ニーナと初狩り。
北門を出たばかりのところは、パッと見た感じは南門と同じく広々としており木もところどころにしか生えていない。南門よりは草が生えている量が少なく、ところどころに密集して生えているところがあるようだった。
薬草採取とかはやっぱり南門で行った方がやりやすそうに見える。
門の外には夜の間も外で狩りをしていたであろう人たちがおり、開門すると街の中へと入っていった。壁付近に集まって夜を過ごしていたんだろうというのがニーナの見解だった。
β版の時は場所にもよるけど夜になると出てくるモンスターの分布とかが変わるようで、暗闇の中で活発に動くため、夜目のスキルを持っていないと戦うのは厳しいらしい。
夜目はまだ取ってないから夜に外に出る時は取らないといけないかな。
「さて、とりあえずは私の方がレベルも高いし、この辺のモンスターじゃもう旨味もそんなにないから、敵が出てきたらチョッキがまず戦ってみなよ」
何かあったらフォローするからさ。
メイス、というのだろうか。鉄の棒の先には15センチぐらいの鉄の塊がついており、それには棘がついている。そんな鈍器を肩に担いだ状態で笑ってニーナがそう言う。
わー見た目と武器のごつさのアンバランスすごいな。
初めに貰える旅人のメイスぐらいしかまだ同じ形状のものはないらしく、防具は揃えたけど武器は最初のものをそのまま使っているらしい。
とりあえず縄はいつでも使えるように、一種類は腰もとにひっかけておき、ナイフは手に持った状態で進む。
「この辺はどんな感じのモンスターが出」
「あ」
「っぶな!」
ニーナの方を見て話しかけたところに、何かが飛んできたのが見えてとっさにナイフで受ける。
正面を見ると、飛びかかってきたソレは狼だった。
受けたナイフを振るように動かすと、狼はその勢いを活かして少し離れた位置に着地する。腰を低くして低くうなる狼に、ウォーターショットを放つ。狼はそれを軽々と避け、再度飛び掛かってきた。
それを身体をひねるようにして避ける。
ウォーターショットにかかるMPは1回10必要だから、今のMPだと5回しか撃つことができない。さっきの動き的に確実に当たるタイミングじゃないと意味がないだろう。
でも、ウサギ相手にナイフが当たらないのに、それよりも動きの早い狼に私が普通に振ってナイフが当たるなんて今更思わない。
拾った中で大きい石を取り出してナイフを持っていない方の手で握っておく。
再び飛び掛かってきたが、今度は噛みつこうとしてではなく、前足から向かってくるようにしてだった。今度は避けるだけではなく、狼の勢いを活かすように、足を振りぬいて蹴りをいれる。蹴りを当てるために回避の動きが足りず、前足の爪が左脚にあたったが、そのまま左足を軸に右足を振りぬいた。私の足は狼の腹部に綺麗に入り、その勢いで少しだけ狼の身体が宙に浮いた。そのまま握った石を振りかぶり、思い切り頭に振り下ろした。
ギャンッという鳴き声と共に地面に落ち、足を踏ん張って起き上がろうとしたのでそのままナイフを首めがけて振り下ろす。
そうしてやっと、ボン、という音と共に狼は消えた。
「はー……びっくりした」
握っていた石をポケットへとしまう。
「……チョッキ」
「ん?」
「想像してた以上にスキル使うよりあるもの全てでゴリ押す感じの戦い方してたね」
「?そうかな」
「ナイフは持ってるけど、基本当たらないていで動いてる感じだったね」
「うん。今のところ動けなくさせてとかじゃないと当たったことないから」
「なるほどねー」
チョッキは靴とか手袋の手の甲部分に鉄板とか入れてもらうと戦いやすいかもね。
ニーナのその言葉に、確かに、と頷く。攻撃を受けるときとかに、ナイフで受けたり、勢いがある場合はナイフを手や腕で支えて受けたりするから、その部分に硬いものが入っていれば支えやすくなりそう。
まぁいまだに装備もなにから何まで最初のままだから、先に揃えるものがあるかもしれないけど。
「武器が当たらないってことで武器系のスキルとらないなら、何装備してても使える感じのスキルとか見てみると戦いやすくなるかもね」
パッシブ系のスキルとかさ。
「とりあえず夜にも動くから夜目とか、MP回復できると嬉しいから瞑想?とかそういうのどうかなとは考えてるかな」
「なるほどいいね!色々スキルはあるんだし自由に好きなのとって試すといいよ」
メイスを大きく振りかぶり、飛び掛かってきた狼を一撃で横になぎ倒しながらニーナは話し続ける。
最初の戦闘以降は、私一人で戦ったり、ニーナが戦うところを見せてもらったり、途中でパーティーを組んで二人で一緒に戦ったりしながら足を進めていた。
相手は狼やイノシシが主で、始まりの街の周辺にはモンスターというより動物、という感じの生き物の方が多いようだった。
途中、狼の動きに多少慣れてきて、私が狼の首根っこを掴んで地面にあった岩に向けて叩きつけたときなんかはどうしてそうなった!!ってツッコミを入れられたりもしたけど概ね問題なく進んでいた。
パーティー組んでてタンク役の人が、盾や身体全体で相手の動きを押さえるとかはあるらしいけど、普通は避けたらそのまま攻撃することが多いから、わざわざ手で掴み上げるなんて危ないことはしないことが多いらしい。
