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ダスティンさんの授業

「生活魔法、割と知られてるのは洗浄魔法のクリーン、明かりをつけるライト、水を出すクリエイトウォーター、加熱をするヒート、涼しくするクールあたりだな。

 その中で魔法石を買ってまで使うのは人によって違うが、中の魔力が無くなると補充が必要になって都度費用がかかるから魔法が全く使えない奴だと本当に必要なものだけ買うことが多い」

「クリエイトウォーターも生活魔法なんですか?水魔法ではなくて?」

「水魔法の一種だが、必要な魔力の量的に他の水魔法は使えなくてもクリエイトウォーターだけは使えるってこともあるから、使い勝手の良さもあって生活魔法の中にも数えられる。生活魔法ってのはギルドが定めたような正確な区分ではなく、分かりやすい分類としての呼び方だな」

「なるほど」

「だからライトも光魔法を覚えたら使えるし、ヒートは火魔法、クールは氷魔法を覚えたら初期から使えるようになる。ただ、氷魔法なんかは覚えるまでに時間がかかるから、別個で生活魔法として覚えることの方も多い」

「クリーンは?」

「クリーンはそうだな……あえて分けるなら水と風の複合って感じか?クリーン、として覚えたから俺は通常の流れで覚える場合どのタイミングで使えるようになるかあんまり知らねぇんだ」

「水と風となるとちょっと時間かかりそうですね」

「あー、かもな」

「そういうのはすぐに覚えられるものなんですか?」

「あー、さっきのスキル的に魔法の組み立てとか発動とか操作とかそういうのは詳しくは知らずに魔法使ってる感じか?」

「組み立て?水魔法がスキルで覚えてるので、その中で使える魔法を覚えていく感じです」

「異邦人の旅人ってそういうよく分かんねぇ覚え方するもんな。理論とかそういうの無しでも色々と使えるようになってるけど応用は利かない印象あるわ」

「そうなんです?」

「あぁ、結構前にも異邦人がたくさんこの街に来たことがあるけど、その頃はそういう風に見えたな」


 結構前、β版の試用期間のことだろうか。

 スキルポイントを使ってスキルを取得したらその時点で魔法が使えるようになる。レベルが上がれば使える魔法の種類は増える。

 確かにこの流れで、理論だの、成り立ちだの組み立てだのを考える人はあまりいないだろう。


「じゃあクリーンの魔法とかは風魔法?と水魔法を訓練しないと覚えられないんでしょうか」

「あーそうだなぁ、詳しい理論とかからだと時間かかるしな。……ちょっと待ってろ、試しにこっちを……」

 そう言ってダスティンさんは腰につけているポーチにごそごそと手を突っ込んで何かを探している。明らかに腕がポーチの深さ以上に入っている。


「ダスティンさん、そのポーチはそんなにたくさん物が入ってるんですか?」

「あー?20種類ぐらい物が入る拡張機能がついてるけど、これはそんなに容量ない方だな。ポーションとかすぐ出すには便利だけど」

 ごそごそしながらそう答えられる。


 鞄とかポーチにもインベントリみたいな効果があるものがあるんだな。普通に店売りとかしてるんだろうか。


「のわりには探してますね」

「あんま整理とかしてねぇもん、しゃーねぇ。っと、あった。結構前に使ったっきりだから奥の方にあったわ」

 ポーチから小さな巾着袋を取り出して、5センチぐらいの石をコロンと私に持たせる。


「これはライトの魔法が入ってる魔法石だ。持ったまま詠唱すると発動する。中になんか書いてあるのは見えるか?」

「えーと」

 渡された石を目に近づけてよく見ると、中にここの世界の文字のようなものが円形に書かれているのが見えた。


「なにか文字?が書かれているのが見えます」

「読めるか?」

「それが、話すのは問題ないんですが、文字はまだ読めないんです」

「そうか。とりあえず紙束に見たままの形、配置で書き写せるか試してみろ」

「あ、はい」


 何度かのぞき込みながら、メモ束にペンで書き写していく。最初から円形に書くのは難しそうだったから、最初に書いてある文字を横一列に書き写して、次はそれと石に書かれた配置を見ながら円形に書き写した。


「最初に文を移して練習するのはいいな。結構うまく書けてる」

「これはどういう意味ですか?」

 書き写した文字を指さすと、ダスティンさんがそれぞれの意味を教えてくれた。

『光』『直径』『3メートル』『照らす』『浮かせる』という意味が入っているものだった。

 素人がイメージするプログラミングみたいな感じがするね。そのまま書き写せっていうなら位置とか順番によっても何か変わるかもしれない。


「ライトの魔法。ただし文言に『動く』『追尾』とかが入ってないタイプだから置き型の明かりが出る魔法だな。部屋の中とかで使う分にはいいが、移動している時には持ってないと意味がないから使い勝手があんまよくない」

「はー……なるほど」

「紙とインクが魔力を通す特殊紙とインクだったら、ちゃんと書けてりゃ今書いた図を使っても発動できるんだけどな。そういうのは高いし、自分で覚えて発動できるならそっちの方が便利だし早い」

