門が開くまで
初心者用の錬金セットに入っていたのは、天秤と試験管5本、そして錬金板という名の鉄板のようなものだった。鑑定をしても素材は分からないが、錬金板の上に材料をのせてスキルを使うらしく魔力が通りやすい素材になっているようだ。
錬金のスキルを確認すると、最初に使えるのは『合成』と『分解』だった。
説明を読んだ感じ、同じ素材もしくは同種の素材をまとめる、まとめたものをばらすようだった。
あんまりピンとこない。説明文的には、こんな感じかな?ということで、先ほど座る用と作業用の下敷きにするために切ったウサギの毛皮の切り落とした部分を集めて錬金板にのせる。
魔力を通すというのはまだ魔力操作は取ってないからできないけど、スキルを使用したら問題ないだろうか。そう思い合成、と言いつつ錬金板に向けて手を向けた。
そうすると切れ端だった毛皮が、まとめて伸ばしたぐらいの大きさの一枚になった。サイズとしては通常の毛皮よりは小さいけど、切れ端よりは使い道がありそうな感じだ。
通常のウサギの皮は全部売ってしまったから、もう一度合成を試すことはできない。
今は手持ちで合成できそうなものがあんまりないんだよな。あ、そうだ。解体した時にでた背骨と、カタ部分についているろっ骨などの小さい骨は合成できるんじゃないか?
ただそれはカタ部分の骨は食べるときにトリミングするからって理由でまだ肉にくっついた状態だからすぐには試せない。
時間を確認すると、ポーションづくりで結構時間が経っていたようだったから、ろっ骨を取り除くのも兼ねて、錬金をやめて朝ごはんがてら料理をすることにした。
錬金や調薬の道具を片付けて、今度は料理道具を取り出した。先ほど加熱に使った火がまだついたままだからこのまま使えるだろう。……あ、箸。
先ほど食べたウサギの串焼きに使われていた串の持ち手のところは結構太いから、二つに割ったら細目の箸にできそうだ。やっぱ箸がないのは不便だし、外に出ないとちょうどよさそうな小枝も調達できないから、とりあえず即席で箸もどきを作ろう。一本目をロルフさんに返してなかったらそのまま2本で箸にできたんだけどね。言っても仕方ないからいいけど。
串の細い方をナイフで切り落として、持ち手側にナイフを当てる。何度かノコギリのように動かして刃の部分を少し入れる。行儀は悪いけど胡坐をかくようにして串を足で挟んで縦に固定し、ナイフの先を先ほど合成した皮で手を保護しつつ片手で押さえ、ウサギを狩っていたときに拾った大き目の石を片手にナイフの持ち手あたりにコンコンと当てて少しずつナイフを進める。失敗してナイフが外れたらもれなく足に刺さるし石が外れたら押さえてる方の手に当たるなぁ、と思いながら慎重に、かつ多少勢いをつけつつ進めていく。半分ほどナイフが進んだあたりで、これ以上は細すぎて怖い、ということでナイフを外した。横から切れ目を入れて勢いよくそこで串を折る。これでとりあえず細いけど箸もどきでちょっと使うには問題ないだろう。ちょっとささくれてるからそのあたりはナイフで鉛筆を削るみたいにして多少整えた。
強い力をかけたり、中身の多いものを無理に混ぜようとしたりすると折れそうだけど、普通に肉をいためたり混ぜたりするぐらいならこれで十分だろう。
手を洗ってからまな板にろっ骨のついた肉を取り出して、少しずつ包丁と手で骨を外していく。多少肉がついていても、後からスープにでも突っ込んだらいいだろう、ということでざっくりと作業をする。どうせ食べるのは自分だしな、と思うと雑に作業をしてもいいだろう。
肉から骨部分を取り除いたあと、炒めやすそうな大きさにぶつ切りにしていく。ぶつ切りにした肉に塩をふってフライパンで炒めていく。先ほど作った箸で転がしながら、火が通ったところでフライパンを外した。今回もフライパンから食べることになりそうだけど、気にしない。とりあえず1つ味見をする。うん、肉と塩の味だね。前回とは違って焦がしていないからその分今回の方が美味しい。
