1、無能と蔑まれた者
「本当にやばいよね。」
幼馴染の凛香が言う。その通りだ。同年代の奴らは能力をどんどん伸ばしていく中、俺だけは能力が圧倒的に低かった。
5歳児の能力のほうが高いのではないかというほど低い。成長はしているものの、他が10上がるところが俺は1しか上がらないといえばわかるだろうか。下手すると1も上がらない能力も存在した。とにかく能力が低すぎた。
レベルが上がれば個人に合った多彩なスキルが手に入るのも世の常だが、俺が持っているのは初期も初期の能力だけだった。
どうしてこんなに個人差があるのだろうか。
絶望というほかない。誰か俺を救ってくれ。
あと2年も経過し、15歳になれば成人として独り立ちしなければならない。能力やスキルで様々な職に就くのが普通ではあるが、俺の能力だとなんの職業にも就けない可能性が高い、高いというかそうなるだろう。いいとこ冒険者となって薬草を摘んでその日暮らしをするのが精いっぱいだ。
そして月に一回の能力測定の日がやってくる。バカにされるのが嫌でこの日だけは休みたくなる。少しでもいいから上がっていてくれ。能力よ。
「最悪あんたのことはあたしが養ってあげるわよ。専業主夫なんていい身分じゃない。家事やっとけば生きていけるんだから。」
「・・・男としてそれはなぁ。」
「現実を見なさいよ。あと2年しかないのよ。能力だってその調子で上がっていたら独り立ちなんて無理よ。特にあんたはレベルだって上がりにくいんだから。」
そうなのだ。素の能力が低い俺はダンジョンに入って魔物と戦ったとて、能力最低値のウサギモドキくらいしか倒せないのだ。他の能力が高い連中と比べて、レベルの上がるスピードが遅い、能力が上がらない、レベルが上がるのが遅い、スキルも手に入らないの三重苦なのだ。親は優しく、無理しないで、家の手伝いをしていればいいと言ってくれていたが、どうにか周りに一矢報いたいというのが俺の思いであった。
「とりあえず能力を確認してからだな。いきなり上がってるかも・・・。」
「そんなわけないじゃない。レベルが上がればあがるほど、上昇能力が少なくなっていくというのは世の中の基本よ。」
「うるせいやい。」
そして凛香と共に能力測定へ向かう。
能力測定の会場はすでに多くの学生でにぎわっていた。楽しみにしている者が多いのだろう。そりゃあ、普通の奴らからすれば、自分の一か月の能力の向上が確認できる日だ。俺みたいな落ちこぼれ以外は楽しみなのは当然だろう。そんなことを考えていると前から嫌な奴らが歩いてきた。
「おー落ちこぼれの藤代くんじゃないかー。また外崎さんといるのか。ヒモみたいな奴だな君は。よくこの会場に来られたね。」
「あんまり構うなよ新城。お前が凄いのはわかってるから。」
「藤代、お前新城さんが声かけてやってんだからその言い方はないだろ。謝れよ。」
「いいんだよ五味。あいつだって頑張ってやってんだから。ねぇ外崎さん?」
「新城くん。ありがたいけど、仁のことはほっといていいよ。あたしとタッグ組んでるし。」
「そうですか。俺も五味みたいなやつじゃなくて外崎さんとタッグ組みたかったな。五味も俺も戦闘タイプだから外崎さんみたいな貴重な回復タイプと組んでればもっとダンジョン攻略が捗ると思う。」
「ちょ、新城さん、俺は必要ないってことっすか。」
「もちろん五味の魔法はすばらしい。将来的に考えてだ。五味の魔法と俺の剣技、そして外崎さんの回復とサポートであと一人でもいれば、かなりいいパーティになると思って今から声をかけているんだよ。」
「そういうことっすか。」
「外崎さん。よければ考えておいてほしい。」
「もうわかったから。とりあえず放っておいて。」
「よろしくね。」
新城と五味はその場を後にした。
新城は学園の中でもトップクラスの剣士だ。幼少から神童と呼ばれ、高等部の1年どころか3年まで入れても能力は10本の指にはいるだろう。
