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始まりの街。ウサギ肉と共に

 目を開けると、目の前には噴水と木でできたベンチ、広場のような場所に、様々な髪色、武器を持ったPL達だった。ざわざわとした声が聞こえる。初めにログインした人は皆ここから始まるのだろう。

 空を見ると綺麗な青空が広がっている。上に余計なものがないから広く感じる。足元は舗装されておらず土の感触がする。

 なんの匂いだろうか、お腹が減るような匂いもしている気がする。

 目の前の噴水の水は本物みたいに見える。自分がやったことのあるゲームは、水のエフェクトが入るとカクついたり重くなったりしてたから、現在のゲームが全部こんな感じなのかノイリオンがすごいのかは分からないけど、少しだけ水の独特の匂いやはねた水の感じとかもリアルで本当にすごい。


 ドン、と右肩の後ろから衝撃がきた。少しよろけたが、倒れたりせず踏みとどまった。

「こんなところで突っ立ってると危ないぞ」

「あ、ごめんなさい」


 軽く頭を下げながらとりあえずあいているベンチに座った。先ほどまで立っていたところを見ると、同じようにこの世界に降り立った人たちが次々に姿を現わしている。頬を赤らめキョロキョロと見渡す人、知り合いと待ち合わせをしているのか手を振りながら走り出す人、広場のあいているところで数名で打ち合わせのようなことをしている人などその様子は様々だ。


 動きとかも試してみたいけど、とりあえず座ってしまったことだし基本操作の確認をする。ウインドウ、という前に思っただけでシステムウインドウが出てきた。

 項目ごとに分かれているので、それぞれ確認していく。

 ウインドウを開いた時点で、自分のレベルと所持金、此処での時間だと思われるものと、現実世界での日時が表示されている。リリースがお昼12時からで、現在が13時前なので、ゲーム内ですでに3時間ほどが経っているようだった。所持金は5,000ノードとなっているので、此処での通貨単位はノードなんだろう。

 ステータスは先ほど設定したものになっていたし、スキルも同様。それぞれスキルの横にLv.1と書かれている。HPとMPはそれぞれ30だった。

 今着ているのは淡いクリーム色のシャツとズボン、なんの変哲もないスリッポンのような靴だ。装備のところを見ると名称は旅人の上着、旅人のズボン、旅人の靴となっている。とくに補正値はないけど、耐久は∞になっており壊れないものになっていた。武器は空欄になっていた。

 インベントリの欄を見ると、初めての旅セット、旅人のナイフ、初心者用ポーション10個となっておりナイフは装備と同じく耐久は∞、+5と名前の横に書かれている。とりあえず選択して装備をしておく。装備をすると、腰のところにナイフが横向きに収納できるベルトがついた。ナイフ入れは初回サービスなのか最初からセットなのかは分からないけど、すぐに取り出しできるようになるのはありがたい。ステータスに戻って確認すると、ナイフを装備したことによってSTRの横に(+5)と表記されていた。括弧書きは装備品による上昇なんだろう。

 初めての旅セットの中には、火打石、水袋、簡易食料15個、小型ナイフ(採取用)が入っていた。旅セットというくくりで頭陀袋にひとまとめに入っていてアイテム欄では枠を一つ使う形になっていた。

 取り出して、一つずつ確認していくついでに、鑑定をしていく。こちらも声に出さなくても意識したら説明が見れたので、スキル名は必ずしも言う必要はないんだろう。


 火打石:なんの変哲もない火打石。火を起こす時に使用する。回数に制限はない。うまくつけられない人もいる。

 水袋:水を入れることができる。現在は何も入っていない。中の水の劣化はしない。

 簡易食料:お腹を少しだけ満たすことができる。味にはこだわらず、手早く食べることだけを目的としている。満腹度を30回復。

 小型ナイフ(採取用):採取用の小さなナイフ。通常の使い方であれば壊れることはないが、攻撃には適していないため、本来の使い方以外で使用すると壊れる。

 初心者用ポーション:初心者の間はこれで十分。HPを20回復。


 大体こんな感じだった。試しに袋に入れずに一つずつインベントリに入れてみると、それぞれ一つで枠を一つ使うようだった。手間だけど袋に入れてしまった方が枠の節約になりそうだった。便利だから同じような袋が他にもあるといいかもな。

