ニーナへの連絡
こちらには聞こえなかったけど、ニーナにフレンドコールがなったらしい。
ちょっとごめん、と一言入れてからやり取りをし始めたけど、相手の声はこちらには聞こえない。
内容は聞こえてないとはいえ、なんとなく近くにいるのもなと思って、少し離れたところに移動する。手持無沙汰だからインベントリの確認でも、と思ったけど、こういうときにダスティンさんが言っていた魔力について試してみるといいのではと思いダスティンさんに手のひらを握られたときのことを思い出す。
なんとなく両手をグーパーしてにぎにぎと手を動かす。
魔法を使うときはウォーターショットだと焦ってるから意識していないし、クリエイトウォーターの場合は水を出す方向と量などをイメージしながら手をかざして行うぐらいで、魔力に関して意識したことはない。
どちらが練習で使えそうかというと、MPの消費量としてもクリエイトウォーターの方がいいような気がする。
なんとなくクリエイトウォーターを使うときのイメージが、水を造りだすというよりも水を出すというものだからか、今は使うと水がシャワーとか蛇口から水が出るみたいな感じで出てくる。でもクリエイト、というくらいなんだからイメージの問題だけで流水の形でなくても水が出せるのでは?
そう思ったので、魔力感知だとか魔力操作だとかの練習にもなるかもしれないついでにクリエイトウォーターのレパートリーを増やすことにした。
魔力を動かしたり魔力を感知するのって、MPを消費して数値が変わる時に起きていると考えるなら、見えていた方がいいだろうということでHPとMPの簡易ステータスが常に見えるように設定も変えておく。なんとなく視界にちらちら自分のHPとかが映ってるのが邪魔で、ニーナと行動し始めてからしばらくしてから消してしまった表示だった。
手を下に普通にクリエイトウォーターを発動させる。何も考えずに唱えると、手のひらからそこそこの量の水が出てくる。
今度は両手のひらを上にして普通に唱えると、勢いのない噴水のように上に向かって水が出た。今度は手のひらに水をためるようにイメージして使うと、勢いはつかずに水が必要な分だけたまった。
行儀は悪いけどせっかくだからそのまま出した水は飲んでおく。結構美味しいんだよなぁ、この水。
今度は人差し指を出して、手のひらからではなく指の先から出すようなイメージで水をだす。なんとなく握っている拳に力が入ってしまうけど、量を多くしたり勢いを強くするとMPの消費が少しだけ増える。とは言っても、出している時間が短いし、消費するMPも自然回復でなんとかなる程度だから支障はない。
今は自分の手から出しているけど、離れたところに水が生成できるかも試してみることにする。
どのあたりに水を出すかを見つつ、そこに水が出るようにイメージ。そしてクリエイトウォーターを唱えると、思っていた場所ではなく下におろしていた手から水が出てズボンが濡れた。
あちゃー、と思いつつ、ちら、とニーナの方を見ると盛り上がっていたはずだったけど急にズボンを濡らした私の方を驚いたように見ていた。
ごめん、気にしなくていいんだよ、続けてください。
そう思いつつなんでもない、と示すように手のひらを振っておいた。
ニーナの話してる様子から結構気安そうな感じだからゲーム友達か何かなのかもしれない。もしあれだったらこの辺のモンスターなら一人でももう大丈夫になったと思うし、必要があればここで解散でも問題ない。
そう思っていたらニーナが会話をやめたのかこちらに戻ってきた。
「ごめん!チョッキ」
「大丈夫大丈夫。今の人たちのところ行くなら解散でもいいけど大丈夫?」
「チョッキ……。あの、今のお兄だったんだけどさ」
「ニーナのお兄さん?」
「うん、会ったことあったよね?」
「うん、でもかなり前だよ?」
「昨日はお兄とβでの知り合いと一緒にパーティー組んだりしてたんだけど、今日はお兄もリアルの知り合いと一緒にやってるんだって」
「うん」
「それでその友達がチョッキと同じらしくてさ」
「同じ?」
「アバターが幼くなってるんだって」
「そうなの?」
「うん。だから、っていうわけでもないけど、良かったら話するついでに四人でパーティー組まないか、だって」
「ニーナのお兄さんとその友達……」
「うん」
「お兄さんの友達ってことはその人もゲームがすごく好きな人だったりする?」
そうだと迷惑かけるかもしれないから気おくれしちゃうかもなぁ。
「あ、大丈夫。その友達、私も会ったことないけど、チョッキと同じでお兄が誘っただけで普段はあんまりゲームとかもしない人なんだって」
そもそもお兄も誘っておいてチョッキに嫌なこと言ったら私がリアルでもゲームの中でもボコボコにするからね!
