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夏空、食堂にて

作者: 刀鳴凛

「君と組んで随分立ったねぇ」と彼女は豚汁を仕込む。

 胡麻油で炒めたりしない、あっさりとした出汁で煮込むタイプの赤味噌風味。此れにも慣れて来た。

 

 椀と飯茶碗を用意しながら「そうだね」とのんびり答える。

 朝一番で仕込まれる豚汁は朝飯の定番だ。

冷蔵庫から小松菜のお浸しを出して、いつの間にか自分が任されている牡蠣醤油味の卵焼きの用意をする。


 やがて互いに出来上がる料理がテーブル席に並ぶ。

 欠伸を噛み殺す彼女が思い付いた様に海苔を炙り、無造作に割る。

「炊きたてご飯に焼き海苔は日本人の特権だよね」と彼女に笑いかけると「確かにね」と笑顔が返る。


 ゆったりとした寝る前の出来立ての豚汁はお客にはちょっと申し訳ないが、賄いの特権だ。

 七味唐辛子はお客からの土産で数種が並ぶ。

薬研堀やら有名処からスーパーで買えるミル式の挽きたてを愉しめる物迄、多種多様。気分で選ぶ。

 「リクエスト、出来たかもだ」と彼女に告げる。

「当ててあげよっか?」とニンマリ笑う時は何となく当たるんだよなと内心嬉しくなる。

 せぇのと彼女が言ったら同時にそれを言う。

 「「きんぴら」」

―綺麗にハモった瞬間、互いにニヤリとする。

 但し蓮根にするのか牛蒡にするかはスーパー次第だ。


 目が覚めてからの買い出しが楽しみだとか他愛もない会話をしながらの食事と食後のお茶。

 空気清浄機が稼働している真ん前に椅子を置いて一服をつける。

 

 「ビタミン剤置いとくから後で飲むのよ?」とピルケースの蓋を彼女が開けて、背後のカウンターに置く。

 

 もう何年だっけかなと徹夜明けの頭で考える。

夏は目前だと思った瞬間に浴衣の事を思い出す。

―確か、とんぼ玉の帯留めが売っていたっけ。

 贈ってみようかと薄く笑む。


 「戸口のハイビスカス、咲いたよ」と最後の戸締まり前の確認をしている最中にはしゃぐ彼女はそれなりに歳はとったが、それは自分も同じだ。

 「あーこれからも宜しくな、ねぇさん」

 「あいよ」


 世間一般の朝という俺達の夜は爽やかな空気と眩しい陽射しで世界を彩る―


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