「そういう道具もあるんですね。これは普通にギルドで買ったものなので普通の紙とペンだと思います」

「だろうな。この書き写した図を思い浮かべて、手のひらを出してライトって言いながら魔力を出してみな」

「魔力を出す……?」

「あー、あー、そうだったな。……うーん、俺あんま魔法は教えるほど得意じゃないんだけど……とりあえず手」

「あ、はい」


 お手、というように手を出されたから思わずその上に手のひらをのせた。

 手のひらを握られて、そのままダスティンさんは目を瞑って黙ってしまった。


「……?」

 なんとなく手のひらが温かくなってくる。体温が移っただけではないポカポカとした熱さ。


「なんか、あったかいです」

「それが魔力だ。まずは魔力を感じられるようになれ。そして、それを意識して動かせるように。そうするとそのうち魔力察知、魔力操作ができるようになる。それができたら、ライトの魔法の成り立ちは今回の図で分かってるから、スキルがあろうがなかろうが発動できるはずだ」

「すぐには難しそうですね」

「ばぁか、俺や他の奴らが練習して勉強してやっと使えるようになるのにそう簡単にできるようになられてたまるかって話だ。それぐらい訓練しろ。その訓練してたら瞑想とかも効果が高くなるから魔力の回復が早くなるし悪いことはないだろ」

「分かりました」

「クリーンについても教えたいところだが、クリーンの魔法石を俺は持ってないから、一回道具屋か魔術師ギルド行ってきいてみな。多分冒険者じゃなくても生活に必要なものだし、魔力の補充とかもやってるから取り扱いあるだろ」

「分かりました。あいてる時間とかにちょこちょこ練習してみますね。また躓いたり相談したいことができたらお話しにきてもいいですか?」

「まぁ暇なときならいいぞ。受付で名前言って言伝してくれりゃいい」

「分かりました。ありがとうございます」


「あとはなんだったか……詠唱破棄と農場のことだったか?」

「はい。あと追加でメモをしてくれた文章の内容とか」

「詠唱破棄は、アレだ。魔力感知、魔力操作もできない奴がどうこうするには百年早いから、その辺できるようになってからまた聞きにきな」

「そうですよね、分かりました」

「農場については、ちょっと紙束貸せ。なんかざっくりとした地図とメモ書きあったからそこに書き加えとく。農場行ったら、俺の名前と解体したときに出た内臓を渡したいって伝えりゃ多分話を聞いてくれると思うぞ」

「分かりました」


 逆に言えばそれらを言わないと話を聞いてくれない可能性があるってことだったりする?

 気難しかったり怖い人だったりしたらどうしようかな。心の準備してから行こう。


 ダスティンさんが書き加えた地図を確認する。最初にぐるっと歩いていたときに見かけた住宅街っぽく見えた路地から入って、しばらく歩いたところにあるようだ。

 そっとウインドウを確認してマップを確認したら、紙束に書き込まれたものを確認したからか簡単な道と農場の位置が記されていた。簡易とはいえ手書きの地図を見たためか、屋台のおじさん、ロルフさんにお店とかを教えてもらった時とはまた少し違う反映のされ方だった。

 ウサギの解体のメモに対する追記は、メモの仕方がざっくりしすぎて読み返したときに分かりにくそうなところの補足だった。ダスティンさんが書いたメモ書きの近くに、どういう意味だったかをメモしておいた。


「もうそろそろ時間だけど、他にはあるか?」

「とりあえずは大丈夫です。また何かあったら会いにきます」

「そうかよ」

「今日は解体から始まってたくさん色々教えてくださってありがとうございました」

 椅子から立ち上がってお辞儀をする。


「別に。仕事だし」

 その割には解体以外のこともたくさん教えてくれましたけどね。口は悪いけど結構世話焼きだ。


「あと今日のダスティンさんが解体したものなんですけど……」

「だからいいって。追加で報酬なんていらねーいらねー」

「でも、」

「いいって。だったらアレだ。スキルに料理とか生産系のものがあったな?なんか旨いもんとかいいもんできたら俺に差し入れでもしてくれたらいいよ」

 だから今回のは全部お前がとっときな。


 手のひらを目の前で振っていらないというダスティンさんに、なおも続けようとすると、そんな風に言われた。

 そんなの私が知らない振りして無視したらどうするんだろう。いや、もちろんそんなことはするつもりはないけど。せっかく知り合いになれたんだし、まだまだ教えて欲しいことが沢山あるし。


「じゃあ、きっと美味しいものとか発見したこととかあったら会いに行きますからね。そのときはちゃんと受け取ってください」

「はいはい」


 時間だからと退室しようとすると、ダスティンさんはまだやることがあるのか、一緒に退室せずに、ヒラヒラと手のひらを振った。


 あ、そうだ。もう一個気になってることがあったんだった。


「ダスティンさん、最後にもう一つだけいいですか?」

「なに」

「……二回目にあんなに丁寧に教えてくれたのに、最初にあの豪快な解体作業をしたのはなんでか聞いてもいいですか?」

「あぁ!あれな。俺の趣味だ」

「え」

 椅子に座ったまま、振り返るようにして背もたれに腕をのせつつダスティンさんがからりとした笑顔でそう言った。


「俺があのやり方の方が楽しいから、だ。あとは血とか内臓とか大丈夫だから教えて欲しいってきたんだろうが、どこまで大丈夫か分からないからそれの確認も含めてだな」

 スキルもあるから多少適当にやってもちゃんと物は得られるしな。まぁそもそもウサギぐらいならスキルを使用するだけで一瞬で素材は得られるんだけど、今回は説明のため見せないといけなかったし。

 あぁやって思い切りやると結構すっきりすんだよ。

 生け捕りにしたのが二匹だったらやらなかったけど三匹だったからさぁ。な!


 そう言ってにっこりと綺麗な顔で笑顔を向けられる。

 色々突っ込みたいところはあったけど私も同じようににこっと笑顔を返して退室することしかできなかった。


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