 それぞれ空中で指を動かしても操作できるけど、頭で考えるだけでも動かしたり選択したりできる。ただ指があった方が意識がしやすい感じはあるので、慣れの問題もあると思う。


 インベントリの下にはマップがあった。開くと、噴水周辺だけ見えるようになっている。これはもしかして自分が通るとマッピングされるタイプのマップでは?あとから歩きまわってみよう。マップがないと方向音痴の気があるため結構困るかもしれない。

 一番下にはシステムの項目があり、公式からのお知らせやログ、フレンド、メモ機能、スクリーンショット、設定、ログアウトもここからのようだった。

 それぞれの項目も確認し終わったし、今度は動きの確認がてらぶらぶらしよう。座ってる状態で腕とかを動かしたけど、現実で動かしてるのと同じ感じで動かせた。ベンチから立ち上がって周りを見ながら歩き出すと、広場から通りに入る道が見える。広場際にある大きな建物には、人だかりができており看板の文字は独特の形をしており読めないが近くにいる人たちの会話から聞こえてきた内容的に冒険者ギルドのようだ。とりあえず人が並んでるから、そのまま素通りする。通りには入らずに歩いていくと、地面に布を引いての露天が並んでいる。

 ポーションや武器、防具なども置いてある。プレイヤーだろうか。まだゲーム内で3時間とかしか経ってないのに早くない?それともNPC、ここの住人だろうか。

 そんなことを思いながら進んでいくと、お肉を焼くようないい匂いがした。地面にそのまま開いている露店とは違い、縁日に出すような露店でお肉を焼いているようだ。相変わらず看板は何が書いてあるのか読めない。


「こんにちは。ここはなんのお肉を売ってるんですか?」

「よぉ!坊主もこの街は初めてか?今日は本当に多いな」

「そうなんです。初めてきたので場所の把握がてら散歩をしてるんです。いい匂いがしたので声をかけてしまいました」


 恰幅の良い朗らかなおじさんに坊主と言われたことに「?」と思いながらも話を続ける。私に話しかけているのは分かるし呼び方は別になんでもいい。


「おっ嬉しいね!ここではウサギの肉を使った串焼きを売ってるぜ。1本100ノードだ、買ってくかい?」


 先ほどステータスを見たときの満腹度は50だったからここで買っていくのもいいかな。いい匂いするし。ウサギ肉は初めて食べるけど。

 一本にごろっとした切り分けたお肉が四つほどついていて1本100ノード、ここでの基準は分からないけど、5,000ノードもあるし買っていってもいいだろう。


「じゃあ2本ください」

「あいよ、2本で200ノードだ。毎度!」

 串に刺さっているということは歩き食いを想定されているだろうしそのまま食べても大丈夫だろう。念のためおじさんに聞くけど。


「これってここで立ったまま食べても大丈夫ですか?」

「?変なこと聞くなぁ、何を気にしてるかは知らねぇが問題ないぞ。歩きながら食べるのは串が危ないからオススメしないけどな」

 今は他にお客がいないからその場で貰った串をそのままかじる。1本はインベントリにしまい、焼き目はカリっとしていてふられた塩がいい感じに肉のうまみを引き出している。熱い、けど美味しい。

「あち、あ、でも美味しっ」

 肉を一つ口に入れたせいではふはふと熱さを逃がしながら噛んでいく。

 匂いも味もすごいな、これが最新ゲームか。自分がやったことのあるゲームと比べての発達具合に感動を覚える。というか美味しいな、お肉。料理のスキルとっててよかったな。自分でも美味しいもの作れるようにあとからがんばろ。


 にこにこしながら串を食べていると、おじさんが嬉しそうにこっちを見ていた。

「坊主みたいに美味しそうに食べてもらえると作りがいがあるな」

「だって美味しいですもん。ウサギって初めて食べましたけど、そんなに固くないですし美味しいですね」

「そりゃそうさ。そうなるように調理してるからな。そのまま焼いただけじゃあその柔らかさにはなんねぇさ」

「なるほど……おじさんのプロの技ってやつですね」

「ふはっなんだそれ。ありがとな」


 おじさんが笑って私の頭を少し雑に撫でた。頭を撫でられるなんてこの年になってほとんどされることのないことだからぱちくりと目を大きくして驚いていたら悪い、嫌だったか?とおじさんに聞かれたから大丈夫と返した。

