ウミと一緒に道具屋さん 2
「キミは頬が赤くなってるけど大丈夫かい?」
とんとん、と自分の頬を指さしてノエルさんはウミに尋ねる。
指で示す先は先ほど絡まれた人たちに殴られた部分だ。ポーションは渡したけど、ウミはまだ使用していない。
「さっきポーション納品しに行ったら絡まれてしまって、それを庇ってくれたら殴られちゃったんです」
「ふーん。そりゃ災難だったね」
「あ、いえ。大丈夫です。見た目ほど痛くないので」
「……」
「?」
「ちょっと失礼」
しばらく見ていたと思ったら、ノエルさんはカウンターに肘をついて片手を頬に当てたままウミに向かって人差し指を振った。
詠唱はなく、動作も指を小さく振っただけなのに、ウミの赤くなった頬は何事もなかったように綺麗な状態になった。
「!あ、あの、ありがとうございます」
回復魔法だったんだろう、ウミは小さく驚いてからお礼を言う。
ダスティンさんといいノエルさんといい普通に無詠唱で魔法を唱えている。正直かっこよくて自分も覚えたくなる。
「ん、……まぁ子供がケガしたままっていうのも気分よくないしね」
大したことしてないからそんなかしこまらなくていいよ。
礼なんていらないとヒラヒラと手を振りながら、なんてことないようにノエルさんはそう言う。
ウミは綺麗になった殴られたはずの場所を撫でながら、ケガが治っていることを確認している。ウインドウはこちらからは見えないけど、HPの確認をしている感じの動きもしていた。
「……で?アンタは何をメモしてるわけ?」
今度は私と手元のメモに視線をやって声をかけられる。私は写し終わったメモを見せながら、試しにお願いしてみることにした。
「あの、文字がまだ読めないので、できればそれぞれの単語の意味とかも聞きたいんですけどいいですか?」
「……ま、今は他の客もいないからいいか。ポーションも納品してくれたし」
ほら、二人ともこっち来なよ。
そう言って私とウミをカウンター側へと呼ぶ。
前に座った椅子に、もう一脚椅子を用意されてウミもそこに座る。
二人で書き写した用紙をのぞき込みながらノエルさんの話を聞く。
「これが水、流す、吸収する、風、それから……」
1つずつ指をさしながら説明してくれた内容を、該当する部分に下線を引いて日本語でメモを取っていく。
単語がライトのときよりも数も種類も多く、意味は説明されないけど繋ぎの部分も沢山ある。
「なんとなく構成は洗濯みたいだね」
「確かに。ウミはさっきクリーン使ったときってそんな感じだった?」
「うーん、いきなりだったからあれだけど、少なくとも風は感じたかな。水で濡れた感じはしなかった」
「なるほど。……ダスティンさんがクリーン使ったときは風とか水とかは感じずに一瞬で綺麗になったんですけど、これはその魔法と一緒のものですか?」
「ダスティンの?」
「誰?」
「冒険者ギルドで解体の説明してくれた人だよ。生活魔法とか簡易魔法石のこととかも教えてくれたのもその人」
会ったことがないだろうウミにダスティンさんのことを簡単に説明する。
「あぁ……基本的にクリーンっていうとコレだけど、アイツのは適当にこねくった部分もあるからちょっと構成が違うかもね。正式に魔法陣から勉強したものではないだろうし」
感覚的なもので取り扱ってる魔法も結構あるし、その上多分具体的な内容の説明も言語化するのヘタクソだからできないだろうしね。あんまり参考にはならないよ。
結構な言われようだ。でも確かにダスティンさん自身も自分でも説明はあまり得意じゃないと言っていた。
ノエルさんとダスティンさんは、最初のときに知り合いのような言い方だったし、仲がいいかは分からないけどそこそこの知り合いなのかもしれない。
「その、ダスティンさんとは親しい、んですか?」
なんとなく聞いていてそう思ったのかウミが尋ねる。その瞬間に鼻の頭にしわを寄せるような感じで少し嫌そうな顔をするノエルさん。
「そんなわけないでしょ。年も近いって理由でギルドとの付き合いでやり取りすることが多いってだけだよ」
アイツもここに買い出しとかもくるしね。
そう続けたノエルさんに、そうなんですか、と頷くウミ。私はといえば、ダスティンさんとノエルさんの年齢が近いって部分に驚いて相槌を打ちそびれた。ノエルさんもたいがい童顔だな。可愛い感じの顔をしていて小柄だからっていうのもあるけど。
「あの、僕もこれの単語を教えて貰ってもいいですか?」
そろ、とウミが取り出したのは先ほどの小さな紙。
「?なに、……あぁ、これ、魔術師ギルドの魔法紙?こんなマイナーなの売ってたっけ?」
「あ、これは僕が書き写したものなんですけど」
「?自分で書いたのに意味が分かってないってこと?」
「発動したらどうなるかと、なんとなくの意味は勿論分かってるんですけど、本に書いてあったのを書き写しただけなので単語の意味が具体的にどれが何をさすかまでは分かってないんです」
「ふーん。そりゃ、またギルドの偉方連中が聞いたら怒りそうな順序だね」
本を見て、ということはこの街に本屋も図書館もないけどどこかでそういうのを見る機会があるってことか。
特殊紙とインクといい、魔術師ギルド関係だろうか。
言葉も読めるようになりたいからその辺も気になる。
怒りそう、と言いつつも、ノエルさんはウミが出した魔法紙についても簡単に説明してくれた。
風がメインになっていて、拡声器みたいな使い方ができるような単語の組み合わせだった。先ほどのクリーンと比べるとかなり簡易な作りになっている。
「これって、単語はそのままに順番を変えたりすると効果が出なかったりするんですか?」
「あぁ、気になるなら試してみればいいよ。教えてもらうばかりじゃつまらないだろう?それに僕は専門じゃないし、魔術師ギルドでもその部分だけ説明するなんてことはないだろうし」
「一応試しで何パターンか書いてみたときは不発だったり、音が外じゃなくて自分に向かってきて鼓膜が一時的にダメになってダメージ受けたりしたかな」
「!」
「キミもたいがい変な旅人だね……」
「……?他にもそういう人がいたんですか?」
「……」
「……」
カウンターに肘をつけたまま、にっこりと目だけで笑われる。ウミにも苦笑気味に乾いた笑いを返された。
もしかして私のことだったりする?どの辺が変だと言われてるのかは分からないまま、話はそこで終了した。
「それじゃあ二人とも魔法石買えるだけのお金ができたらまたおいで」
「はい」
「ありがとうございました」
そのあとは私が頼んでいた残りの魔法石の話になり、ウミも便利そうだからという理由でクリーンの魔法石を依頼していた。
私はというと、魔法石を買ってもまだ余裕があったから、いくつか駄目になってしまったロープを最初に買った種類でそれぞれ追加購入をし、調味料も追加で買った。
そうして買い物を済ませてから二人とも軽く挨拶をしてから道具屋を離れた。
「それじゃあ最初の予定通り僕は一旦ログアウトするね」
「うん、さっきはホントにありがとう」
「ホントにもう気にしなくて大丈夫だよ」
「色々話したいこととか聞きたいこととかあるし、ニーナ達と一緒に行動する以外でもまた今度時間があるときにでもお願いしたいかな」
「そうだね。僕も興味があること他にもあるし、また今度」
ギルドで解体を教えて貰ったりもしたいけど、時間的にも内容的にも一回ログアウトしてゆっくりしたかったから私もウミと同じく広場まで戻ってからログアウト処理をした。




