新たなメンツと顔合わせ
ニーナ、こと倉橋仁奈のお兄さんは倉橋壱也さんといって、私たちとは確か3歳差だったと思う。
仁奈の家に遊びに行ったときに何度か話したぐらいで、社会人になってからはほとんど会っていない。仁奈と同じように元気さと快活さを持ち人見知りしない感じの人だったのを覚えている。
仁奈経由で聞いた話だけど、私が貸したノートに書かれた名前を見て、一十木と一寸木と読み間違えた人はこの人だった。その話を聞いたときは、「ちょっき」で一寸木と書くことも初めて知ったし、逆によく間違えたなと印象深かったことを覚えている。
それが印象深くチョッキと名前をつけたけど、大分その名前で呼ばれるのに慣れたし案外響きが気に入っている。
「よ、昨日ぶりだなニーナと……えーと」
「こんにちは、ここではチョッキと呼んでください」
「あぁよろしくな!俺はイッチって呼んでくれ。そんでこっちはウミな」
「よろしくお願いします。ニーナさん、えーと、チョッキさん」
「よろしくー」
「よろしくお願いします」
ニーナのお兄さん、イッチはファイアーレッドの髪色の短髪に、ボルドーの瞳、ガタイはよく、私と比べると頭2つ分ぐらい高い身長だった。
紹介されたお兄さんの友達のウミさんは、シャンパン色のふわっとした髪にマホガニー色の瞳をしていた。その身長は私と同じぐらいで、顔立ちは年上とは思えないぐらい幼い。十代半ばと言われても違和感がないぐらいに見える。まぁそれは自分もそうなのかもしれないけど。
ニーナは青系統、イッチは赤系統の色合いになっている。私は緑系統だけど、これでウミさんが黄色系統だったら信号機みたいになってたな、とどうでもいいことを考えつつウミさんのことを見ていた。
「お兄から聞いてたんですけど、ウミさんがチョッキと同じでアバターが幼くなっちゃってるんですよね?」
そうしてウミさんを見ていたら、ニーナが切り出す。ウミさんもこちらをまじまじと見ていたから、話しかけられて、あ、というようにニーナの方を向いた。
「はい。大体中学生ぐらいのときの身長になってます」
「私は身長はそんなには変わらないんですが、顔が大体それくらいになってるみたいです」
「チョッキちゃんは公式には連絡したのか?」
「はい、リアル時間で夕方ぐらいに連絡しました。気づいたのがそのタイミングだったので」
「僕はゲームを開始してすぐに連絡しました。身長が違うことで気づくのも早かったので」
「やっぱりログアウトしたら支障ある感じですか?チョッキはそんなでもないみたいですけど」
「うーん、最初のログアウトの時は多少はね。今はまだマシになったけど」
「そうなんですか、大変ですね……。公式から返信とかはきましたか?」
「それが、ユーザーデータ作成時にシステム的なバグ等は見受けられないという返答でした。ただ、異常はないものの設定したものとは違う状態であることと、現実との差異が大きいことから特別にアバターの作り直しも可能ということも合わせて返答されました」
「なるほど……あ、私の方にも返答きてますね」
もしかしてまた気づいていない可能性もあるのか?と思ってウインドウを開いて確認すると、私のところにも公式からの返答が来ていた。
内容を確認すると、ウミさんへ来ていた返答と同様、バグなどは見受けられなかったという内容だった。こちらもアバターの作り直しが可能との返答だったけど、連絡をした時点でそのままでいいと思っていたので、回答に対するお礼と共に作り直しは必要ない旨を返答した。
「私は特にやりづらさもないのでこのままでいくつもりなんですが、ウミさんはアバターの作り直しはされるんですか?」
「あー……そうだね、大分違和感も減ったし、……このままでいこうかなと思ってるよ」
バグとかでもなかったみたいだしね。
そういってウミさんはふにゃっとした感じで笑った。少年ぐらいの頃合いの顔に、ふわっとした髪もあいまってかわいらしい感じがする。私も顔が子供みたいだからか街の人からちょっと子ども扱いされてるようなことがあるけど、これはなんとなく弟みたいな感じで可愛がられそうな感じがする。
ウミさんがイッチさんと並ぶと身長差もあってかなりのデコボコ具合だ。いや、私とニーナの組み合わせも人のこと言えないかもしれないけど。
「さて、じゃあ自己紹介の続きといくか!俺はイッチ。ここにいるメンバーがリアルでの知り合いだから言うが、ニーナのリアル兄だな。呼び捨てで大丈夫だ。今のところ盾を利用した戦い方をしている。パーティー組むときなんかだとタンクの役割をすることが多いな」
「あ、じゃあ次は私で!私はニーナ、呼び捨てで大丈夫です!私が使ってるのはコレ、見ての通り今はメイスを使ってます。武器が重めなので手数よりは、相手の攻撃を避けてからの一発の重さで攻める形でやってます」
二人は慣れているのか、すらすらと自己紹介をしていく。
なんとなくウミさんと見合って、次はどちらが、とお互いに様子を見てしまう。
「「あの」」
話だしが被った。再びお互いに様子見してしまう。
「なーに見合ってんだ。ちゃちゃっと順番に話せばいいんだって」
「あはは、見事に出だし被ったねぇ」
「えーと、じゃあ私から」
「はい、お願いします」
とは言ったものの、私はメインの武器がどうこうとかあんまりないし簡潔に説明するのって難しいんだよなぁ。
「私はチョッキです。バグではないらしいですが、結構顔が幼くなっているみたいです。戦い方は、ナイフを持っていますが基本的にあたらないので、水魔法と拳、投擲とかで対応しつつ、動けなくできたらナイフでとどめって感じの戦い方になってます。簡潔な説明でなくてすみません。多分見てもらった方が早いかと思います。調薬を持っているので、初級ポーションなら普通に材料があれば作れます。ニーナとしか一緒に戦ったことがないので、役割というほど分かってないところがあるかもしれません」
「なるほど?ナイフが当たらないってのは……」
イッチの問いには、見てもらったら分かるので何も言わないでくださいという気持ちをこめて、何も言わずににっこり笑っておいた。
通じたのか、「お、おう」と戸惑わせてしまった。申し訳ない。
「では最後に僕ですね。ウミといいます。僕もアバターが実際の姿よりも幼くなっています。接近戦は苦手だと感じたので魔法をメインで使っています。が、普段こういったゲームをあまりしないので、まだ不慣れな部分が沢山あります。ご迷惑をおかけするかもしれませんがよろしくお願いします」
「チョッキちゃんとウミはかったいなー!仕事じゃないんだからもっと気楽に話せばいいよ。俺らなんかリアルの知り合いなんだし余計にさ」
「そうそう!別にゲームに慣れてないことなんて分かってるから気にしなくていいって」
「ま、何はともあれせっかくだし一緒に戦ってみるか!よろしくな」
「よろしく!とりあえずウミもフレンド登録しよー」
「あ、はい。よろしくお願いします」
「チョッキちゃんも俺やウミとフレンド登録しよう。なにかあったら連絡してくれたらいいしな」
ニーナ達兄妹がからからと笑いながら、よろしくー、と言いつつ、サクサクとフレンド登録を進めていく。
ニーナ達って慣れもあるかもしれないけどすごいなと改めて感じる。コミュニケーション能力高いんだよなぁこの兄妹。私とウミさんはその勢いに流されるようにして、お互いにフレンド登録をしたのだった。