STRに振ってるわけでもないから、そうやって掴んで投げたり動きを止めたりできるのはそこまで身体が大きくない相手までだから、大きい相手には危ないから試さないようにと心配された。
確かにイノシシは掴めるところが少ないということもあって、掴み上げたりはできなかった。向かってきたイノシシの口から出ている大きな牙を正面から両手で掴んで踏ん張ったけど、結構な距離を地面に跡をつけつつ押されてしまい途中であきらめて離してしまった。両手で掴んでなかったら軽い交通事故みたいにはねられていたかもしれない。
イノシシに押されて離れていく私に、ニーナが「チョッキ―!!」と名前を呼びながら追いかけてきたのは、心配してくれたニーナには申し訳ないけどコントっぽくてちょっと笑ってしまった。ちなみにそのイノシシはその勢いのまま少し走っていった後、Uターンして走ってきたところをニーナのメイスフルスイングによって吹っ飛んで倒れた。豪快な戦い方は見ていて楽しい。
進む間ちょくちょく試しに作った回復量の少ないポーションを消費しながら進んでいたけど、ポーションは飲まなくても、ケガに向けてかけるとかでも一応効果があるらしかった。失敗して通常のものよりも何段階もまずいポーションなんかは、飲まずにかけることがあるらしい。
失敗作のポーションなんて何で買ったのかと聞いたら、それしか露店になく、しかも効果は店売りよりも低いのにはるかに高い値段で、仕方なく買ったらしい。
そんなもの買うなら私が作ったのに、と言ったらチョッキと会う前に買ったからさぁ、とちょっとぶすくれつつ言われた。大人になってからはそういう表情はあまり見てなかったからアバターとはいえ懐かしい気持ちになる。
「それにしても解体の効果がパーティーにも反映されるのは嬉しいねぇ。基本的に1匹倒したらドロップ1個ってことが多いのに、ここまででかなり色々ドロップ品貰えてホクホクだよー」
「そんなに違う?」
「全然違うよー。しかも捕縛の効果も面白かったし」
「あのロープの動きは中々ファンタジーめいてたよね」
「それね!」
そんな話をしながら近くに生えていた薬草を採取する。ニーナはこういう採取はあまりしないけど、私が必要だろうからということで採取の間は周囲を警戒しながら待っていてくれていた。
あまり生えてはいないとはいえ、見かけたらちょこちょこ取っているので、薬草類も割と数がそろっていた。これなら帰ってからまたポーションが作れそうだ。毒草は前回採取したけど何も使ってないから、新たに採れた麻痺草などと一緒に何が作れるか試してみるのもいいだろう。
ニーナが言っていた捕縛については、ニーナにも協力してもらって色々と試した。
弱らせた後というのがどれくらいの状態を指すのか。縄の細さなどによって捕縛可能になるタイミングは違うのか。体力の残りではなく足を攻撃した後など攻撃した部位によって捕縛可能のタイミングが変わるのか。縄がインベントリに入った状態でも使えるのか。捕縛が使える距離はどこからか、等々。
結果としては、縄は取り出していないと使用できないこと、縄の細さによって捕縛可能なタイミングは変わること、失敗すると縄が千切れたり反応しなかったりすること、攻撃した部位や方法によってもタイミングが変わること、近い距離でスキルを使うと自動的に縄が動いて獲物を縛ること等が分かった。
その間にいくつか縄がダメになってしまったけど、それもスキルを把握できたからいいと思うことにした。
また、捕縛したあとはインベントリにしまえること、インベントリにしまわずに解体スキルを使うと自動でインベントリに解体した部位が入ることなども確認した。また、パッシブとしての効果はパーティーに効果があるけど、生け捕り後の解体に関しては、一頭から解体したら取れる分がスキル使用者のインベントリにのみ入ることも確認した。
これはパーティーを組むときにスキルを使いたい場合は、ちゃんと了承をとったり配分について話ができる相手じゃないと揉めるかも、というのがニーナからの助言だった。
ドロップと解体品とで分けるのは難しいから、ニーナとはあとから今回の獲得物をまとめた後に分ける予定だから大丈夫だし、基本的に知らない人といきなりパーティーを組むようなレベルではないと思ってるから別に問題ない。
それにしても解体、めちゃくちゃ便利だった。一回生け捕りが必要だから、縄の準備が事前にいるけど、個人的には通常のドロップよりもウサギを解体したときのように部位が細かく分かれるのが嬉しい。
ただ、スキルとして解体をしたときは内臓などの売れずに捨てる部位はとれないようだったから、農家に持っていくことを考えると自力で解体する必要があるようだった。とりあえずやり方を聞きたいからと、イノシシと狼は両方とも二頭ずつ生け捕りにした状態でインベントリに入れておいた。インベントリ枠の圧迫感がすごい。
ニーナにも解体の仕方教えてもらう?と聞いたら、魚とか捌くのもちょっと苦手だから大丈夫、と言われた。モンスターを攻撃しても消えるだけだけど、解体は内臓とか自分で出したりするしね、苦手な人には難しいだろう。スキルは便利だからいいなとは思うんだけどさぁ、とちょっと拗ねたように言われたからいつでも一緒に狩りに行こうね、と言っておいた。
ニーナのところにフレンドから連絡が入ったのは、そんな話をしている時だった。




