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道具屋にて。

 

 料理や調薬などの初心者用の道具を購入したお店へ行くと、営業していたので中へ入る。

 扉を開けるとドアベルがカランカランと鳴る。喫茶店とか個人経営のお店とかでついてるけどドアベルの音ってなんか温かみがあって私は好きだ。


「こんばんは」

「ポーションなら売り切れだよ」

 カウンターに肘をつき頬を支えた状態でこちらをちら、と見ただけで視線をすぐに読んでいた本に戻し店員さんがそう言う。

 お店の中にはそういう仕様だからかホントにそうなのか、他にお客さんはいない。


 夕方だし沢山売れたんだね、そういうこともあるか。パン屋だって売り切れてたしな。


「そうなんですか、沢山売れたんですね」

 にこ、と笑いつつウインドウを操作する。

 やっぱりウインドウで表記される道具屋の商品の中には、解体用ナイフも生活用の魔法石も置いていない。


「それはそうと欲しいものがあるんですけど少しいいですか?」

 箸とかもないかなとお店に置いてあるものを見ながらカウンターの前に立つ。途中、品物が落ちていたから拾って棚に置いておく。


「……なに。MPポーションも売り切れてるよ」

「?そうなんですね。繁盛されてるようで何よりです」

 今日からサービス開始だから沢山人が来たんだろう。私も初心者用ポーションも残り少なくなってるけど、補充は調薬とかで自分で回復できるものが作れないか試してからでも別にいい。


「……何が欲しいんだ?」

「まずは解体用に使えるナイフが一振りあればと。あともし取り扱いがあれば生活魔法の入った魔法石も見たいです」

「解体用ナイフに魔法石……」


 店員さんはそこで初めて身体ごとこちらを向いた。


「?」

「アンタ、ダンの言ってた……」

「ダン?」

「ダスティンに解体教えてもらった旅人?」

「ダスティンさんですか。多分、そうですかね」

 ギルドで教えて貰ったことだし、他にも同じような人がいなければだけど。


「さっき買い物しに来るだろうからって話だけしていったよ」

「そうなんですか?」

「そういうことなら話は別だね。ちょっと待ってて」

 なんとなく先ほどよりも口調が和らいだ感じがする。にっと笑いながらそう言って店員さんはお店の奥へと入っていった。


 それほどしないうちに戻ってきた店員さんの手にはカバーのついたナイフが握られていた。サイズはギルドで貸してもらった物と大体同じに見える。


「はい。アンタには少しサイズが大きいかもしれないけど、今取り扱ってる解体用ナイフはこれだね」

「ありがとうございます」

 鑑定をすると、きちんと解体用ナイフと表示が出た。これは採取用と違って戦闘でも使用が一応可能のようだ。


「砥石とかもあるけどそっちは必要?費用はかかるけどこれぐらいのナイフならうちでも研いだりできるし、武器屋なら他の武器もメンテナンスできるけど」

「とりあえず研ぎ方とかが分からないので、今はいいですかね」


「それで魔法石だけど、なんの魔法石が欲しいんだ?」

「そうですね、値段にもよりますがクリーンは是非欲しいところです」

「クリーンね。……アンタそういえば昼間に調薬とか錬金とか料理のセット買ってったっけ?」

「覚えてるもんですか?すごいですね。そうです」

「他がポーションやらMPポーションやらを買う中で、三種類も買ってけばそりゃね」

「他にも生産する人もいるとは思」

「生産したい人は生産者ギルドで登録がてらセットを買ってく人が圧倒的に多いよ。わざわざうちで揃えていく人なんて稀だよ」

「……なるほど」


 そうか。私はまだ冒険者ギルドしか行ってないもんな。

 生産者ギルドでもそりゃ売ってるよね。各種初心者用セット。


「ともあれ、その辺やるなら加熱や冷却ができるヒートやクールもあると便利かな」

「うーん」

 確かに。クリエイトウォーターはもう使えるからいいとして、ライトは一応さっき魔法石に書かれていた式のようなものは書き写したからよくて、クリーンにその二つがあればダスティンさんが例に挙げた生活魔法は網羅できる。