売れなかったし食用草も食べてみるか。フライパンはそのままに試しに薬草のときみたいにそのまま一口食べてみる。うん、青臭い。近い味の野菜は思いつかないけど、これは生食よりは火を通して食べた方がいいだろうという味だった。
ついでに薬草の根も洗ってからかじってみる。簡易調合のときは根っこごと薬草は消えたけど、自分で調薬するときは根っこを落としてから使っていたからそこそこ残っていた。今のところ使い道が分からないし食べられそうなら一緒に食べよう。
ボリボリといい音がする。風味は薬草に近いけど、薬草を食べたときよりは青臭さはない。なんとなく根菜系の野菜を齧っている気持ちになる。根っこだしな。
両手鍋を取り出して、クリエイトウォーターで水を入れる。先ほど取り外したろっ骨を全部入れて塩を入れる。こういうのってやったことないけど、まぁ煮込んだら食べれるだろう精神だ。骨は食べるんじゃなくて出汁用だし。毒がある食材を使うわけじゃないし。
初心者用の料理セットは全体的に一人用というか小さめの鍋やフライパンだから、沸騰するのもそれほどかからない。しばらく煮立たせてから、薬草の根っこと食用草をざく切りにしたものを投入。入れたものはアレだけど匂いは結構いい匂いがしてきた。豚骨ならぬウサギ骨スープだな。
「チョッキ!さっきぶり」
「あれ、ニーナ。もうそんな時間?」
たまにかき混ぜつつ煮込んでいると、ニーナに声をかけられた。
「ううん、まだ開門まではもう少しあるけど、やることも終わったしチョッキが何してるかも見たかったから早めにログインしたんだ」
「そうなんだ。買い物は無事できた?」
「うん、ポーション以外は概ねは」
「そっか」
「チョッキは料理してるの?」
「あぁうん。最初に調薬、そのあとにちょっとだけ錬金試して、今は料理……とはいってもただ焼いただけと煮てるだけなんだけど」
「でも結構匂いはいい感じじゃない?」
「そうなの?」
「うん」
「ニーナっていまお腹減ってる?」
「食べずにログアウトしたから結構減ってるかな」
「そうなんだ。じゃあこれでよければ」
フライパンから直食いで申し訳ないけど。と続けてフライパンを差し出す。
「ホントに?わーい!ありがとー」
そういってニーナは手でひとかけ取って食べる。
「お肉だねー」
「そうだね」
私も人のこと言えないけど感想が雑すぎて笑う。まぁ確かにお肉と塩の味だもんね。
なんちゃってスープもどきはどんなもんかな。道具屋で貰ったマグカップにそそいで……お玉ないから注げないな。気をつけたらいけるか?
先に箸で具材をマグカップに入れてから、中身が飛び出ない程度に両手鍋を傾けてマグカップに入れる。
飲んでみると、素材の味というか味付けが塩だけだから素朴な味がする。でも肉のうまみのようなものも感じるし、根っこも食べでがある。食用草の草の感じもお肉の風味でそこまで気にならなかった。あったかい物を食べるとホッとする。私はそれほど嫌いじゃない味だった。
鑑定してみると、相変わらず品質もレア度も1だけど、満腹度はマグカップ分で15回復。鍋にある分だとまだ何カップ分かはあるから全部食べたらそこそこの満腹度になるだろう。薬草の根を入れたけど、特に満腹度の回復以外には表記はなかった。
「……こっちも食べる?」
「ありがと!」
スープを飲んでる自分が気になるのかこちらを見ていたから、空になったマグカップにもう一杯具材とスープを入れて渡す。さすがに鍋ごと渡してどうぞとはできないもんね。
「あ、結構美味しいね」
「なら良かった」
「最初は肉を焼くぐらいが多いって聞くけど、これって何入ってるの?野菜とか売ってた?」
「ううん、薬草の根っこと食用草。あとさっきの焼肉の時に取り除いたウサギの骨が入ってるよ」
「根っこも気になるけど食用草なんて採取できた?」
「あぁ、えーと区分としては雑草かな」
「雑草」
「うん。鑑定したら食用にもなるって出たからとりあえず入れた」
「ちなみに根っこは?」
「薬草の採取のときにどう採取したらいいのか分からなくて根っこごと掘って採取したから、調合したときの残り」
