始まりの話
【Neues Leben Online】当選のお知らせ
「……?」
それは忘れた頃にやってきた。タイトルだけ見たら迷惑メールのように見えなくもなかったが、携帯に届いたメールの内容を読んでいくと数か月前のことを思い出した。
迷惑メールと見まごうタイトルのメールではあるが、倍率がひどく高いため当選確率を上げるために協力してくれという友人からの依頼で応募したソフトの購入抽選の当選通知メールだった。
登録した際のアドレスが携帯でのものでよかった。パソコンのメールは宣伝とか諸々で重要そうなメールもほとんど流れてしまいチェックも追いつかないせいでほとんど見ていなかったから。
Neues Leben Online(ノイエス リーベン オンライン)。
VRを使用したゲームが少しずつ普及してきた中で、VRヘッドセットによるフルダイブ型のMMORPGだそうだ。
β版が出た際に話題になり、テレビでも取り上げられていたため私でも知っている名前だった。β版でのテストが終わり、ついに本格的にリリースされるということで第一陣のソフトが抽選での限定購入となった。応募時でその倍率は何百倍にもなると言われており、友人である倉橋仁奈(くらはしにな)に、倍率が高すぎて少しでも可能性を上げたいから「どうしても! お願い!!」と両手を合わせて頼まれ、一緒に操作して応募したゲーム購入の抽選だった。まさか当たるとは思ってなかった。
「ということで、仁奈、この間応募したソフト当たってたよ」
「……まっ、ホ、ホントに!? だって倍率めちゃくちゃ高かったんだよ!?」
「そんなに? すごいね、よかったね」
電話口でいつもより少しだけ高くなった声に、驚いているやら嬉しいやらという表情が見えなくても想像がついた。いつも変わらずに元気な仁奈に、少しだけ笑ってしまう。
「これって支払いも私の方で立て替えてしちゃっても大丈夫? 仁奈の方は応募どうだった?」
「ふふー、それね、夏希の分のソフトだよ」
「……? どういう意味?」
「私はねー、実はβ版に参加してたからその関係で最初からプレイできるんだ」
「は?」
そのあとの仁奈の言い分はこうだった。
β版に参加して、すごく楽しかったこと。五感全てで異世界を体感できて、かつ自由に自分のやりたいことができること。
倍率が高いからさすがに当たらないかもなとは思っていたけど、夏希も一緒に遊べたら嬉しいなと思ってダメ元で応募してもらったこと。
VRゲームに関心はありそうだけど私は自分からは購入したり参加したりしなさそうだと思ったこと。でも倍率が高い中当たったら、権利の譲渡も転売もできないから参加してくれるかもなと思ったこと。
「夏希さ、昔、って言っても学生時代だけど、いろんなことに興味もったり参加したりやってみたりってしてたじゃん?」
でも、働き始めてから少しずつそういうの聞かなくなって、話してる感じ、私と会う時以外はそんなに自分から外出とかもしてなさそうだし、元気なく見えるし、心配でさ。
少しでも息抜きにならないかなーって。
だってね、本当にすごいんだよ?家にいるのに、本当にいろんなことができるんだ。戦ったりするのももちろん、いろんな街や自然、生き物と触れ合ったり、物を作ったり、改造したり、商売したり、本当になんでもできるんじゃないかってぐらい自由でさ。いろんなことに興味もっていろんなことやってみたりしてた夏希ならきっと楽しめるんじゃないかって。それに現実の時間とゲーム内の時間の流れが違うから、少ししかログインできなくても体感長く遊べるし。だから、
「…だから、のんびりしたり、少しでも興味のあることができるんじゃないかって」
そう、思って。
「仁奈…」
「…ま、まぁあんまりゲームとかしない夏希でも、こういうゲームだったら一緒に遊べるかなっていう自分のわがままなんだけどね!」
‥ごめん、だますみたいなことして。
嫌だったら支払いしなかったらそのまま当選権が無くなるだけだから、そのまま放っておくかキャンセルしてくれたらいいから。無理強いしたいわけじゃないからさ。
その話し方と声色で、顔は見えてないけど、心配されていたことや気遣いからの行動だったのだと分かった。
確かに驚いたし、だまされたみたいではあるけど、当選して購入した人しかプレイできなくて譲渡できないってことは多分ちゃんと事前申し込みのところとかを読んでたら分かったことだし、仁奈に心配かけてたんだなぁって思ったら全然怒りなんてわいてこない。
むしろ心配かけるような態度をとっていた自分がどうなんだって話で。
仁奈がいうように、確かに大学卒業後、正社員として働き始めて、思ってた以上に働くって大変だし拘束時間が長いんだなって思ってたし、労働時間が長くなればそれだけ自分の時間や睡眠時間が短くなるわけで。最近何かに興味をもったり、ちょっと気になることがあっても行動に移すほどではないしなって流すことが増えてたし。自分でもちょっと身体だけでなく心も疲れてるのかなって思わなくもない。部屋の掃除とか自炊とかもそぞろになってたし。さすがに洗濯はしてたけど。
心配、かけてたんだろうなぁ。
友人のやさしさに、急な流れではあったけど電話ごしだから仁奈には見えないだろうけど頬がゆるんだ。なによりもその気持ちが嬉しかった。
「…仁奈。心配かけてごめんね、ありがと。せっかくだし、遊んでみるよ」
だからVRに必要な本体でおすすめとかお店とか教えてもらってもいい?
「!!!もちろんだよ!!!ありがとう!!!!」
そう続けたらめちゃくちゃ大きな声で反応されて思わずスマホから耳を離した。
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ソフトの購入振込。本体購入。ネットワーク環境の見直し。
VRゲームをするときの注意点や、基本的な操作の仕方等を仁奈から教えてもらってしていった。ソフトを購入したのに実際にプレイができないってのはもったいないから、”やらなければいけない”みたいに思ったらその辺りの行動は苦ではなかった。
多分多少強引にでもこうして仁奈が動かなかったら、ニュースで話題になってるのを見てもへぇって興味はもっても申し込みの時点で私はしてなかっただろうから。仁奈の行動力に感謝するべきなのかも。
本体とかも含めて初期費用が結構かかったけど、残業するわりに買い物にもそんなに行ってなかったから無駄に貯まってたお金のおかげでなんら問題なく準備は終わった。
準備のために何度か仁奈とやり取りしたけど、その中でRPGって小さい頃からどうしてもクリアできなくて、シミュレーションとか読みゲーとかしかやってこなかったからできるかな、と零したら、必ずしも敵を倒したりがつがつ先へ進む必要なんてないから大丈夫だよ。自由に、夏希の好きなことを好きなときにやればいいよ。別に私に歩調合わせる必要だってないしさ。……でも。たまには私と一緒に遊ぼうね?って上目遣いで言われてまた笑った。
せっかくだから、のんびりでもいいから楽しもう。
そして、必要だと思われる事前準備をし、リリース日を迎えたのだった。