巨大蜘蛛との戦闘2
振りかぶって投げたソレは、狙ったのは頭だったけど少し狙いがずれて胴部分に当たった。
ニーナは一撃くらわせた後にすぐ一定距離は離れていたようで、ニーナが巻き込まれることはなかった。イッチとウミさん二人も脚の分距離が離れていたので、問題はない。
私が投げたのは、合流する前に作成した毒ポーションだった。イノシシにしか使っておらずどれくらいの効果があるかも分からない。
投げたそれが当たって割れたと共に、蜘蛛がひるんだような声をあげる。一本でどれだけ意味があるかも分からないから、そのまま二本目、三本目も投げて今度は頭にぶつける。そうすると、目にも液体がかかったのか、払うかのように脚を顔に向けた。
イッチの盾についた蜘蛛の巣はあらかた燃やせたのか二人は動こうとしている。
苦しむような声をあげながら巨大蜘蛛はこちらに向き直って鋭い視線をこちらへ向けた。怖い。でもそんなこと言ってられない。
腰につけておいたロープを手に持って構える。
「チョッキ、まだ生け捕りなんて使えるHPじゃ」
「分かってる!!」
途中でとった新たなスキルを発動しつつ、手に持っていたロープを投げた。
「なっげ、なわー!!」
その声とともに投げたロープは蜘蛛に向けて飛んでいき、ぐるぐると顔に巻きつくように動いた。
「え、なに」
「投げ縄?」
「!?」
しかし、すぐに蜘蛛は脚を使ってロープを引きちぎってしまう。
スキルをとったばかりでレベルも最低だからだろうか。それともボスだからだろうか。身体が大きいからだろうか。はたまた長さが不足していたんだろうか。分からない。
でも、魔法も他のスキルも自分の意志である程度操ることができるなら、これだってできたっていいでしょう!
もう一回ロープを投げ縄スキルを使って投げる。今度は、脚だけを縛るようにイメージして胴から少しずらして脚をめがけて、だ。
残り七本になっていた脚のうち片側四本がぐるぐるとロープが巻かれてまとめられる。
その拍子に蜘蛛はバランスを崩して縛られた側の脚の方へと傾いて地面に倒れこんだ。
「!」
「ニーナ行くぞ!」
「オッケー!これでやらなきゃ女が廃るって話でしょ!」
「ウミ!」
「分かってます!」
ニーナが倒れこんだ蜘蛛に攻撃を加える。蜘蛛が残った三本の脚を走ってきたニーナに向けるけど、その間にイッチが割り込んで盾でふさぐ。
ウミさんがファイアーショットを放ち蜘蛛にぶつけていく。魔法と魔法の合間にぐらついた蜘蛛にまたニーナがメイスを叩き込んでいく。
蜘蛛が今まで使っていなかった口を使って噛みつきをするような動きを見せたから、インベントリから大きいもの、ということで急いで掴んだものを口めがけて投げる。
防御力の関係で私がこれ以上近づくことはしないけど、それでも私にもできることがあるはずだ。投げたものは解体で獲得したイノシシの骨だった。綺麗に回転しながら飛んで行ったそれは、口には入らないものの、目に運よく当たった。
蜘蛛も脚を縛っていたロープが暴れるようにして動いた拍子に千切れてまた脚が自由になる。
「ロープが!」
「危ない!」
「大丈夫だ!これでっ!」
「終わりっだー!!」
イッチが盾で大きく蜘蛛の身体をはじき、はじいた先にはメイスを振りかぶったニーナの姿。
そのまま頭部分を地面に叩きつけるように上から振り下ろした。地面に叩きつけられる大きな音と共に、巨大蜘蛛の身体は消えた。
突然現れた巨大蜘蛛は、そうしてようやく倒れたのだった。
シュン、という音と共に、切り離されていた空間が元のように森の中へと戻っていた。
「や、った?」
「終わった、んですか?」
「っしゃー!」
「やっと倒せたー!!」
私とウミさんのつぶやきをかき消すかのような大きな声があたりに響きわたり、イッチとニーナはそれぞれガッツポーズをとったり拳を上に向けて振り上げたりしていた。
死ぬかと、思った……。
私は力が向けてその場に座り込み、そのまま仰向けに倒れこんだ。
片手の甲で瞼を押さえるようにして目をとじた。
一人だけ初期装備で、一人だけうまいことダメージを与えられるような得意な攻撃もなく、沢山かばわれて、守ってもらって、迷惑ばかりかけたと自覚がある。
これで全滅でもしてたら申し訳なさ過ぎて一緒にパーティーなんてもう組めなかったかもしれない。
はあぁぁ。
安堵やらなんやらで大きく息を吐く。
顔だけ横を向けて皆の方を見ると、ウミさんも安心したのか座りこんでいて、ニーナとイッチはウミさんの方へ飛びついていた。
あんなに大変だったのにめちゃくちゃ元気だなぁ。
ウミさんはその小さな体躯では二人なんて支えきれずに後ろに倒れこんでいた。その光景を見て、ふ、と笑みがこぼれる。
全員無事だ。よかった。
再び目をとじる。
そうしていたら、ウミさん達の方から聞こえていた声がやんで、トタタという音と共に、顔の横に何かがどん、と置かれた。
目を開けると、そこにはニーナのどアップ。ニーナの両手は私の顔の両側に置かれており、いわゆる壁ドンならぬ床ドンだった。
「近いよ」
「……チョッキ!」
「なに」
「チョッキチョッキー!」
名前を何度も呼ばれながら抱きついて頭を肩にこすりつけられる。
なーにー、と言いつつ、なだめるようにニーナの背中をポンポン、とたたく。ニーナ越しにイッチやウミさんもこちらへ移動してのぞき込んでいるのが見えた。
ニーナの力が弱まったから、よいしょ、と身体をおこした。
「さて、今からやることは分かるよね?」
「ドロップの確認?」
「それもあるな」
「チョッキ。さっきのこと、詳しく聞かせてもらおうか!」
肩を掴まれてずい、と顔を近づけられた。
イッチやニーナは嬉しそうな満面の笑顔で、ウミさんは苦笑しながら。私も嬉しくて口元が緩んでしまう。
そんなことしなくても逃げないしちゃんと分かる範囲で答えるよ。
なにはともあれ、私たちは全員生きて、巨大蜘蛛に勝ったのだ。