 驚いたけど嫌ではなかった。

 接触不可設定はPLに対してだからおじさんには適応されなかったんだろう。大人になってから褒められることなんてほとんどないし、頭をこどもみたいに撫でられることだってない。それにしても……


「なんかおじさんさっきから坊主坊主って私のこと子供だと思ってますか?あと男だと思ってます?」

「なに大人ぶってるんだ、その見た目で大人って言われても信じるやつなんかいないぞ。性別については……わるい、坊主じゃなくて嬢ちゃんだったんだな」

「え?」

 アバター作成のときは多少美化されているとはいえ普通に自分と同じぐらいの年に見えていたはずだ。そこはいじっていない。まぁおじさんからしたら子供みたいなものって意味かもしれないしな。

 違和感を感じつつも、とりあえずせっかくだしとおじさんと会話を続ける。

「このあとも色々見ようと思うんだけど、おじさんはオススメの場所とか行った方がいい場所とかありますか?」

「そうだなぁ、異邦人の旅人は街を出る前に冒険者ギルドなりなんなりでギルドに入ってギルドカードを作るといいかもな。それが身分証明書として使えるし。

 この街には門が二つあって、あっちが北門、反対側に南門だ。南側にはスライムとかウサギとか比較的初心者でも対応できるやつらがいるな。薬草とかも結構生えてるみたいだからそういうのに興味がある奴はそっちに採取に行ったりする。北側にはも少し強い狼とかが出る。

 北へずっと行くと別の街があるが、今はモンスターが出て危ないってんで馬車とかも通ってないな」

「なるほど……」

「この街にあるギルドは冒険者ギルド、魔術師ギルド、生産者ギルドがある。方向はあっちだな。もう少し大きい街に行くともっと色々なギルドがあったりするが、ここにはギルドはその三つだけだ」


 指を指しながらどんどん教えてくれる。

 ちょ、ちょっと待った、そのスピードで教えてくれるならメモしたいメモしたい。でもおじさんの前でシステム的なメモをしていいか分からないからそのまま聞くしかない。えーと、ギルドは3つで大きい街に行くともっと細分化したギルドが存在する、と。

「店は色々あるが、宿屋の下の食事処は酒も料理もうまいぞ。あとは基本的なとこだと道具屋、武器防具の店、……あー、あとは他にもあるが説明がしづらいからまた今度な」

 よくあるお店の大体の位置を説明してくれた。

「にしてもおじさんは自分がこういうお店出してるのに、他の食事処宣伝しちゃってもいいの?」

「あっはっは、なに、全然問題ないな。あっちはその場で食べる用、うちは持ち帰ったり携帯食用だからな。それにうまいのは本当だ。それに狩った肉で使いきれない分はあっちの食事処におろしたりもしてるから、別に益がないわけじゃない」

「食事処のご飯は持って帰れないんですか?」

「出された食器ごと持ってったら泥棒だろ?そういうこった。うちは木材から簡単に作った串だし串込みの値段だから持っていってもいい」

「なるほど……そういう感じですか。たくさん教えてくれてありがとうございます。色々見てまわってみますね!あと美味しかったしまた買いにきます!」


 そう言って手を小さく振ってその場を離れる。そっとマップを確認すると、そこに至る道は載っていないものの店の配置だけは載るようになっていた。なるほど。こういう感じね。道は自分で歩いてマッピングしろってことかな。


 おじさんが説明してくれたところを順繰りに歩いて見ていく。紹介された以外にも、店があるけど看板は読めないし、外観から何が売られているか分からない上にドアがしまっていると開いているかどうかも分からないから入りづらい。

 場所の照らし合わせだけして、北と南、それぞれ門のところまで歩いていき再び噴水のある広場まで戻ってきた。色々見ながらだからぐるっと回っただけでも結構時間がかかった。でもそのおかげで一周している間にマップはある程度埋まったし、冒険者ギルドも最初のときよりも人が落ち着いているように見えた。

 実は歩いている最中、路地裏みたいな細い道もあったんだけど、居住区っぽい感じだったからとりあえず入らなかった。迷う可能性もあるし、とりあえずは先にやった方がいいことをしよう。


 そうして冒険者ギルドへと足を踏み入れた。


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― 新着の感想 ―
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