く必要とかそういうことはありますか?」
「そりゃ助かるね。どの部位があるか見せてもらおうか」
そうしてウインドウを見つつ、どの動物がどの部位があり、それぞれどれくらいの量があるかを伝える。依頼としては部位別に5種類を5個ずつということだったけど、必要があるなら多めに納品してもいいかなと思ってのことだった。
「なるほど十分な量があるみたいだね。アンタ―、ちょっと来ておくれよ!」
実際に見たいと言われた部位を出された板にのせていると、おかみさんが奥の方へと声をかけて誰かを呼んだ。出てきたのはおばさんよりと同じぐらいの身長のお腹がぽにゃっとした感じのおじさんだった。アンタ、という呼ばれ方をしているところからして、それなりに近しい関係なんだろう。もしかしたら夫婦なのかもしれない。
布巾で手を拭いながら出てきた男性は、こちらを見てにっこりと柔和な笑みで挨拶をしてきた。一言二言おばさんから説明をされて理解したのか、私が広げた肉を順番に確認していき、肉を選別していく。その際に、「自分で解体したのかい?」とか「イノシシや狼も上手にできてるねぇ」とちょこちょこと質問をしたり褒められたりされた。
なんというか、ここだけじゃないけど、昨日からちょいちょい小さなことでも褒められたりするのがくすぐったい。自分の外見が幼いからだろうけど、こんな風にささいなことで肯定してもらえることなんてそんなにないから照れ臭くも嫌ではない。
納品クエスト
内容:小鳥亭へ動物の肉を5種類5個ずつ納品する
報酬:納品した肉を使った料理、部位買取
今回の依頼はこの内容だったけど、最終的にウサギの肉で5種類の部位を5個ずつと、イノシシと狼の肉をいくつか納品することになった。お肉の費用はしっかりと値段を覚えているわけじゃないけどギルドで売るよりも少し安いぐらいの値段だった気がする。でも、お金だけでなくお肉を使ったお弁当を3個もらえたからなんとなくプラマイプラスぐらいの気持ちだった。
普段は食事処で食べる用しかやっていないらしいけど、お礼にということでお弁当として持ち歩けるようにしてくれた形だった。
なんとなく鑑定をしてみると、小鳥亭のお弁当(中)お肉と野菜がたっぷり使われたお弁当。冷めても美味しい。満腹度、体力共に50回復。みたいな感じの表示が出ていた。
今はそれほど空腹にはなっていないし、気になるけどお腹が減って食べるときの楽しみにとっておこう。というか初級ポーション並みに回復もするのすごいな。美味しいってすごい。戦ってるときに食べることは絶対できないけど、戦闘後に食べるとかいいかもしれない。
「それじゃあ、お弁当ありがとうございました。失礼します」
「こちらこそお肉の納品ありがとね。また余分にお肉があるときにでも納品しておくれ」
「今度は料理を食べにおいで。ただし遅すぎない時間にね」
「はい。それではまた」
夜遅くだと深酒をして悪酔いした酔っ払いが多いときもあるらしく、食べにくるならお昼時か20時ぐらいまでにおいで、という注意も貰った。お弁当とはメニューも違うだろうし、アルコールを飲んだときにどうなるのかも気になるから今度来よう。
肉の素材は多くあるときにでも持ってこようと思う。おそらく今回の解体で狼やイノシシも解体スキルで各部位に分けて獲得できるようになっただろうから、おそらくそのうち素材はダブついてくるだろうし。
お店でやり取りをしているときに、納品したお肉を使った料理の作り方とか教えてもらえないかなとそういう方へも話を振ってみたけどやんわりと断られた。なんとなくやり取りした内容的に料理スキルが足りてないからダメ、みたいな感じだったからもしかしたらスキルレベルによってはいけたのかもしれない。
今のところお店で買える調味料は塩コショウぐらいで、明らかにお店では変えない調味料がお弁当で使われていそうだったから作り方を教えてもらうタイミングで調味料についても聞いてみたかったんだけど、まぁ焦るようなことでもないし焦らず欲張らずちょっとずつ料理をしてスキルを上げていくことにしよう。
お店を出たタイミングで通知に気が付いたから、内容を確認するとスーサナさんからのメッセージだった。解体の練習をしているときに連絡が来ており、昨日依頼した装備が完成したけど一旦ログアウトするからまた連絡するとのことだった。
スーサナさんに返信をしてから魔術師ギルドへと足を進める。ニーナの話的に冒険者ギルドと同じく一日中開いているだろうし、どんな感じか見たいだけだからそれほど時間はかからないだろう。