ふんす、と拳でファイティングポーズをとりつつ拳を出すジェスチャーをする仁奈がおかしくてありがとうとお礼を言って笑った。
「じゃあとりあえずは会ってみようかな」
「良かった。じゃあお兄達がこっちに合流するみたいだから、私たちはこの周辺で狩りしたりゲットした素材分けたり他のことしたりしようよ」
「とくに目印とかないけど場所分かるの?」
「一応ね。森の近くだし、ここも一回来てマップには載ってるから、フレンド同士での位置情報共有で場所送ったから大丈夫だと思うよ。近くに来たらまたコールするって」
「そうなんだ。了解ー」
フレンドに位置情報送るって、そういう便利な機能もあるのか。ただどんな感じか見せてもらったけど、街の中じゃないから広いマップにちょこんと点が入った状態で送られるだけで、自分に送られてきても活用できなさそうだなというのが感想だった。街の中だったら別だけど。
ニーナのお兄さん達と合流するまで時間があるから、とりあえず解体で獲得した素材を二人で分けていく。ニーナの言い分でスキルを使っているのが私だから気持ち多めに私が貰うことになったけど、基本はざっくり半分にしてお互いに欲しい素材に関してはそれぞれ多めに分けていった。
開門前に作った回復量の少ないポーションは使い切ったので、新たに採取した薬草で初級ポーションを調合することにした。ニーナはその間は近くによってきた敵と戦って対応してくれていた。
初級ポーションを作るときに気づいたことだけど、初級ポーションのレシピの表記が若干変わっていた。
材料が薬草二つに純水、小瓶と書かれていたものが、今はすりつぶした薬草二つに純水、小瓶へと変化していた。
レシピが変わったことで何か変わったのか試しにと簡易調合をすりつぶしていない薬草とで行ってみると、薬草をすりつぶしていないのに店売りと同じ回復量の初級ポーションができた。
一度すりつぶした薬草を使ったポーションを作ったから、事前に準備しなくても簡易調合内で薬草をすりつぶすという工程が入ったのかもしれないなと予想とたてる。別のレシピをゲットしたときに試してみよう。
持っている薬草で初級ポーションを作れるだけ作っておく。
なんとなく毒草でポーションと同じような工程をとったら、毒ポーションができたので何本か作成してそっとインベントリにしまっておいた。毒物にポーションって名前がついてるの違和感あるな。
「初級ポーション作れた?」
「うん、とりあえず作れるだけ作ったよ。依頼に必要な分は少なくとも残すけど、それ以外だったら使ってもいいことにしよう」
「わーい、ありがたいよー。お兄に聞いたらやっぱりまだ露店売りとかのポーションしか買えないんだって」
「そうなんだ。戻ったらすぐに納品した方がいいかもね。焼け石に水かもしれないけど」
「道具屋は分からないけど、ギルドにだったら納品してから出てきてもよかったかもね」
「あんな時間にギルドあいてるの?」
「そりゃあいてるよー。職員の人が交代で対応してくれてるみたいで夜でも施設は利用できるようになってるよ」
「そうなんだ」
「あ、そだ。お代なんだけど」
「いや、いいよ別に。薬草とる間みててくれたりしたし」
「ダメ!です。こういうのはちゃんとした方がいいよ。他の人が見てたりするとアイツにやったんだから俺らにもタダで寄越せよっていう輩がいないとはいえないしさ」
「そんな強盗みたいなことある?」
「残念ながら」
「世紀末じゃん」
「そいつらの頭がね。いくらぐらいにする?」
「えー……、じゃあお店に納品するときと同じで200ノードでい」
「ただでさえ今供給少なくて金額上がってるんだから店で買うときの値段ぐらいには最低でもしようね!はい、1つ300ノード計算でこんだけ払うね」
有無を言わさず取引画面が表示された。
値段を上げることはできても下げることはできなかったから、なんだか悪いなと思いつつそれで了承した。
「そういえばチョッキ、さっきコールしてるときなんか濡れてなかった?」
「いやー、色々試してたらクリエイトウォーターを誤発して……」
「クリエイトウォーター誤発ってそんなんあるんだ」
「うん、なんか色々な形状にしたり、別の使い方できないかなって」
あとついでに魔力感知とか魔力操作とか生えないかなーっていうのもあって。
そういうと、なるほどねぇ。と言いつつ、スキルとして魔力感知や魔力操作をとるとどういう感じになるかを教えてくれた。
魔力感知は相手が魔法を使うときに察したり、ダンジョンとかで魔力のかかった装置とかに気づいたりなどできるらしい。そして魔力操作は覚えると魔法に必要なMPのコストが減ったり、魔法の効果が上がったりするらしい。
サラサラとよどみなく言われたので、若干内容が頭を滑った気がするけど、ざっくりと理解したのはこんな感じの内容だった。
なるほど。
ポーションのやり取りをした時点で、調合道具の片付けとかは終わっていたから、そういう会話をしつつ二人とも近くにいる狼やイノシシを倒す。
試しにさっき作れた毒ポーションを一本なんちゃって投球フォームでこちらに気づいていないイノシシに向けて上めに投げた。ボールを投げたり蹴ったりというのは問題なく普通に狙ったところにいけるから、投擲のスキルのおかげもあってか緩やかな放物線を描いてイノシシに当たった。
当たった拍子に小瓶が割れてイノシシに中身がかかったのが見えた。
大きな鳴き声を出して、かかった水分を払うかのように頭をぶんぶんと振ったあと、こちらに向かって走ってきた。
まっすぐにこちらに向かってくるから、大き目の石をイノシシめがけて投げてぶつける。イノシシ自身のスピードもあり、石があたった時点でイノシシはボン、と姿を消した。
「チョッキ今投げたの何?」
「さっきポーション作ってるときに毒草使って調合してたらできた毒ポーション、かな」
「毒なの?ポーションなの?」
「いやぁ、どうなんだろう。見た感じと鑑定結果的には毒物かな」
「毒草と肉とで毒団子作ったり、毒草と他の毒を調合したりしても投擲系のアイテムができるけどそれ系かな。まだある?」
「うん」
「一本欲しいな、いくら?」
「お金いらないから使ってどうだったか教えてほしいかな」
「んー、分かった。オッケー」
そう言ってニーナに毒ポーションを渡す。
解毒の効果があるものを持ってたら自分で毒ポーションを使ってみるのもありだけど、今は持ってないから自分で試すのはまた今度にする。
そうしてしばらく狩りをしたり料理をしたりしていると、再びニーナにコールがなり、そこから間もなく二人と合流することができた。