巨大蜘蛛との戦闘 その後
とりあえずは受けたダメージを回復すべく、皆にそれぞれポーションを渡す。依頼に必要な数にも手をつけたけど、この後にポーションをケチって死んだりしたら目も当てられないからとくに問題ない。不足した分は南門側で薬草を採取して作ればいいしね。
皆タダだと気にするということで受け取ってもらえなかったから、とりあえずニーナに売った時と同様の店で買うときの金額で取引した。
本当は戦っているときに沢山かばってもらったし、ほとんど三人で倒したみたいなものだからお金はいらないぐらいに思っていた。戦闘中に使用した分のポーションまで支払いしようとするから、それは断固拒否した。
皆でドロップ品をそれぞれ確認すると、先ほどの巨大蜘蛛はランドロードスパイダーという名前らしく、それぞれランドロードスパイダーの糸、昆虫の顎(大)、ランドロードスパイダーの目、中ぐらいのサイズの魔石、といううちわけになっていた。
森に出る通常の蜘蛛はフォレストスパイダーというので、そこの蜘蛛糸とは別物扱いのようだった。フォレストスパイダーの蜘蛛糸よりも丈夫でしなりがいい、という説明が鑑定で出ていた。
私は魔石中だったけど、ニーナにはレアドロップだったのかランドロードの鞭を入手していた。しなりがよく、攻撃時に一定の確率で相手の動きをスタンさせる効果がある鞭だった。
ニーナが一回試しに使ってみたときは、しなりがよすぎて近くにいた私の身体に二発、イッチの顔面に思い切りバシンと一発当たってかなりのダメージを受けることになった。ちなみに的にしていた蜘蛛にはウミさんがとどめをさした。
イッチは顔を押さえてしゃがみこみ、私は打たれた場所を押さえて呻く。
ボス戦でレベルが上がってステータスポイントを振ったり、ボス戦時にはぎとられた狼のマントを着ていなかったら私に関しては下手したら死んでいたかもしれない。一気にHPを200ほど持っていかれた。紙装甲とはいえ、一発で100も、しかもある程度離れていたにも関わらず攻撃がとんできたので、使いこなせたら強い武器かもしれない。
ちなみに私とイッチ以外には近くの木の枝にも当たって、枝は当たった衝撃でそこそこの太さがあったにも関わらず折れた。
ニーナは私たちに攻撃が当たった瞬間鞭を放り出して、慌てたようにごめーん!!と大きい声で謝りながら駆け寄ってきた。私の鞭が当たった部分を撫でながらごめんと謝りつつ鞭は売ることを決めた。
「強かろうと珍しかろうと、私ではこれは無理だし鈍器系の方が好きだから鞭は売るよ……」
欲しい人いたらあげるけどいる?と続けられた言葉に、私たち三人は静かに首を振った。
今回はまわりの人に当たったけど、下手したら使ってる自分にも当たる可能性あるでしょ、その武器。扱いが難しすぎる。あと私は多分確実にそれは使えないし当てられない。
ドロップ品やステータスなどの確認をした後は、ボスが出てきた条件について話をしたけど、今の時点で考えられるのは蜘蛛の撃破数や、蜘蛛の巣の破壊数ではという意見は出たけどこの辺は掲示板にあげて検証したい人たちに任せることになった。
そういう話を一通りした後は、先ほどのスキルの説明をすることになった。
説明、と言っても、取得可能なところに現れたから面白そうだと取っただけなんだけど。
気配察知と同じタイミングで新しく取ったのは投げ縄というスキルだった。
・ロープないしそれに準じる物がスキルの使用時に必要。
・使うと一定時間動きを止めることができる。
・離れたところから発動可能。
・弱っていれば捕縛スキル同様、生け捕り可能。
スキルの説明としてはこんな感じだった。おそらく捕縛と投擲のレベルが上がったことで取得が可能になったんじゃないかという予測も一緒に伝えた。
興味本位で取得したけど、ボスに対してできることが少なすぎてぶっつけ本番で試してみたことも話したら、無茶をしたことに怒られるかと思ったけどそういう反応は返ってこなかった。
ついでに必要があるなら掲示板にのせることも別に問題ないということも伝える。
「生け捕りといい解体といい、そのうえ投げ縄かぁ」
「いろんなことしたらもっと面白いスキルとか出てきそうでワクワクするね」
「それな」
「しかも結構取りやすい上に人によってはそこそこ有用なんだよね」
「ロープっていう初期費用はかかるけど、結構よさそうだよな」
「どれくらい拘束できるかとか、発動可能な距離とかにもよるけどもっと沢山調べたいところだね」
スキルの説明をしていたらニーナとイッチは二人で話しこんでしまった。
なんとなく私とウミさんとはお互いに顔を見合わせてから、二人が落ち着くまで話して待つことにした。
「そういえばウミさん」
「なんでしょう?」
「さっきは危ないところを助けてくださってありがとうございます」
「?」
「ほら、あの、倒れこんだところに攻撃されそうになった……」
「あぁ、全然です。ボクだって沢山皆に助けて貰いましたし。パーティーってそういう風に助け合ったり補うものなんでしょう?」
そう言ってにこっと笑うウミさん。
「それでもありがとうございました」
「はい、こちらこそ。ありがとうございます」
「……」
「……」
「……」
「……」
「「あの」」
間に困って切り出すと、ウミさんと声が被る。
お互いに譲り合ったあと、ウミさんが先に話し出す。
「ウミ、で大丈夫ですよ。呼び方」
「え」
「ニーナやイッチは呼び捨てなのに僕だけさん付けなのもなんですし、呼び捨てで大丈夫です」
「……ウミさん、いや、ウミだって私のことさん付けじゃないですか。私も呼び捨てで呼んでください」
「う、……分かった。チョッキ、改めてよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
その後ちょこちょこ話していたら、仕事じゃないんだし敬語もいらないよね、という話になったので、お互いにできる範囲でフランクに話すことになった。
そのあたりで、話題が掲示板へ移っていた二人が戻ってきた。
どうやらとりあえず満足したらしい。
本当なら森のもっと奥まで行くつもりだったらしいけど、イレギュラーなボスとの遭遇にポーションの数も心もとなくなったため、始まりの街に戻ることになった。
最初にニーナが紹介してくれると言っていた防具を作れる人は、イッチとの共通の知り合いらしく先ほど連絡をしたらたまたま始まりの街にいるらしく、街に戻ったらその人のところに合流するらしい。
ポーションのやりとりで多少所持金が増えたとはいえ、お金が足りるかの心配をしたら多分チョッキなら問題ないと思うよ、とはニーナの談。イッチはそれにうんうん、と頷いていた。
なにが問題ないのかは分からないけど、結構素材は沢山あるから売ったら何とかなるかもしれない。今なら各動物の皮も沢山あるから素材持ち込みで何がしかは作って貰えそうだ。
そうして私たちは始まりの街へと歩きだした。




