厄介な人たち
「すみません、気づきませんでした。何かありましたか?」
「なぁ、今ポーション納品してただろ?」
「依頼うけて安い報酬受けるぐらい余裕あんなら俺らに分けてくれよ」
「?」
並んだ三人の左右の人がそれぞれ言う。
目の前にいる人たちは全くの初対面だ。挨拶も自己紹介もとくになく、誰かも分からない状態での切り出しだった。
「あの、他にも納品するところがあるので、すみません」
「えー?そんなこと言わずにさぁ。納品できるってことはいくらだって自分で作れるんでしょ?」
「そうそう。薬草なんか南門側行ったらいくらでもあるんだからまた作ればいいじゃん?」
ちょっとよく分からないことを言われている気がする。
作るのに必要な薬草があるから作って欲しいとかならまだ分かるけど、フレンドでも、ましてや知人ですらないのに急にお願いされるような内容だろうか。
「あの、ちゃんと売ってるところで買われた方がいいと思います」
「はぁ?今店なんて正規の値段で売ってないからこうしてお願いしてるんだろ?」
「お願いって言われても……困ります」
先ほどより近づかれて身長差もある3人に囲まれるように立たれる。
距離が近くなったから余計に圧迫感を受ける。声色も怒鳴るようなものに近くなって、思わず小さく後退りしてしまう。
「あれ?うそ、なんか怖がっちゃってる感じ?」
「えぇ、心外だなぁ。別に怖いことなんてしてないじゃん?」
「そうそう、別に素直に渡してくれたらなぁんにも痛いことなんてしないからさぁ」
言外に断ったら痛いことするって言われてしまった。
ニーナがタダで渡してるところを見られたら自分たちにも寄越せっていう人が現れるって言ってたけど、普通のやりとりしてるだけでもクレクレ強盗現れたんだけど。
「……分けて欲しいってことは買取したいってことではないですよね」
「えー?やっすい金で納品できるぐらいの余裕あんならちょーっと俺らに分けてくれるぐらい別に平気だろ?」
「困ってるお兄さん達を助けてくれたっていいだろ」
困ってるのはこっちなんだけどなぁ。
ちらっと周りを見たけど、様子を窺ってる感じはするけど、周りにいる人たちは少し離れたところから動かない。
触られたわけじゃないからハラスメントブロックの通知も入らない。
「まだ他にも使うので、渡すような余裕はないです」
「あ?わかんねぇガキだな」
「っ」
一気に低くなった声色に、ビクリとしてしまう。
勢いよく首もとに手を伸ばされる。触れられなくても多少なりとも衝撃は受けるかもしれないから、思わず両目を瞑り身体を竦めた。
「っ……?」
何もない。
「ちっ」
「んだよ」
フレンド以外には触られない。プレイヤーキルもされない。そういう設定にしておいて助かった。殴られも首を掴まれもしていない。
は、と小さく息をする。
バチン、と勢いよく伸ばした手が阻まれて苛立ったような声を出される。
「子供が生意気にこんなところで遊んでんなよな」
「大人には従っておいた方がいいって知らねぇの?」
「あーあー、保護者の顔が見たいもんだねぇ」
次々にまくしたてられる。
子供?と一瞬思ったけど、そういえば見た目は幼くなってるんだった。
だからこうして絡まれているんだろうか。中身が大人だというような場面でもないし、それどころじゃない。
無視して避けて行こうにも、追いかけてきそうだった。
とりあえずハラスメントブロックの確認には「はい」を押しておく。
「あっコイツ今通報したんじゃね?」
「はぁ!?ざけんなよ」
指で操作したせいで内容を察したのか余計に声量が上がった。
体格差はあれど見た目はまだ大学生ぐらいの見た目だからマシとはいえ、やっぱり男性の怒声は好きじゃないし聞きたくない。
子供だから。見た目が幼いから。脅したらいうことを聞きそうだから。人数が多いから。
色々考えられるけど、そんな理由で絡まれている。
そもそも無料でクレクレ言うのって恥ずかしくないんだろうか。
他の人達もいる中でそんなことを堂々と言えるのは一人ではないからだろうか。
それとも、ここで分けてもらえたら他の人も同じように動くと思っているからだろうか。
対応が面倒だから渡したら引き下がるんだろうか。
でもこういう人たちって一回そういうことが通るって分かったら繰り返すんじゃないのかな。迷惑電話に折り返したらカモだと思われて通知がめちゃくちゃ来るとかそういうのと同じなんじゃないだろうか。
これがギルド内だったら職員の人が揉め事に気づいたら仲裁とかしてくれたかもしれないけど、残念ながら多少距離が離れてしまっている。
衛兵さんもいるけど、門以外ではどこにいるんだろうか。
見た目は小さいんだし、大の大人に囲まれてるんだから大きい声で困ってる感じを出したらなんとかなるだろうか。
そんなことを考えているときだった。
「お兄さん達格好悪いからもうそろそろやめた方がいいんじゃないですか?」
そんな声が聞こえたのは。




