1話 博士、その名もユーカリ
俺は取引相手の家へと足を進めて行った。名をユーカリ・ロベンジャーと言うらしい。
いつも売る側で、取引相手が来るのを待っていたのでこうやって取引相手の家に行くのは引きこもりだった事もあり、新鮮な気持ちだった。
俺の家は森から出た所にあり、ユーカリの家がある住宅街はとても遠かった。
遂に町まで来て、俺のテンションは高まっていた。
「なんか生臭いな。ゴミの臭いか?」
町には人がいなく、不穏な空気が流れていた。
「......あっ......」と驚きの声を呑んだ。俺は動くことが出来ないほどに驚いた。
俺の瞳に少女の死体が映った。
それも、ユーカリの家の前に。
「なぜこんな所に.......!?」
いつも外に出ないので状況が分からず混乱していた。
俺は驚きを隠せずにユーカリの家のチャイムを鳴らした。
しかし、誰も出ず、俺はドアを開けた。
「君かね。私の取引相手は。」
ユーカリは花に水をやっていながら立っていた。
「ここは一体?外の少女の死体はお前がやったのか?」
俺は汗を流しながら言う。
「ゴホン」と、咳をつく。そしてユーカリはニヤッと笑う。
「真実とは時に、一人で背負うには重すぎるものだ。さぁ、これが売る魔物だ。料金は後で良い。素直に魔物を選ぶのが懸命だろう。さぁ。」
「俺の質問には答えてくれないのか?」
「気にする事はない。さっさとモンスターを選びなさい。」
「.......分かった。」
俺は博士への疑いの心を持ってモンスターを選びにかかった。
机には3体の魔物がいた。左から蛇の魔物、龍の魔物、自然を操る魔物だった。どれも個性がある。
「何にしようか。とても迷うな。」
「ほっほっほ。どれも名産地で取った強力なモンスターなんじゃよ。迷ってしまうのは当然じゃ」
博士が微笑みながら言う。
「そうだ。君は転売者と言ってたね。私もやっているんじゃよ。この道30年。」
博士は興味深そうにように言葉を続ける。
「私は君がとても将来有望に見える。この後私と少しお茶でもしたいかね?」
「話し合いか。30年やっているあんたから誘われるとは光栄だが、俺には使命があってね。」
俺は断ろうとした。しかし、次の瞬間彼の放った言葉によって、俺の心は変わるのであった。
「君はこの世界の事をあまり知らないんだろ?なら博士である私が教えてあげよう。」
「....良いね。同じ職業同士熱く語り合おうぜ。博士。」
俺は承諾してしまったのである。何故か?それは俺が転売をして旅をしようとした1つの原因である。
記憶喪失で親もいない。俺は転売、という自分の長所を生かした仕事に就いた。でも、この仕事を一生して生きていてもつまらなかった。少しでも記憶が無くなる前のこと、親のこと、この世界の事を知りたかった。
だから、転売をして、一生暮らせる金を持って、その後に旅をしようという目的を持った。
俺が本当に求めているのは金の奥深くにある真実である。
なので真実を知ることを優先してしまった。
俺は真実を少しでも知れると思った瞬間喜びが止まらなくなった。
博士の目はとても黒く光っていた。
結局のところ俺はアイブという、龍の魔物を選んだ。料金も少し、他の人よりは高かったが、支払った。
ちなみに、魔物は引き連れて歩くのではない。(小さい魔物は引き連れて歩くこともあるのだが)魔物は小さい四角形の
箱に入れて持ち運ぶ。これで沢山の魔物をバックに入れられるってわけだ。
男気のある声でアイブは喋る。
「宜しくお願いします!!マスター!!」
黒く染まった毛がなびく。アイブはドラゴン系の魔物だが小さい。また、角が生えている。小さいので連れて歩くことも出来るだろう。
「マスター?なんでそんな呼び方なんだ?」
「俺っマスターのことは絶対守ります!!マスターは素晴らしい男なんです!だからマスターです!!」
「ほぉ....」
この忠誠心は博士に植え付けられたものだろう。だったとしてもこの忠誠心は出来ようのない。暴力などで恐怖を植えたりでもしなければ。
「よし、モンスターを選んだな。では最初のミッションを与える。」
博士は腕を組み軍曹のような立ち方で言う。
「ミッション?今日は取引と話し合いをするだけだろ?」
「ああ、そうだ。しかし、お前はまだまだ未熟者。ミッションがてらに外の様子を見てこい。」
「なんだそれ。外の様子を見てなにになる。」
この危険人物のミッション、死体だらけの危ない町を歩くなんて、罰のようだ。
「まぁまぁ、これから話す世界の現状を話す為に必要な材料なんじゃ。たまには年寄りの言う事も聞けんのか。」
なんだ博士?なぜ急にキレ出したんだ?
「コンビニでカップラーメンを買ってくるのだ!!!」
鬼のような形相で博士は言う。
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この時の俺は世界の現状も知らない未熟者だった。しかし、歳が反抗期な所もあって俺はとても苛立っていた。そして、俺はこのミッションを境に災難に巻き込まれる事になる。そもそも博士と出会ってしまった事が悪かったのかもしれない。
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「しかし博士。。。」
「五月蝿い。五月蝿い。」
博士はしんとした声で言う。
「つべこべ言わずさっさと行かんか!!わしは腹が減っテイルノダ!!!!!!!早く買ってこんかい!小僧!!!!!!」
怒鳴りつけるように博士は言った。
「ッッ!?わ、分かったよ博士。」
俺は博士の勢いに負けてせっせとコンビニへ向かう。
なんなんだ。あの博士。いきなり怒り出して。ムカつくぜ。真実を教えて貰ったら殺してやろうか。そんな事まで考えていた。
「マスター!!」
「アイブ!?そういやまだ箱に入れずに博士の家に置いていったままだったな。」
そう言うと、突然雨が降り出した。
「雨に濡れるとヤバいですからさっさとコンビニに行きましょう!この町のことは昔からいる僕に任せてついてきてください!!」
奴隷について行くのは変な気持ちだが、さっきの博士に比べれば、どうって事ない。
俺と博士の関係はこの雨のように薄暗くなっていった。