「一応生活用ってことで質は低い魔法石で作れるからそれほどかからないとはいえ、一つ5,000ノードはかかるよ」

「ごっ」

「……何?高いって?別にぼってるわけじゃないから、気に入らないなら他に行きなよ」

「いえ!そういうのではなくてですね。その……今の手持ちじゃ全然足りないので」

「……あぁ。そういう。どのみち今は在庫がないし、必要な種類決めてくれたら準備だけはしておくけど?」

「じゃあ3種類とも準備だけお願いします」

「オッケー。クリーン、ヒート、クールの3種ね。用意しとく」


 火魔法ならすぐに取得しようと思えばポイントも余ってるからできるけど、結局生産しながら魔法を使うより魔力が入っている石で作動させる方が効率がよさそう。というか魔法使いつつ生産もするって器用じゃないと難しそう。

 あとリアルでのコンロのイメージだから、自分の手で火を出したり焚火を起こして作業したりするより作業がしやすそうだ。


 というかナイフの値段聞いてなかったけど値段によってはワンチャンナイフも買えない可能性ある。今いくら持ってたっけ。確認したら2,350ノードだった。


「ちなみにナイフのお値段も聞いてもいいでしょうか」

「なんでそんな言い方?戦闘にも使えるものだし結構いいナイフだけど、そんなに需要がないから700ノードでいいよ」

「通常は違うんですか?」

「本当なら1,000ノード。でも住人で解体する人はもうすでに自分のものを持ってるし、解体だけに使うならよっぽど壊れないから新しく買う人もいない。アンタら旅人でわざわざ生け捕りにして解体しようとする物好きも今のところいないし、少し前に多くの旅人が来たときもいなかった。ずっと在庫として持ってるのもちょっとね。在庫処分だよ」


 物好きとか在庫処分とか本人の前でいう?別にそんなに気にしないけどさ。安くなるならラッキーって話だし。


「需要とかで金額って変動するんですね」

「は?そりゃそうでしょ。仕入れが高くなったらその分高く売れないと意味がない。逆に売れないものは安くしないと在庫になる。ボク達も生活があるしいつでもどこでも値段一緒でなんてできないよ」

