思わぬ介入者
突然かけられた声に、私も目の前の三人も声のした方を向いた。
そこに立っていたのは、少し前に解散したはずのウミだった。
ウミはこちらを見て目だけで笑ってから男たちの方を向き、かばうように私の斜め前に立った。
身長は同じぐらいだし、顔だって中学生ぐらいで幼い。
それでも先ほどの笑みはひどく大人びていて、やっぱり中身は私と同じで大人なんだと感じた。
それはそれとして視覚的に子供にかばわれていることになんとなく決まりの悪い感じもする。
「んだよまたガキか」
「ボク―、いいカッコしたいのは分かるけどさぁ?俺たちお前なんてお呼びじゃないんだわ。分かる?」
男たちはとりあえず相手を変えたのか、私ではなくウミに話かける。
「?えぇ、分かってますよ。貴方達が僕に用がないように、僕もこの子もあなた方に用なんてないんだって」
「あ?なん」
「複数人で女の子囲んで、その上カツアゲみたいな真似して恥ずかしくないんですか?」
「ちょ、」
「周囲にいる人たちからどんな風に思われてるのか分かりませんか?こんな道の真ん中でこんなことして。迷惑かけて困らせたらダメですよ」
男たちの反論も、私の止めようとする声も遮ってその後も言葉を続ける。音量はそれほど大きくなかったから周囲にまでは聞こえていないだろうけど、私たちにはしっかり聞こえるような大きさでウミは話す。
大人しそうだし敬語だし物腰やわらかいから温厚な人だと思っていたから後ろから聞いていてすごく驚いた。しかも斜め後ろから見てる感じ、めちゃくちゃ純粋かつ不思議そうにしている気がする。
流れるように発せられたその言葉達に、男たちは一瞬つまったようになり、ぽかんとした顔で言われた内容を反芻したのか、数秒後にカッとしたように顔を赤くした。
これ、完全に怒らせたやつでは。
わぁわぁとがなるようにして彼らから発せられるそれは、うまく聞き取りづらい部分もあり分かりにくいけど、とりあえず怒っていることだけは分かる。三人のうち一人が特に怒っている。
火に油を注ぐウミの行動に、腕あたりの服をつまんで軽く引っ張ったけどこちらを見ない。
怒りに任せて一人が武器を取り出したのを見て、ギョッとする。
私はPK禁止にしているけど、ウミはどうなんだろう。
これだけ言うってことは、大丈夫だろうけどハラハラしてしまう。振り下ろされたソレは、ウミに届くことはなく何かにぶつかったみたいにはじかれた。
「っくそ!当たんねぇ!」
「PK禁止にしてんのか?ふざけんな!」
「ボコボコにしてやっから設定変えろよ!」
そんなことを言いながら無駄だと分かっただろうに何度も振り下ろす。
他の二人は、さすがに周囲からの目が厳しくなったことに気が付いたのか、止めようと声をかけ始めた。しかし完全にカッとしているため止まらない。
これだけ大騒ぎしてたら街の警備の人が来るかもしれない。
周囲をぐるっと見ていたらウミが腰につけたポーチから何かを取り出したのが見えた。
「?」
取り出したものは右手に握られていて小さくてよくは見えない。
右手を握ったまま親指と人差し指で輪を作り、口元へ。
「ウミ?」
「……」
ちら、とこちらに目をやってから、正面を向く。口元へ持っていった指をくわえ息を大きく息を吸い込んでから。
ピイィイイイ!!
思い切り吹いた。
指笛とは思えないような音量で、大きな音があたりへと響く。普通に吹いただけではならないであろう音量のそれは、周囲の人たちを驚かせるものだった。
男たちも急な大きな音に驚いたように動きを止めた。
そのまま思い切り息の続くまま吹ききり、指を離して息を吸った。
「な、なんだよそんなもんで驚くとでも思ってんのか?」
音がやみ、ハッとしたように再び口を開く男。
ウミがにっこりと笑う。
「いいんですか?」
「は?」
「来ますよ。衛兵」
そう言って人差し指で声のする方を指さす。
そちらを向くと、なんの音だ、何かあったのか、誰だ騒いでいるのは、というような声と共に複数名が走ってくる音が聞こえてくる。
「てっめぇ!」
先ほどの音で衛兵が来たのだと分かった男が、武器をしまい拳を振り上げる。
ウミも私と一緒でフレンド以外の接触は不可になっているからその拳は当たらない。
大丈夫だ。そう思っていたのに、振り下ろされた拳はそのままウミの頬へとあたり勢いよくウミが倒れた。
「!?」
「っ」
思い切り殴られたウミはそのまま地面へと倒れこみ、そのまま殴られたところを押さえて起き上がらない。
すぐに駆け寄って大丈夫か声をかけるけど、ウミはうつむいたまま顔をあげない。
そうこうしているうちに衛兵が駆けてくるのが目視できるところまできた。男たちはそれを見て、慌てたように走ってその場から逃げていった。
「大丈夫かい!?」
「すごい音がしたけど何かあったのか?」
「この子が知らない男達に絡まれていて、声をかけたんですけど……」
ウミは頬を押さえながら立ち上がりそう答え、そこでそのまま続きを言うのをやめて小さくうつむく。
「殴られたのか?くそ、さっき走っていった奴らか」
そう言って衛兵の一人はそのまま走って後を追いかけていった。
「そいつらは私たちから話をするから君たちはどこか座れるところにでも移動するといい」
「待機所があるけどそっちに移動するかい?」
おじさん達は心配するようにウミの背中に手を添えて声をかける。
「いえ、僕たちこのあと行くところがあるので、大丈夫です。ありがとうございます」
ふにゃ、としたように笑ってお礼をいう。その間も頬には手を当てたままだ。
「お嬢ちゃんも怖かっただろう、二人だけで大丈夫かい?」
「え、あ、あの、ありがとうございます。私は手は出されていないので……」
「待機所はあちらにあるからもし今度何かあったら駆けこんでくるといい」
「それじゃあ私たちはさっきの奴らに話を聞きに行ってくるから」
そう言って残りの二人も先ほどの衛兵が向かった方へ走っていった。
離れる前に、ぽん、と頭をなでてから待機所の方を指さして教えてくれた。
周囲からの視線を感じる。
ウミに聞きたいことが色々とあるけどここでは話しにくい。
「この後はどこに行く予定だった?」
「あ、道具屋に行こうと」
「そうか。じゃあ行こう」
どうしようかと思っていたら、ウミに手をとられ、そのまま緩く引っ張られるように歩き始めることになった。
引っ張られるような態勢から、少し小走りで横に並ぶ。
ウミに話しかけようとしたら微笑んでから「あとでね」と口パクで言われた。
とりあえず、赤くなっている頬が痛そうで、ポーションを1つ取り出して使うように伝える。別にそれほど問題ないんだけどなぁ、なんて言いながらも受け取って貰えた。
そうして二人で道具屋へと向かった。