「なるほどねー。ウサギの骨は解体したときの?」
「うん」
「なるほど、解体ができるとこういう感じにも使えるんだね。出汁?とかそういうの?」
「短い時間しか煮込んでないから取れてるかどうかは分かんないけどね」
「ううん、おいしいよ」
にこにこしながら食べてるから、おかわりもいるか聞く。美味しそうに食べてるのを見るとちょっと嬉しい。ニーナがスープを具材も含めて食べてる間に、私の方は焼肉を食べておく。
ニーナも食べそうだったからウサギ肉の追加も焼いておく。今度は量の少ない部位を焼いてみた。取れる量は少ないけど、部位が違うからそれだけでインベントリの枠を1つ使うからだ。今日はこの後新しい場所に行くから枠はあけておいた方がいいだろう。
塩で焼くのは一緒だけど、食べると先ほどの肉とはまた少し味が違う。焼肉屋で部位によって味とかが違うのと一緒だね。美味しい。タレがあったらもっと美味しいだろうけどないものは仕方ない。塩でも十分美味しいしね。
ニーナと目があったから箸で取った肉を近づけると口を開けたからそのまま入れてあげる。口に入れて何度か噛んだあと、驚いたみたいな顔をしてこっちを見た。
「これ!」
「口の中なくなってからね」
「ごめ。……これ、さっきとはまた違うね!おいしー……店売りのウサギ肉とは部位が違うのかな、こっちの方が好きだな、私」
「確かにさっきのとは部位が違うね。分かるもんなんだね。ニーナすごいわ」
「これは料理がしたい人は解体スキルか部位肉とか欲しいだろうなぁ」
「そうかな」
「うん、多分ね」
その後しばらくお肉とスープを食べて、お腹が満腹になったあとは片付けをしながらニーナと掲示板の話になった。
話をしながらスープで使った骨から肉が分離しやすくなっていたから指でこそげてから水で洗ってインベントリにしまっていく。その時点ではウサギのろっ骨という表記に変わっていた。もしかしたら骨を肉から取り除いた時点でそうなっていたかもしれないけど、その時点では鑑定を使い忘れたからよく分からない。
ニーナはログアウト前に掲示板にポーションの件を書き込んでくれたみたいだけど、興味を持って納品クエストを行うことにする人や、普通に自分で売った方が高く売れるからそんなもの知ったことか、という人など反応は様々だったらしい。
流れで道具屋の店員さんについても触れられていて、素っ気ないという話や、店で棚を蹴とばして怒鳴る人がいたという話、殴りかかろうとした人が警備を呼ばれて連れて行かれたことなどの話が出ていたらしい。
「私がいたときも商品投げて怒鳴ってる人いたよ」
「うわー、嫌だよね、そういうの。普通に不愉快だわ。そりゃ素っ気ない態度になっても仕方ないよね」
「うん。店員さん、後から態度悪くてごめんって謝ってくれたしいい人だと思うよ」
「チョッキの話聞いてたらそうみたいだね」
「うん。一応店売りと同じ回復量のポーションも作れたから後から納品しに行くよ」
「そうなんだ、普通にやってても回復量同じにならないって書いてる人いたけど」
「薬草をすりつぶした状態で材料揃えて簡易調合したらできたよ」
「そうなんだ、それぐらいのことなら他の人はちゃんと見つけて作ってるのかもね」
「そうなんじゃないかな?」
ニーナは最初に持っていた初心者用ポーションも、そのあとに買ったポーションもほとんど昨日のうちに使ってしまったようだったので、先ほど作った回復量の少ないポーションを半分ほどニーナに渡した。
お礼に、と装備を作成したあとに余った毛皮類などをくれた。また、知り合いに防具とかを作れる人がいるみたいだから、連絡して今度紹介してくれることになった。
二人でそうして話していると、気づいたら夜が明けたらしく周囲は明るくなり始めていた。門番さん達がやってきて、門を開ける。
「おはようございます」
「やぁ、おはよう。早速出るのか?気をつけてな」
挨拶したらそう返してくれたので、私もニーナも行ってきます、と手を振って北門を出た。