「そりゃそうですよね」

 売り切れがあるならそういうことも普通にあるだろう。

 あ、そういえば。


「あの、あとお箸とか生け捕りに使うロープとかもみたいです」

「箸?」

「そうなんです。料理セットには入ってなくて」

「あぁ。箸なんてその辺の木の枝をナイフで形整えたら使えるから入ってないからね」

 ちなみに生産者ギルドで買っても同じセットだから。

「枝ぐらいならナイフでも落とせるからそれでもいいのか。やればよかったな」

「箸とロープね。……ん?」

「?」

「生け捕りにして解体したんでしょ?うちでロープ買ってかなかったけどどうやって生け捕りにしたの?気絶させて腕で抱いて持ち込んだわけじゃないでしょ?」

 その装備と時間じゃ丈夫な蔓があるような植物があるところまで行けたわけじゃないだろうし。と続けられる。


 植物の蔓でもロープの代用になるんだね。なるほど。


「ウサギの皮を裂いて編んでヒモのようなものを作って縛りました」

「へぇ器用だね。……なんでロープの代用作る発想はあるのに箸はやらないんだか」

「ぐっ確かに……!」

「作ったヒモってどんな感じ?まだある?」

「作ったのは全部使ったのでないですけど、そんな時間かからないですね」

「良ければ時間あるなら作ってよ。どんな感じか見たい」


 店員さんがそう言いながらカウンターにロープをいくつか出してくれた。細いものに太いものなど様々だ。見ただけでは長さは分からないけど、どれくらいがいいかな。

 そんなことを考えつつ時間を確認したけど約束の時間には全然余裕がある。


「ここで作ってもいいんですか?ちょっと皮の切れ端とか出ますけど」

「いいよ。僕もクリーンなら使えるし」

「やっぱりいいですよねぇクリーン……」

 表でやるのが気になるならこっちきなよ、とカウンターの中へと手招きされる。


 まぁ他のお客さんが来たら邪魔になるしな。

 そう思って言われた通りカウンターの出入り口から入らせてもらう。すると、店員さんに呆れたようななんともいえないような顔をされた。


「どうかしましたか?」

「……いや、ダンからちょっと危なっかしいって聞いてたけど、何にも警戒せずこっちきたから」

「……えっ」

「別にボクは変なことなんかしないけど、会って間もない人間にホイホイついていくのはどうかと思うよ」

「え、えー……?」

「もっと警戒心持ちなよ」

「一応一般的な大人程度には持ち合わせているし危機管理はできてるつもりなんですが」

「気のせい」

「うーん……気を付けます」


 まぁ確かに、今はゲーム内だし別になくなるものもないし、リアルで生活しているほどは深く考えてない部分はあるかもなぁ、と同意しておく。

 別に店員さんとやり取りしてる感じそんな警戒するような要素ないんだけどなぁ。


 小さな丸椅子を出されてそこで作業するように言われる。

 店員さんが座っているところとは一段分床の高さが違ううえに、店員さんが座ってるのは背の高い椅子だったようで、案外ここからだとカウンターが高い。立っているときに胸あたりまでカウンターがあったから、渡された丸椅子に座るとカウンターの向こうはほとんど見えない。多分出入口からじゃ見えても頭ぐらいしか見えないだろう。カウンター近くまで来たら別だけど。


「じゃあ作っていきますね」

「あぁ」


 一声かけてから、ウサギの皮を取り出して、ナイフで裂いて編んでいく。何度か繰り返した作業だから、少しは慣れたのは最初よりは裂くのも編むのも時間は短くて済んだ。


「ちょっと短めだな」

「まぁ使ってるのがウサギの皮なので。裂いて編むとどうしても短くはなりますよね。これをいくつか繋げてロープみたいにして、手足を縛って生け捕りにしました」

「なるほどねぇ」


 店員さんが作ったヒモを手にとってまじまじと見たり、両端を持って引っ張ったり、動かしてみたりしていた。


「これ、ちゃんと綺麗に裁断して作ったら手首とか足首とかにつけたり鞄とかの飾り紐とかになりそうだな」

「そうですか?そういうのに使うならもう少し違う編み方の方が……こういう感じでしょうか」


 学生時代にレザークラフトに興味が出て体験教室に参加したりしたことがあるから、それを思い出しながら四つ編みでなんちゃって革紐を作る。

 私は割とすぐに違うものに興味がでるから道具は揃えずに、最初からカットされているものが入った道具がいらない初心者キットで作ったり、百均でなんちゃってレザーっぽい紐を使って編んでみたりしていた。

 興味がわいたり何かをやりたくなったりするのは、それきりだったり、定期的にまたやりたくなったりするから、2回目以降にやりたい期がきたら道具を揃えたりすることにしていた。

 仕事を始めてからは滅多にそれらもやらなくなったんだけど。


 サクッと作ったものは、ナイフで雑に裂いたものだし、きちんと加工したものではないからけば立ったりして見目はそれほどよくない。ロープとかで使うならいいけど、小物とか身に着けるものとしてはクオリティーがひどいだろう。


「革細工とかはやらないの?」

「せっかくだし今までやったことないものがやりたくて」

「料理は?」

「どうせ食べるなら美味しいものいっぱい食べたいじゃないですか」

「そりゃそうだ」


 はは、と店員さんが笑う。

 最初よりも打ち解けられたみたいで嬉しい。そういえばダスティンさんが持っていた鞄について聞いてみようかな。


 そう思って口を開こうとした時だった。

 勢いよく入口のドアが開けられ、大きな声が響いたのは。


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