そのくらいすごい奴だった。ただ、性格は温和そうに見えて最悪なのを俺と凛香は知っている。人の手前ではあんな感じだが、基本的にひどく相手を見下している。
「さて、あんなの気にしないでいいわよ。さっさと能力測定に行きましょう。」
能力測定は、学園や各地にある測定器を使う。学園のは特別製で測定した結果が巨大モニターに映し出され、さらに学年ごとの能力を数値でトータルし、順位で表示される。能力の高い者からすると自分を誇示できる場となるが、低い者からするとただ晒される最悪の場だ。ちなみにおれは初等部・中等部から最下位から抜け出したことがない。
順番に名前が呼ばれ測定する。新城の番になり、周りが能力値を見ようとモニターの前に集まっていた。
新城 直政
レベル 37
チカラ 687
マモリ 584
ソクド 599
マホウ 234
スキル
剣技Ⅲ(300)、鉄壁Ⅰ(125)、剛剣Ⅰ(250)、強化Ⅰ(100)
総能力2879
会場から歓声が上がった。高等部1年の能力平均が1000くらいだからその約3倍の能力値ともなれば歓声が上がるのも当然といえば当然だ。
その後、五味の能力測定が行われ総能力が1500くらいだった。それでも平均からかなり高いので、奴らが一目置かれているのもわかる。
そして凛香の番がやってきた。
外崎 凛香
レベル 18
チカラ 101
マモリ 156
ソクド 112
マホウ 494
スキル
回復Ⅱ(400)、強化Ⅱ(200)、聖魔法Ⅱ(400)
総能力1863
凛香もかなりの能力だ。もちろん俺は凛香の高能力を知っているから驚くことはない、低レベルながら学年5本指に入る能力の凛香が俺みたいな低能力と一緒にいることを陰で悪く言われているのも知っている。たしかに新城と一緒にいればレベリングも早くなり、能力は更に上昇するだろう。俺は凛香にそれを言ったこともあるが、凛香は頑として俺とのタッグを辞めようとしなかった。それどころか怒られた。
「相変わらず回復系統のスキルの評価は高いな。レベル高ければ新城より総能力高くなるんじゃないか?」
「そうかもね。でもこのままでいいわ。」
続いて俺の名前が呼ばれる。
「・・・いってくるわ。」
「周りなんて気にしなくていいわよ。」
藤代 仁
レベル 9
チカラ 27
マモリ 26
ソクド 32
マホウ 14
スキル
強化Ⅰ(100)
総能力199
会場から笑いが上がった。そりゃあそうだろう。平均の20%にも達していないのだ。終わっている。
「だまりなさい。」
測定係の教師が一括し、すぐさま会場が静かになる。
「さて、全員が終了した。ランキングを発表する。」
結果は全100人中、新城が1位、凛香が3位、五味が13位、俺は当然ながら最下位だ。しかも99位とも400以上能力が離されている。
「前回からなんとかレベル1上げたのに相変わらず能力がほぼ上がってなかったわね。」
「そういうなよ凛香・・・。絶望したくなる。ウサギ2000くらいは狩ったぞ。それでレベル1て、しかも能力ほぼ変わらずって・・・。」
「まだわからないじゃない。レベル10になれば新しいスキルが手に入るかもしれないし、あたしも強力するから。」
「本当にお前はいい奴だな。涙が出てくるよ。」
「あんたとあたしの付き合いだし、構わないわよ。」
各自が各教室に戻っていく。周りは相変わらず俺をちゃかすが、クラスメートたちは気のいい奴が多く、バカにしたというよりはいじってくる感じだ。一部を除いてだが。
能力測定の日は午前中で学校が終わり、授業もないので、すぐに解散になった。ただ、俺と凛香は担任に呼ばれ、指導室へと向かうことになったのだ。
「なんだと思う?」
「さぁな、お前とタッグを解消しろとかじゃねぇか。」
「・・・ありえるかも。」
「え?まじか?」
「可能性としてはね。」
心臓が高鳴った気がしたまま、俺達は指導室へ入った。