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解体の見学

 

「ウサギを何匹か生け捕りにしたので解体作業ができる人がいれば紹介していただきたいんです」

「生け捕りにされたんですか?旅人の中では珍しいですね」

 やっぱり基本的にドロップしたものを売ることの方が多いらしく、少し意外そうにされた。


「本当は自分で解体したかったんですが、やり方がよく分からないのでもし解体作業ができる方がいれば教えていただきたいんです。……難しいでしょうか」

「解体されるのは作業場を借りる必要がありますが、場所の使用料を払っていただければ説明することは可能ですよ」

 こちらとしても素材の種類や量が増えるのは喜ばしいですから。

 そう続けられる。


 おや、量だけでなく種類も、ときた。

 やっぱり部位別にお肉とかが取れるんだろうか、楽しみだな。


「作業場は戦闘訓練に使用する場所とは違うんですか?」

「はい。戦闘動作を伴わない作業を想定しているため個室になっています。

 生産に関する作業ですと、生産者ギルドの個室を利用される方が多いですが、そちらが混んでいたりするとうちのギルドの作業場を使用される方もいますね」

「なるほど……。ちなみに利用料金とかはどのような感じでしょうか」

「訓練場とは違い2時間で500ノードとなっております」

「訓練場より少しお得になってるんですね」

「希望される人が多いわけではありませんから」

「ちなみに解体作業の実地での説明と、自分で行うのを見てもらうのってどれくらい時間がかかりそうでしょうか」

「そうですね、獲物の大きさにもよりますが、ウサギでしたら2時間もあれば時間が余ると思いますよ」

「説明する人の手配はすぐできそうですか?それとも少し時間をおいた方がいいでしょうか」

「少々お待ちください。確認してきますね」


 そういってお姉さんは席を立った。

 今の手持ちは先ほどの素材買取の金額も合わせて2,650ノード。解体の仕方を教えてもらえるなら500ノードぐらいならいいだろう。場合によっては教育代なんかも必要かと思っていたのだ。想定より安いすらある。


 しばらくするとお姉さんが戻ってきた。

「ちょうど手があいていたようなので、今からお教えできるようです」

「そうなんですか?よかったです、よろしくお願いします」

「部屋で待っていてもらっているので、案内しますね」

 そう言って席を立つ。

 カウンターと依頼ボードの間から進むよう促され、お姉さんについていく。案内された先には階段があり、二階へ上がるといくつか扉がある。

 全部作業場なんだろうか。


「それではこちらの部屋をお使いください。中に説明する職員がおります」

「ありがとうございます」


 そう伝えてお姉さんはまた戻っていった。

 ノックをすると、はーい、と声が聞こえた。


「失礼します。今回解体作業を教えていただけるということで嬉しいです。チョッキと言います。よろしくお願いします」

 扉を開けて部屋に入り、入口で挨拶をしながら一礼する。


「アンタが解体の仕方を知りたいって奇特な異邦人か。そんな堅っくるしい挨拶いいからとっとと入んな」

 そんな声が聞こえて頭を上げる。

 そこにはギルド内で初めてみるおね……いや、おに……初めてみる人がいた。

 性別はパッと見ただけでは判断できない感じの綺麗な人だ。でも声は少し低めで聞き取りやすい。口調と喉仏があるから男性だと分かった。


「俺はダスティン。チョッキ、だったか?今日はよろしくな」

「はい」

「早速だが、生け捕りにした獲物を出してくれるか?」

「はい。ウサギが3匹になります。とりあえず縛ってあるんですけど全部でしょうか」

「あー……まぁとりあえず1匹出しな。見本見せるから」

 そう言って部屋の中にある大き目の作業台をぽんぽん、と叩く。


 言われた通り1匹を取り出して台の上に置く。


「へぇ、これは……ウサギの皮か。編んでロープにしてんだな。長さを補うための結び目もしっかり結んである。これは自分でやったのか?」

「あ、はい。ロープが手持ちになかったのでとりあえずできるかなと試した感じで」

「なるほど。いいな。よくできてるんじゃね?」


 そんな話をしていたらウサギが起きて、動こうとする。

「こいつが起きてもヒモはほどけないし、縛り方もいいな。なんとなくでやったにしてはうまくできてると思うぜ」

「え、あ、ありがとうございます」


 一つずつ褒められて、少し照れくさくなる。こんな風に褒められるのって大人になってからはあんまりないから余計にだ。


 その間もダスティンさんは動こうとしているウサギに片手を載せて、倒さない程度に押さえている。


「……さて、じゃあとりあえず、俺の解体作業を見せるってことでいいな?説明は後からな」

「はい、よろしくお願いします!」


 作業が見やすいようにと、こっち来な、とダスティンさんが指さしたところに位置どる。手には最初に買ったメモ用の紙束とペンをもって準備する。

 ダスティンさんは私が移動したのを見てから、作業台の上のウサギと向き合う。


 ダスティンさんが取り出したのは大きい肉切り包丁。刃の部分が台形のようになっているものだ。切れ味がよさそうだな、とか、想像していたより大きいものを使うんだな、とか思っていたら、ダスティンさんはそのまま大きく包丁を振り下ろした。


 ダンッダンッダンッガッ


 そうして部屋に響くのは大きな音。

 まず首、お腹、前足、後ろ足、とぶつ切りになっていく様に、驚いてメモをとるのも忘れる。


 豪快だ。


 血抜きとかからするかと思っていたから、音と目の前の豪快さに驚いてただただ見ていることしかできなかった。

 グロ描写を中程度にしていたためか、血は飛び散るしダスティンさんの顔や服にも返り血が飛ぶけど、内臓とかは大きくは飛び散っていない。ちなみに見ていた私の方にも血がとんだ。


 ぶつ切りにしたあと、内臓、肉、皮と分けていく。

 皮は最初にぶつ切りにしたため、小さめだけどそれなりに同じような大きさのものになっていた。


 しばらくすると、音がやみ、ダスティンさんの動きも止まる。

 返り血で汚れた顔を袖口でぐい、と乱暴にぬぐったあとに、こちらを向いた。


「ま、こんな感じだな」


 振り向いて、に、と笑われる。


 思っていたのと大きく違います、ダスティンさん。

 でも目の前の作業台には、ドロップで落ちるサイズの肉ではなく、きちんと生け捕りにしていたウサギぐらいの量の肉だし、皮も、ドロップ品と比べるとくっつけたら量が多いように見える。内臓も、ドロップにはなかったけど、今は小さな山になっている。


「え、あ、ありがとうございます」


 私は質問したいこととか、色々頭に浮かんだものの、とりあえずお礼をいうことしかできなかった。

 そんな私の様子を見て、面白そうにダスティンさんは笑い始めた。


「え、え、あの」

「はは、すまん。驚いたよな。今からちゃんと説明するからそんなおっきな目ぇして驚いてんなよ」

 落っこちそう。と続けて私の頬にまで飛んだらしい血を指で拭われた。

 とりあえず解体していたときとのギャップで二重に驚いてます。


「それじゃ、説明していくな」

 説明は豪快にではなく丁寧に教えていただけると嬉しいです。よろしくお願いしますよダスティンさん。そんなことを思いながら「はい」と相槌だけうった。


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